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ロンギオスの炎 旅立ち  作者: たかさん
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第五章 予兆(4)

 三人の息子がポルペウス詣りに行って既に十日。今朝、先駆けがサルニオス、フルオスそして、カルダスの帰城を告げた。

 報告を聞くため玉座の間へ三人を呼ぶ。サミュエルの前に進み出たサルニオスが口を開く。

 「父上に於かれましては、我等が不在の間も恙無(つつがな)く・・・」

 「挨拶はよい。ポルペウスでの事を話さんか。」

 顔を赤らめ列に戻ったサルニオスに替わり、フルオスが前に進み出た。

 「城を出て三日目の昼過ぎ、ポルペウスの神殿に着きました。私達は一般の巡礼者とは違う道をたどり、選ばれたものだけが入ることを赦されるという地下神殿に行きました。

 そこには巨大な神の彫像がありました。

 翌日、神の台座にある部屋が私達兄弟それぞれに与えられ、その中で蝋燭を一本だけ灯し教典、教義を写しました。それで丸一日。

 それからはポルペウス神殿を巡り、饗応の宴を開いて戴き、一日は赦されてボスポラスの中腹にある奥の院をカルダス共々訪れました。」

 「カルダスもか」

 「はっ、私も特別に赦すとキュア様が仰り、セイロス様の案内で・・・」

 「キュアは同行しなかったのか・・・」

 「はい。」

 「そこで何を見た。」

 「別に・・只、神の座像を・・・」

サミュエルとカルダスの会話にサルニオスが割り込んだ。

 「しかし、あそこからの眺めは絶品でございました。

 このランドアナ高原から、遠くはサルミット山脈、ロンバル・・・」

 「そんなことはどうでも良い。」

 サミュエルは忌々しげに一括し、更にカルダスに尋ねた。

 「お前が見たのはそれだけか。」

 「はい、私が見たものも、皆様が見たものも変わらずそれだけです。」

 「しかし、なぜお前が赦された。」

 「それはよく解りません。

 元来、奥の院は同盟国・属国の王、並びに属州の総督だけが訪れることを赦されるが、永くサミュエル皇帝に仕えた褒美だとだけキュア様が仰って・・・」

 「褒美・・・あのキュアが・・・」

 「本当にキュアは同行していないんだな。」

 「はい、セイロス様だけです。」

 「その後、何があった。」

 「はい、殆ど毎日饗宴が続き、ポルペウスを離れる二日前に三人のご兄弟がまた、神の台座の部屋に入られました。」

 「饗宴の席には誰が・・・」

 「セイロス様と・・・言い難うはございますが女が数人・・・」

 「その席にそちも同座したのか。」

 「はい、末席ではございますが。」

 「キュアは・・・」

 「奥の院で祈りがあると仰って、私達と入れ替えに山に籠もられました。」

 サミュエルは、ほっと安心したように息をついた。

 「サルニオス、神の台座で何をして居った。」

 「二日目と同じ、写経だけです。」

 「最後の日は・・・」

 「洗礼を戴きました。」

 「どのような洗礼だ。」

 「神官の前に座り、額に赤い水を戴き、教義を聞きました。」

 「それだけか。」

 「はい。洗礼の証にこのローブとメダルを戴きました。」

 「そんなものを身につけている必要はない。脱いでしまえ。」

 父の剣幕に二人がびくっと身を縮ませた。

 「カルダスを除いて、二人は下がって良い。」

 二人の兄弟が部屋を去ると、サミュエルはカルダスを近くに呼んだ。

 「儂が第二の洗礼を受けた時とほぼ同じ、間違いはないと思うが、もう暫く話しを聞かせてくれ。あやつらが側にいると話し難いこともあったろう。

 まず、キュアだが、あやつらとはどれ位・・・」

 「ポルペウスに着くまでは宿を別にし、殆ど接触はありませんでした。道中でも只、黙々と先頭を進み一度だけ、酒、酒と駄々をこねるフルオス様に目を遣りました。

 神殿に着いてからも、神の台座の下の扉へ皆様を(いざな)っただけで、後は殆どセイロス様が取り仕切って居りました。」

「セイロス、あやつとは久しく会って居らぬがまだ若かったか。」

 「はい、未だ衰えず若うございました。」

 「化け物どもが・・・」

 「饗宴は・・・」

 「はい・・・」

 「言い難かろうが全てを申せ。」

 「はっ、ご兄弟に美女が三人ずつ、夜も侍らせておいででした。」

 チッとサミュエルは舌打ちをした。

 「して、ユングはなぜ帰らぬ。」

 「・・・・」

 「全てを話せと申したろうが・・・」

 「・・・女かと・・・ユング様には夜伽をした女にご執心。暫く帰らぬと・・・」

 「何のことはない、色と酒に迷ったか。」

 サミュエルは寂しそうな目をし、更に聞いた。

 「キュアは何時まで山に籠もると・・・」

 「一ト月と言うお触れでした。」

 「それまでにユングが帰ればよいが・・・

 委細あい解った・・・ご苦労であった。もう下がって休むが良い。」


 カルダスはサミュエルの下を去ると、疲れた体をベッドに横たえた。

 眠りにつくとすぐに、あの恐怖の四日間が夢となってカルダスを襲った。

真っ黒な部屋の中に蝋燭だけが只一本、飢餓と乾き。恐怖と痛み。それがカルダスを責め上げた。

 ちくちくと全身を針で刺されるような痛みを覚え、剥きだしの恐怖が逆撫でされる。

 のたうち回り、悲鳴を上げる。しかし、救いはない。

 神経がすり減り、脳が悲鳴を上げる。このまま続けば狂うしかない。と、思った時、蝋燭の向こうの壁が歪み、異形の神が姿を現した。

 「我を崇めよ。されば救われん。」

 その神はカルダスの耳元に囁いた。

 異形のものを拒む。

 更なる痛苦と恐怖がカルダスを襲う。

 それが繰り返され、遂にカルダスの神経がプツリと音を発てた。

 異形の神を心に受け入れる。すると、それまでの飢餓が、乾きが、痛みが、恐怖が全て消えた。

 そこにあるのは心の平穏と静寂だけ、蝋燭の前に座り続けた自分がいただけだった。

 「旦那様、旦那様・・・」

 侍女がカルダスを揺り起こす。

 「大丈夫ですか・・・随分・・うなされておられましたが。」

 「ああ・・・夢を見ていた。」

 「どのような。」

 暫くカルダスは考えた。しかし何を夢に見たのか思い出せない。

 「何でもない・・・」

 怒ったようにそれだけを答え、湯殿へ向かった。

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