第二章 追放(4)
村はずれで旅立ちの準備を進める四人の元にディアスとサムソンの両親が訪れる。
ディアスの母親は幾ばくかの金を手に、そしてサムソンの母親は革袋一杯の干し肉を手に。
その後ろからディアスの父親が声をかける。
「お前達、これからどうするんだ。行く当てはあるのか。」
「ああ、大丈夫だよ、ちゃんと考えてある。」
その声にディアスが答える。
「さっき広場でダルタンのことを言っていたが、あいつは・・・」
「ハハハハ解っているよ。」
ディアスは父親の言葉を笑って相手にしなかった。
太陽が真南に移る。
「お前達。時間だ。」
村の役人が冷たく声をかける。
「さて、行くか。」
ディアスが三人に声をかける。
ティアをロバに乗せ、ディアスの腰には鍛えたばかりの鉄の剣。
カミュは肩に鳴きトカゲを乗せ、サムソンは大きな荷物を背に・・・徐々に村から遠ざかっていった。
北の門から村を後にする我が子を、サムソンとディアスの両親は目に焼き付ける様に見送った。
「ディアス、今晩はどこに泊まるんだ。」
「サムソン、考えてみろティアは月の民だろう。どっかの宿場に泊まったらすぐに噂の的だ。どこかに売り飛ばそうと思うやつが出ないともしれない。そんな中でお前、おちおち寝ていられるか。」
「じゃあ野宿か・・・。」
サムソンがわびしそうな声で呟いた。
「当てはあるのか、ディアス。」
カミュの声にディアスが振り向く。
「ああ、クローネンス山地の北。」
「そこに何がある。」
「ダルタンさ・・・ダルタンは今、魔物と暮らしているという噂だ。その魔物に訊けばティアの故郷、月の谷の在処も解るだろう。」 (解らなかったら。)
とはカミュは訊かなかった。
「とにかく今日は台地の下まで降りる。そこで一泊。」
「二日を掛けて川を越えオーパス湖の南まで。そして湖を左手に見ながら山を登る。まあ七日もあればダルタンの住むクローネンス山地の北側に着くだろうよ。」
日が沈まぬうちにと急ぎ、台地の裾野にたどり着く。背に小高い岩を背負った草原に今夜の宿を定める。
ディアスはサムソンにテントの設営を命じ、カミュを狩りへと誘う。
その背中にサムソンが声をかける。
「ディアス、そんな・・狩りになんか行かなくても・・・俺の母ちゃんが持たせてくれた干し肉があることだし・・・」
「サムソン、確かに干し肉があるかもしれない、俺だって食料は構えている。しかし、もし、ダルタンに会えなかったらどうする。会えたとしても、ダルタンが只の噂だけの男だったら・・・そうなるとこの荒野をティアを抱え幾日も歩き回らなければならない。獲物があるときはいいが、ないときは・・・それを考えると食料を無駄には出来ない。判るなサムソン。」
「それは・・それは判る。でも狼が・・・狼が出たらどうする・・お前達がいない間に・・・」
「ハッハッハッ・・・それはお前がティアを守るんだよ。俺は、それだけの男だとお前を見ている。・・だから・・」
ディアスはロバの背から一本の斧を下ろした。
「これがお前の武器だよ。お前の馬鹿力でこれを振り回しゃあ、狼なんか寄って来はしないよ。」
「俺が・・俺がティアを守る・・」
「そうだお前だよ。
明日から毎日、朝早くから目的地へ向け歩き、この時間ぐらいから俺とカミュは狩りに出る。帰りは夜になるかもしれない。その間ティアを守るのはお前だ。
お前しかいない。」
「俺しか・・・」
「そうお前しかいないんだ。」
「分かった。俺がティアを守る。」
「よし、じゃあ、カミュ出かけるぞ。」
「待って、弓、あるなら、私に貸す。弓、私、扱える。」
「そうか・・そう言えばティアはルミアスの民だったな。弓を得意とする・・・」
「弓なら何本かある。なんて言ったって俺の商売道具だからな。」
笑いながらティアに半弓と箭坪を手渡した。
狩りに出る二人を見送り、サムソンはディアスが買いそろえた皮製のテントを張る。そして火を熾す。
「ティアは俺が守る。」
その一念だけが、サムソンを突き動かしていた。




