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銃だって斬撃くらい放てるんですよ?〜老兵紳士の異能戦記〜  作者: はぢゃ
第一部:ラヴァーエン編
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ep9:公爵

時刻は正午。カウンター席にて、身なりの整った男と、華奢ながらもどこかミステリアスな雰囲気を纏った少女が昼食を共にしていた。男の方はこの「Baphomet」というバーの経営者を務めるヴェネット・ダイナー、少女の方はそのヴェネットに助け出され、そのまま引き取られたメリィ・ダイナー。話すのが苦手なメリィを気遣い、ヴェネットはただただ微笑んでスープと小ぶりなパエリアをメリィに与えた。自身はコーヒーと少し香辛料を加えたパエリアを口に運んでいる。すると、「close」と書かれた板が掛けてあるにも関わらず、店のドアが外から開かれた。そこでは先日と同じように、場に似つかわない厳かな男が憔悴した様子でドアノブを握っていた。


「…やれやれ、最近開店時間に見境なく入ってくる方が多いですね…で、今度は何の御用ですか?アトラスさん。」


「おぉ…ヴェネットよ…」


「アトラスさん」と呼ばれた厳かな男は、表情こそしおれているが、れっきとした王国ラヴァーエン6代目国王、アトラス・ラヴァーエンである。普段はどっしりと構えているアトラスだが、この時ばかりはどうもそうはいかないらしい。戸惑うメリィを尻目に、ヴェネットは国王兼旧友の彼をテーブル席に着かせる。


「はいはい、まずは何があったのか教えて下さい。」


「…ヴェネットよ、ルーロ・ヨナハレイというバカ公爵を知っておるか?」


ゆっくりと話し出したアトラスの口から出た名前には聞き覚えがあった。貿易一筋で莫大な資産を築き上げたヨナハレイ家の新しい当主であり、アトラスの娘、シャニータ・ラヴァーエン王女を溺愛している自意識過剰な青年である。


「はい、彼がどうかしましたか?」


ミントを添えた紅茶をアトラスの脇に置きながらヴェネットが問う。


「奴め…忠告も制止も一切聞かずにまた勝手なことをしようとしておる…」


「ふむ、その"勝手なこと"とは?」


するとアトラスはティーカップにも触れずに席を立った。


「悪いが少し付き合ってくれ、広場の方が騒がしくなっておる。事の詳細はそこで明らかになるであろうな。」


そのままアトラスとヴェネットは店を後にする。取り残されたメリィは自分と同じように取り残されたティーカップの片付けを始めた。


「さて、ぞろぞろと民衆も集まっておるようだが…」


「ええ、このような爆音が街の中央からすれば、まぁこうなりますよね。」


そう言った2人の見つめる先には、民衆の注目を惹きつけながらも主人の登場を彩る豪華なファンファーレと、紙吹雪を纏うルーロの姿があった。


そしてルーロが「オッホン!」と、分かりやすい咳払いをすると、たちまち湧き立っていた民衆が鎮まり返った。


ルーロが堂々とした態度で壇上に上がる。普段から国王のアトラスぐらいしか使わないような注目の1番集まる場所に設置されたあの壇上にだ。


「よくぞ集まってくれた!皆の衆!」


広場全体に聞こえる程の大声でルーロがそう言い放つと、民衆はルーロの台詞に連動しているかのようにどっと歓声を上げる。その様はまるで皇子のような出立ちで、十分様になっているものだった。


「ふむ…アトラスさん、「バカ公爵」と称している割には民衆からの信頼が厚いようですが?」


「奴は舌だけは回る男だからな。演説の腕だけは確かだ。」


アトラスの言った通り、その後の演説は民衆の希望となるようなものだった。


「心配する必要は無い!」


「この事態はあの忌まわしき魔王の仕業であろう!」


「皆の安全はこの私が保証する!」


「私が!」


「勇者となり!」


「見事魔王を倒してみせよう!」


自らを勇者だと名乗りレイピアを掲げるルーロに、民衆は更に大きな歓声を上げる。中には手を合わせて涙を流す者や、黄色い声をあげて卒倒する者まで現れる始末だ。


「くっ…何を勝手なことを…」


言うまでもなくアトラスは額に青筋を浮かべてわなわなと拳を握りしめている。そこをヴェネットがなんとか宥めながら問う。


「ところであの演説、止めなくてよろしいのですか?」


「いや、止めようにも民衆や奴の関係者は皆ルーロが勇者であると信じて止まないであろう。とりあえず、今一度ヴェネットの店へ戻るぞ。」


怒り心頭ながらも冷静に、アトラスは店の方へ歩みを進める。ヴェネットはそこをやれやれと着いていくしか無かった。


しばらくしてまたアトラスが元の席に着くと、メリィが紅茶を盆に乗せてぎこちなく歩いてきた。


「おやおや…メリィさん、お茶を淹れ直して下さったのですか?」


ニコニコしながら聞いてくるヴェネットに、メリィは赤面しながらこくりと頷く。


「あー…ヴェネット、先程から気になっておったのだが…この幼子はどうしたのだ?」


メリィからティーカップを受け取ったアトラスに、ヴェネットがてきぱきと説明する。


「ほう…!この子が魔王討伐部隊にか!いやはや、この短期間で呪いの使い手を仲間に加えるとは…やはりヴェネット、お主が魔王討伐に適任だったな。」


「メリィはまだ呪いの力を使いこなせておりませんが、きっと強力な戦力になってくれるでしょう。ところで…」


ヴェネットが突然怪訝な顔で店の扉を見つめる。


「うむ?扉がどうかしたのか?」


そう言ってアトラスが扉に近づいた途端、その扉がバンッと大きな音を立てて開いた。そしてそこに立っていたのは、顔を真っ赤にしたルーロ・ヨナハレイであった。


[column]

《勇者》

代々魔王を討伐する為に王国を代表して魔王城に挑む魔王討伐部隊の中心人物のことを指す。それ相応の力のある者が王国会議で選抜されて決まる。

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