1-11 鎮火
燃料タンクの爆発による凄まじい衝撃から立ち直って、サラの目に入ったのはその惨状。
ガレージ内は銃撃と魔術によって荒れてはいたものの、もはやそれらの痕跡すら吹き飛ばしてしまっている。
「嵐が過ぎ去ったみてぇな惨状だな」
あの爆発でサラに目立った負傷が無い為に出た他人事のような発言は、誰に聞かれることも無く消えてゆく。
それなりに残っていた筈の〈モーターヘッド・ギャング〉のメンバー達は大部分が爆発に巻き込まれ、生き残った殆どが息を潜めるなり逃亡するなりして、戦意を喪失してしまっている。
「ク、クソが……イカレ女がよぉ」
「おいおい、まさかまだやるつもりかよ?」
しかし銃を構えたままの者もほんの少数、血を流しながら気合いだけで立ち上がってサラの前へ立ちはだかる。
「別にアタシは全滅させようってワケじゃないしさ、ここらで手打ちってのはどうよ?」
「テメェから仕掛けといて言いやがるじゃねぇかよ……」
「でもここらが引き時だって。それにもうアンタらに支援魔術掛かってないだろ」
そう既に魔力の光はガレージ内の何処にも見当たらず、たとえ戦闘を再開してもギャングにとっては先程よりも不利な状況になるだけだ。
それに魔術が解けたという事は、術者であるターボヘッドがなんらかの理由で魔術の継続が不可能になった事を示している。
状態の分からないボスを放置して戦うか、サラとネウマを見逃して仲間の救助に当たるか……元凶であるサラからの提案ではあるものの、立ちはだかる彼等にも正解は分かっていた。
「あぁ、あぁクソ……俺の独断で決めていいのか?でも負けるだけだろ……分かった、よし!おいクソ女、さっさと消えやがれ!」
「はいよ、クソ女帰りまーす」
踵を返したギャング達を見送って、改めて周囲の惨状を見るサラはその破壊の激しさに自分の事ながら少し引く。
車両は横転して機材は散らばり、人は下敷きになっている。
火は未だ燃え上がり、サラのある場所は比較的に無事ではあるものの衝撃波の通過を感じさせる状態だ。
「ヤバ……くない?ネウマ生きてんのか?コレ」
最後に見た時にはターボヘッドの横で拘束されていた事を思い出し、背筋に冷たいものが流れる。
あの場所は爆発にも近かった筈だ。
ターボヘッドが魔術を使えなくなるような状態になるのなら、ネウマも当然──
「──い、いや。いやいやいや……助けようと行動したってのが重要だしな……?うん」
「さぁぁぁらぁぁぁさぁぁぁぁんっっ!!!」
「おぉっ!?」
地の底から響くような声に、サラは思わず声を上げて周囲を見回す。
そうして発見したのはヘルメットを被って危険から身を守ろうと伏せていた、涙目のネウマ。
今にも決壊しそうなほどに涙を蓄えて、その目は涙以上に歓喜で輝いていた。
「助けに来てくれたんですね!!」
「お、おう。まぁな」
煤や埃に塗れた状態のネウマは飛びついて、サラへと抱きつき力強く抱擁する。
バフリと細かい粒子が舞っていて、サラは思わず顔を背けるがネウマは構わずしがみついて離れない。
「まさか助けに来てくれるなんて……正直期待しつつも無いだろうなぁって思っていました」
「アタシも無いなぁって思ってたけどさ」
「?ならどうして来てくださったんですか?」
「んー?まぁ、アレだ。似てたんだよな」
「似てた?」
ネウマが首を傾げると、髪についた埃などが舞い散って大変煙たい。
サラは軽く咳払いして、ネウマの頭を左手で掻き回して埃を払う。
「そ!アタシもそんな風に薄汚れたきったねぇ状態で、何も分からんまま心細く彷徨ってたんだよな」
「うわわわわ……サラさんがですか?」
今の独立した傭兵としての芯の強い印象からは想像しにくいが、時折見せる心の柔らかな部分はそういう事だったのかと、掻き乱されたボサボサの髪でネウマは納得する。
表面上気丈に笑って見せてはいるが、目の奥には不安や恐れが渦巻いて、それはサラがネウマを通して過去の自分を見ているからなのだ。
「そ、アタシが。これでその時受けた恩を返す代わりに助けたとか、色々カッコいい理由言えたら良いんだろうけどさ……正直アタシ自身の為にやってんだよな。弱かった過去を振り払いたくて、もうあの時とは違うんだって思いたいだけの自己中心的な理由で助けてんだよ」
サラはかつての自分をネウマの向こうに見て、少しの居心地の悪さを感じて頭を掻きながら、自罰的に薄ら笑いを浮かべる。
そんな回りくどく斜に構えたサラに対してネウマは堪らず声を上げてサラの手を取った。
「もぉー!でもあのまま捕まったままよりは断然良かったですよ!明日はなんか上手くいって満ち足りた生活を送れるかも知れませんし!それにほら!こうして助けに来てくださったんですから!貴女が自己中心的な事に負い目を感じるなら、私もそうなります!私は沢山の人の命を奪う形で助けられました……でも私は自分が生きている事に安堵を感じています。これはとっても自分本位な考え方でしょう?」
サラに寄り添うようにネウマは優しく微笑み、目を合わせて語りかけてサラを肯定する。
そうするとサラは恥ずかしそうに顔を逸らして照れ笑いで誤魔化そうとする。
「ま、そうだよな……この街で生きていくんだったらそのくらいが丁度いいか」
「えぇ!そうですよ!そんな自分本位な私の意見を空気を読まずに言わせていただけると、さっさとこの場を離れて安全な場所に行きたいです!」
「ハハッ、それもそうだな、落ち着かねぇもんココ」
そう言ってサラは周囲を見渡し、ガレージの入り口近くにあった為に弾丸を喰らってはいるものの、爆発からは無事逃れる事が出来た自身の愛車である霊柩車を見つける。
「おぉ!無事だったか!……そういやネウマよく無事だったな?」
「サラさんが引き起こした爆発ですよ……?私はほら、隙を見て抜け出して隠れてたんですよ」
「縛られてなかったか?」
「サラさんと初めて会った時にナイフ拾ったじゃないですか、アレ隠してたんです!」
「ちょいちょい抜け目ないよなぁお前」
誇るように胸を張るネウマに、サラは感心半分呆れ半分といった表情をして笑う。
埃や煤にまみれた2人は、それを気にすることもなく同じく埃や煤にまみれた車に乗って僅かに安堵する。
まだ日の出ている時間だが、働き詰めといった具合に疲れた体をシートは受け止めて、サラはエンジンを掛けるまでに少々時間を要した。
「さぁ帰りましょうか、サラさん!」
「疲れた体で運転したくねぇなぁ……」
ぼやきながらも発進させた霊柩車の心地良い加速に、仕事終わりを実感してサラは筋肉の強張りが解れてゆくのを感じた──
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次回更新は明日、21時22時です。




