第二章 追放(5)
「カミュ、これも訓練の一つだと思ってくれ。この先、何が起こるか判らない。俺たち三人、離ればなれになることがあるかもしれない。その時、自分を守るための訓練・・・そう思ってくれ。」
カミュは大きく頷いた。
やはりディアスだった。先のことまで考え、事に及んでいた。
しかし、その日は収穫はなく、サムソンの母親が構えてくれた干し肉とディアスが買いそろえた乾パンを食べ、眠りについた。
翌朝、日もまだ昇らないうちにディアスとカミュをサムソンが叩き起こした。
「ほら・・もう朝だぞ・・出発の準備。」
「どうしたんだ。あのねぼすけのサムソンが・・・」
二人は顔を見合わせた。
顔を洗い朝飯を掻き込む。朝焼けの空が青白む頃にはテントを畳む。そして今日は名も知らぬ川の北岸を越え、オーパス湖の南を目指して歩き続ける。
予定通り、何事もなくオーパス湖の南にたどり着く。
「さて、お前達狩りだろう。」
サムソンがディアスとカミュに声をかける。
「その間に、俺はテントを立てておく、今日は獲物を頼んだぞ。」
ディアスは苦笑いを漏らしながら、
「サムソン、見ての通りここは一面の草原だ。枯れ草の背も高い。
こんなところでは狼の格好の餌食だ。まず、少し高台になったところを探す。次に周りの草を刈って見晴らしをよくする。いいな、それを忘れると狼の餌食だぞ。」
「うん、テントを建て終わったら、火を熾しておく、それを目印に帰ってきてくれ。」
「よし、そうと決まれば・・・カミュ行くぞ。」
獲物を探し草原を歩きながらカミュがディアスに話しかける。
「サムソン・・ちょっと変わったかなぁ。」
「フフフ・・・薬を効かせすぎたかな。」
「薬って・・・」
「この間のあの話さ。」
「あぁ・・・」
「シッ・・・」
突然ディアスが唇に指を当てる。
「獲物だ。」
小声でディアスが告げる。
背の高い枯れ草に見え隠れしながら、一頭の猪がのんびり草を食べている。
ディアスは自分の指を口に含み、それからその指を空に立てる。
(風向きか・・・)
それを見てカミュが納得する。
風下に回り静かに獲物に近づく。
ディアスの放った矢が風を切り、猪の眉間にたつ。
矢に射られた猪が二人に向かい駆けて来る。
ディアスの手に狩り用の大振りのナイフが握られる。すんでの所で身をかわし、猪の鼻先に切りつける。
約束通りの焚き火を目印に二人が帰ってきた。二人が引くソリには大きな猪が乗っている。
「すごい・・・どうやってこれを・・・」
サムソンが目を丸くする。
「ディアスが独りで・・・これで暫くは狩りに出ないで済みそうだョ。」
カミュが自分のことの様に誇らしげに答える。
狩りの様子。旅の苦労。先行きの不安も忘れ、その夜は話が弾んだ。
「そろそろ寝る時間だな。」
話の合間を取ってディアスが告げた。
「ただし、昼間も言ったとおり狼に気をつけねば・・・俺たち三人で交代だ。寝ずの番をしなければならない・・・順番を決めよう。」
「三人違う。私、起きている。」
「そうか・・ティアもか・・じゃあ四人でくじ引きでもするか。」
寝ずの番が功を奏してか、その晩、狼の襲撃はなかった。ただ、不思議な金色の鱗粉が辺りを漂っていたのをそれぞれが目撃していた。が、誰もそのことを口にはしなかった。




