表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銃だって斬撃くらい放てるんですよ?〜老兵紳士の異能戦記〜  作者: はぢゃ
第一部:ラヴァーエン編
3/29

ep3:ストレイ

「…ほう、国王ともあろう方が我々ストレイに頼み事ですか。」


どの家庭も昼食をとり始めているであろう刻、まだ開店時間には程遠い小さなバーで、マスターと国王が対話しているという異質な光景が広がっていた。


「ああ。魔法が使えなくなってしまった以上、頼めるのはお主らしかおらんのだ…。」


「ふむ…とりあえず話を聞かせて下さい。」


ヴェネットはアトラスに一杯のコーヒーを差し出す。


「魔法が消えてしまった王国ラヴァーエンは…このままでは破滅の道を辿ることになるであろう…。」


「まぁそうでしょうね。」


「一刻も早く魔法を王国ラヴァーエンに取り戻さねばならぬのだが…やはり魔法が使えないとなると調査のしようが無い。」


「そこで魔法を使わない我々ストレイに…ですか。」


「そうだ。もちろん、この国のストレイへの待遇が悪さは重々承知しておる。だが、このような事態になってはストレイがどうのこうの言ってられん。」


「確かに、魔法が使えないというだけでまるで罪人のような扱いを受けたこともありますし、今だって時々冷たい目で見られることもあります。」


「だが…だがヴェネット!お主ならやれる!お主の力は我がよく分かっておる!だからどうか…」


「はいはい…全く、よく手間がかかる所は昔と変わっていませんね。」


「おお…やはりヴェネットならそう言ってくれると思っとったぞ!」


国王の懇願にヴェネットが懐かしそうな眼差しで応える。一瞬、2人の間に過去とも現在とも言えぬ時間が流れた。


「で、具体的に何をすれば良いんです?」


「今の所はやはり魔王を疑っておる。これだけの規模の魔法を消す…いや、封じているのかもしれん。とにかく、険しい道だとは思うが…調査を頼めるか?」


「ほう…何代にも渡って、この国と戦争を重ねてきた魔王に…ですか。これまた骨が折れますな。」


「報酬は何でも出す!兵士だって惜しみなく付けよう!」


「兵士なんて何人付いても変わらないと思いますよ。それと、報酬ですか…」


「あ…ああ。何でも望んだものを出そう。」


「…では、この店に無いお酒を一瓶、お願いしますね。」


「え…酒一瓶…?」


予想外の要求に、アトラスが目を見開く。先程までの凛々しい顔になんとも言えない表情が浮かんだ。


「ええ。そうですが何か?」


「いや…ヴェネットがそれで良いなら良いのだ。では、なるべく早い解決を願う。失礼するぞ、我が旧友よ。」


「では、次会うときは是非客と店員として。」


小さな挨拶を交わし、アトラスが少し名残惜しそうに店を出る。


「…さて、承諾はしたものの、困りましたね。私のような老いぼれだけではやはり心細い…まずは人手の確保ですね。」


そう言ってヴェネットは腰を上げ、残っていた仕事に取りかかった。


そして一夜過ぎた頃、ヴェネットが営業時間を終えてバーから出てくる。


「ストレイなら…あそこしかありませんね。」


早朝の5時、ヴェネットは澱んだ空気のする住宅街へ歩き出した。


「ふむ、ここには初めて来ましたが…これは中々…」


ヴェネットはいかにも治安の悪そうなスラム街の入り口で足を止める。どうやらここが目的地のようだ。


「ちょっとお爺さん〜。」


「はい?」


「何か探し物かな?」


スラム街を散策していたヴェネットに、サングラスをかけた坊主の男が話しかける。


「ええ。この辺りでお強いストレイの方をご存知ありませんか?」


「おっ、スカウトマンか〜…良いご身分だね〜。」


「ん?いえ、そういうわけでは…」


「ちょっとこっち来ようか。」


男はヴェネットの肩に手をかけ、細い路地に連れ込んでいく。


「魔法が使えない今、こんな所にお爺さん一人で来ちゃいけないでしょ?」


そう言って男は銃を取り出す。だがヴェネットは銃口を向けられても表情を変えない。すると、ヴェネットも懐からリボルバーを取り出した。


「…ふむ、やはりコレを持ってきて正解でしたね。」


「お?お爺さんやんの?」


「ご主人、私はあまり争いたく無いのですが…銃を下ろして頂けませんか?」


「ここじゃあそんな平和的解決はできないんだよ…なっ!」


男が躊躇なく引き金を引く…が、その銃から放たれた球はヴェネットには当たらず、2人の間に現れた不自然な鉄板で軌道を止めた。


「…は?なんだこれ?」


「私の銃弾ですよ。」


目を丸くする男の背後から、落ち着いた老人の声が聞こえる。


「なっ…!てめぇいつの間…」


「さようなら。」


「ズドッ」という鈍い音と同時に、男の言葉が途切れる。


「このスラム街、毎日死体の山ができるようですが…やはりこういうことですか。」


火薬の残り香と屍を後に、ヴェネットは元の通りに出た。


[column]

《ストレイ》

魔法が全てと言われる王国ラヴァーエンにて、魔法を使わない、使えない人間のことを指す言葉。ストレイは昔から民衆に差別され、虐げられてきたが、それだけ壮絶な場で生きる分、戦闘能力を磨いている者が多い。

《魔王》

魔王軍と呼ばれる数多くの魔物を従える魔物の王。王国ラヴァーエンと魔王軍は何代にも渡って争いを繰り広げてきた。今回のマジック・ショックの犯人の疑いがかかっている。

《スラム街》

多くの罪人やストレイが屯している、王国ラヴァーエンで最も治安の悪いエリア。日々殺し合いが続いている。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ