第二章 追放(2)
サムソンの行動がおかしい。毎日のように山に登っている。それに、カミュも・・・慣れない狩りになど出て山に籠もっている。
山に何かがある。それは村の噂になっていた。
今日もサムソンが山へ向かう。四・五人の男が素知らぬ顔でその後をつける。
サムソンはそれに気付かぬまま、鼻歌交じりに小屋に向かう。
「あっ、この花、冬に咲くなんて珍しな。ティア喜ぶかな。」
独り言と共に不器用な手つきで花を摘む。 「ティア・・・」
サムソンの後をつけていた男が小声で囁き、目配せをする。その視線の先の男が村へ駆け戻る。
木こり小屋に着く。
「ティアー」
サムソンが大声でティアを呼ぶ。ティアは窓格子を薄目に開け、サムソンを手招きする。 サムソンが小屋の中にはいる。と、ティアが怒った様な目でサムソンに言った。
「サムソン、大きな声ダメ。みんなに見つかる。」
サムソンは萎れかえる。それでもティアの機嫌を取るように、
「ティアは外に出て遊んでたら。今日も晴れ渡って良い天気だよ・・・それにほら・・・」
サムソンはさっき摘んだ花を差し出す。
「外ダメ。カミュに怒られる。」
ティアは花だけを受け取り、寂しそうに窓辺へ向かう。
「そうか・・・じゃ俺は昨日の続き・・・」
サムソンは部屋の中の造作を始める。
その様子を外で盗み聞きしていた男達が囁きを交わす。
「やっぱり・・カミュも一緒か。」
「カミュはどこか狩りにでも行っているらしい。あいつが帰るまでに人数をそろえて・・・」
「よし、俺は村に走る。後の見張りは頼んだぞ。」
夕暮れ、カミュが狩りから帰る。その手にはウサギが一羽。初めての収穫だった。
小屋に入る。
「サムソン・・また・・・」
言い終わらないうちに、小屋を取り囲んでいた村の男達が一斉に小屋に雪崩れ込んだ。
「サムソン、カミュ。お前達、村の掟は知っているな。」
カミュは黙って頷く。とうとう、来るべきものが来た。
只、思ったよりずっと早かった。
「お前達二人のほか、仲間は・・・」
喋りかけたサムソンの言葉を押さえ、
「僕たち二人だけだ。」
と、カミュがサムソンに目配せをした。
「サムソン、お前は何か言いかけたようだが・・・」
「ウン。カミュの言うとおり俺たち二人でティアを匿った。他に仲間なんかいない。」
サムソンもそう言いきった。
「ティアか、どこの部族の者だ。」
「彼女は僕たちの言葉はよく解らないよ。片言は喋れるけどね。」
「まあいい、申し開きは明日、村長の前でするがよい。」
「今日はもう日が落ちる。明日の朝、山を下りてもらう。それまでに支度をしておけ。」
「ティアは・・・」
カミュが一番年かさのウィルソンに尋ねる。
「お前も知っているだろう。よそ者を村に入れてはならぬ。と言う掟を・・・」
「じゃあ、怪我した女の子を山に置き去りにするって事。」
カミュが強く抗弁する。
ざわざわと村の男達がざわめく。
ウィルソンの言葉を是とする者もあり、カミュの言葉を是とする者もある。
「分かった。今回だけは例外としよう。ティアとか言ったな。お前も明日の朝一緒に村に来てもらう。」
ざわめきを押さえ込むようにウィルソンがそう宣した。
翌朝、縄目こそ掛けられないものの、周りを男達に囲まれ、カミュとサムソン。そしてティアが村に入る。
村人が総出でそれを見つめた。その中を村長の屋敷まで歩く。
村長の尋問が始まる。
「ウィルソンからの報告は聴いた。」
「村人以外の者を匿い、村の掟を破った。それに間違いないか。」
「間違いありません。」
カミュは毅然と、サムソンは萎れて、声を合わせた。
「その少女・・ティアと言ったな。お前はどこから来た。」
「ティアは私たちの言葉がよく解りません。僕たちも色々訊きましたが、肝心なことは解らないままです。只、山から来て蛮族に襲われここに着いたとだけ言っていました。」
カミュが代わりに応えた。
「うむ、確かに見るからに我々人間とは違うようだ。もしかして、お前はエルフ族ではないか。」
「エルフ族・・・」
柵の外で事の成り行きを見守っていた村人がざわめく。
しかし、その問いには三人とも答えなかった。
「静かに・・・」
村長が聴衆を窘める。
「ほかにお前達の協力者はいるか。」
サムソンは只かぶりを振る。
カミュは、はっきりした声で、
「いません。」
と、答えた。
「ディアスは・・・」
また、外の村人がざわめく。
村長はゴホンと咳払いをし、
「一時は、ディアスも仲間ではないか、との噂も立った。しかし、ディアスはこの噂が立ち始める頃にはもう、村をあとに、狩りに旅立ったという・・・本当に他に協力者はいないな。」
「はい、いません。」
サムソンの胸の中に疑念が湧く。
(ディアスはこうなることを恐れて、先に逃げた・・・いや違う・・・ディアスは必ず助けに来てくれる。)
サムソンは自分の疑念を打ち消し、ディアスを信じようと努めた。
「とにかく、お前達、罪は認めるんだな。サムソン、カミュ。」
「はい。」
(罪・・・罪って何だ。傷ついた女の子を助けた・・・それが罪・・・なんかおかしくないか・・・)
「はい」
と返事はしたものの、カミュとサムソンの胸の中に何か、わだかまりが残る。
「よく素直に罪を認めた。お前達の素直さで今日は早く終われる。後は三人ともカミュの小屋に幽閉。
明日の朝、広場で判決を言い渡す。柵の外の皆も集まるように・・・」
その夜、ディアスは村に帰った。その懐にはこの何日かで狩った三頭のヘラジカと数羽のウサギを売り払い、相当の金があった。 村の酒場に入る。そこら中にカミュとサムソンの噂が渦巻いている。
いつもの平穏に慣れた村人にとってそれは、天地を震わすような出来事だった。
(遅かったか・・・しかし判決は明日。それまでに準備を整えないと・・・)
ろくろく酒も飲まずディアスは酒場を後にする。
まず、鍛冶屋を訪ね、鍛えあがった鉄の剣を手にする。
それから皮の服、食料、野宿用のテント、と注文していたものを次々と受け取る。そのたびにディアスの懐は軽くなってゆく。
(チッ、これだけか・・・)
獲物と引き替えに得た金が、革袋の底に僅かに残るだけになっていた。
(仕方がない・・・後は道々狩りをして・・・・)
村はずれに繋いだ二頭のロバの背に振り分け荷物を載せる。一頭の背は、まだ歩くのが不自由なはずのティアのために取ってある。
全ての支度を終え家に帰る。ドアを開けると母親が抱きつかんばかりにディアスに駆け寄る。
「ディアス、今帰ったのかい。わたしゃあてっきりお前もサムソンやカミュの一味かとおもいドキドキしていたよ・・・ああ・・良かった、あんたが無実で・・・」
まるであの二人が極悪人でもあるかのような言い様だ。
「ああ・・・」
ディアスはそれに生返事を返す。
「ディアス、わしも心配していたがお前ももう大人だ。あんな事に荷担して無くて良かったぞ。
まあ・・わしはお前を信用していたがな・・・・」
ハッハッハッという乾いた笑い声と共に父親は話を続けた。
「ところでディアス、狩りはどうだった。」
「ああ、ヘラジカが三頭。ウサギが六羽。帰る途中で売ってきた。」
「ほう、それじゃあ結構な金になったろう。その金は大事にして、俺がやったよりもっと良い狩り道具を揃えることだな。」
父親は満足しきったように酒を煽り自分のの寝室へと向かった。
(こんなものか、この村の者は・・・)
ディアスも父の後を追う様に自分にあてがわれた部屋に入った。
(明日・・・とにかく明日・・・まずは体力をつけて・・・)
ディアスは眠りに落ちた。
しかし、カミュの小屋に軟禁された三人は夜遅くまで今後の身の振り方を考え、話し合った。しかし、翌日の判決を待たない限り、答えは出ない。
その夜はまんじりともせず朝を待った。




