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銃だって斬撃くらい放てるんですよ?〜老兵紳士の異能戦記〜  作者: はぢゃ
第一部:ラヴァーエン編
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ep7:黒い華

「あれっ、マスター!起きてんじゃねぇかよ!あの子!」


「ううぇ…」


しばらくの眠りから目を覚ました少女は、寝起きと見慣れない光景が相まって困惑している。ヴェネットが居るからか、怖がっている様子は無さそうだ。


「おや、よく眠れましたか?顔色もだいぶ良くなりましたね。」


そう言ってヴェネットは少女の元に料理を運ぶ。盆の上には温かそうなスープと優しい香りのお粥が乗せられていた。


「さぁ、冷めない内にどうぞ。」


「お、さっきからしてたいい匂いの正体はそれか。」


少女は恐る恐るお粥の匂いを嗅ぐ。どうやら、その食欲をそそる香りに興味津々のようだ。お粥の湯気立った米粒には満遍なく山菜が散りばめられ、スープは金色に照り映えている。


「んっ……ぁわぁ…」


そして少女はスプーンを不器用に使ってお粥を口に運んだ。すると、少女の顔にみるみる生気が宿っていく。その反応から、言葉に出さなくとも感動が伝わってくる。


「ふふ…お気に召したようで何よりですね。」


「…な…なぁ、マスター。俺もあれオーダーしていいか?」


カルトスも舌鼓を打ちながらヴェネットの方に振り向く。


「ええ、かしこまりました。少々お待ちを。」


そうしてまたヴェネットの仕事が増えた。


少女がお粥とスープを食べ終える頃には、もうすっかり顔色が良くなっていた。カルトスも同様の顔つきである。すると、バーの扉の前から活気のこもった声が聞こえてきた。


「おーいマスター!予定通り来てやったよ!」


「おや、来てくれましたか。今開けますね。」


商店街で聞き慣れたあの声の主は、八百屋を営んでいるエラニアだった。どうやらヴェネットがお粥の材料を買いに行く時に呼んだらしい。


「いやぁ、マスターがアタシに頼み事なんて珍しいねぇ!マスターが手こずっているって事は…」


エラニアはそう言って少女に目を向ける。


「はい、こちらのお嬢様を湯船に浸からせて欲しいのです。」


「ははーん…やっぱり女性の事かい。相変わらずジェントルマンだねぇ。」


エラニアはしばらく顎に手を当てた後、パンッと手を合わせる。


「よし!共同浴場に行こうかね!」


威勢の良い発案に少女がたじろぐ。エラニアはそんな事お構い無しに少女の手を引いた。


「それじゃ、この娘はアタシに任せな!久しぶりに母性がくすぐられるね!」


「はい。よろしくお願いしますね。」


エラニアはそのまま少女の手を引いて店を出て行ってしまった。そしてヴェネットは食器の片付けを始める。


「やっぱエラニアさんは元気いいなぁ。魔法が消えてもいつも通りにうるさくて安心したぜ。」


カルトスも皿と食事代の銀貨をヴェネットに渡す。


「んでよぉマスター、マジック・ショックの件、まずはどうするつもりなんだ?」


「まず…ですか…そうですね、今は人員確保が優先的です。その内魔王城の方を訪れる事になるでしょうし。」


魔王城という単語にカルトスは目を丸くする。王国ラヴァーエンと何度も戦争を続けてきた魔王軍の本部に向かうというのだ。その言葉に驚かない方がおかしい。


「いやいやいやいや、そりゃこんな現象魔王が怪しいに決まってっけどさ!いくらなんでも…」


「大丈夫ですよ。調査に行くだけですから。」


「いやでもよぉ…」


カルトスの中で不安と心配が渦を巻く。そして、彼の眼差しが鋭くなった。


「よ…よし、俺も付いてくぞ。」


「…ほう、カルトスさんがですか。」


いつも冷静なヴェネットも意外そうな反応を見せる。


「おう、戦力には乏しいかも知れねぇけどさ、機械や魔法関係の道具には詳しいんだ。力にはなれると思うぜ。」


「今回の件は少なからず危険が伴いますが…よろしいのですか?」


「も…もちろんだとも。それに、歳がいってるマスターがギックリ腰にでもなったら誰がおぶってやるんだ?」


カルトスは冗談混じりに返答するが、魔物に怖気付いているのが目に見えて伝わる。それでも強がるのは、マスターとあの少女を思っての態度だろう。


「…分かりました。では、お手伝いしていただきましょうかね。よろしくお願いしますよ。」


「おぉ…ま…任せとけ…」


カルトスのまだ強がっている様子を見かねたヴェネットは、こっそりとカルトスの耳元に囁く。


「では、ほんのお礼としてですが、私の店で飲食をご提供致しましょう。いつでも当店にいらして下さい。」


そう言ってヴェネットは先程の食事代として出された銀貨をカルトスの胸ポケットに戻す。


「え!マジで!やるわ…俺頑張っちゃうわ…」


カルトスという男は何とも単純である。だが、ヴェネットの振る舞う質の高い食事がタダと聞いたら、口角を上げるのも無理はない。


「おーいマスター!帰ったよ!」


そんな話題を広げている内に、エラニアとあの少女が帰ってきた。

だが、扉を開くとあの少女の姿が見当たらない。すると、エラニアがニヤリと笑みを浮かべた。


「ふふふ…驚くんじゃ無いよ…ほら!」


「う…ぁ…」


そう言ってエラニアが横にずれると、エラニアの背後に隠れていた少女が現れる。そしてそこには、一輪の可憐な黒い華が咲いていた。


[column]

《エラニア・ウルシディ》

王国ラヴァーエンで1番大きい商店街で八百屋を営む活力に溢れた53歳の女性。この辺り一帯では皆から母親のように慕われている。

《共同浴場》

国民なら誰でも利用可能な広い温泉施設。男湯には療養効果が、女湯には美肌効果があるらしい。





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