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ロンギオスの炎 旅立ち  作者: たかさん
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第一章 バルモドスの山で(2)

  小屋の外で風が鳴る。

 日暮れと共に冷たくなった空気が小屋の中に忍び込む。

 囲炉裏に火は熾してあるが、徐々に寒さが身に染みいってくる。

 (寒くはないか。)

 少女に目をやる。

 出血のせいか青白い横顔が、時折呻き声を漏らす。

 時が経つにつれ、寒さが厳しくなってくる。 雪にはまだ早いが、山の秋は短い。

少女の肌の青白さが増したようにも感じる。

 (このままじゃあ・・・)

 失血のため体温を奪われ続ける少女の躰が、気にかかる。

 カミュは傍らの酒瓶に残った酒を口に含み、少女の口をこじ開ける。

 その口に己の唇を付ける。

 少女が噎せぬよう気遣いながら、そろり、そろりと少女の口中に酒を流し込む。

 ゴクッ

 少女の喉が鳴る。

 続けて二度、三度。

 少女の肌に僅かに生気が戻る。しかし、アルコールを与え続けると出血が気に掛かる。

思いと裏腹に、辺りの空気は夜明けに向け、益々温度を下げてゆく。 

(どうすれば・・・・)

 どうすれば少女の体温の低下を止められるのか。

 答えは一つ・・・。

 しかし・・・

カミュは躊躇する。

 だが、気温の低下は容赦なく襲ってくる。

 ・・・・意を決する。

 少女に掛けてあった二枚の筵をはぎ取り、少女のドレスに手を掛ける。

 自分の服も脱ぎ捨てる。

 自分の体温で少女を暖める。

 それしか手はなかった。

 少女の躰を背中から抱きしめ、筵をかぶる。

 冷え切った少女の肌がカミュの体温を奪ってゆく。

その冷たさに負けぬよう酒を飲み、自分の体温を確保する。

 アルコールに火照る手で少女の肌をさする。そして、眠らぬように小さい頃聞いた長老の話を思い出す。

 (兵を曲げたアリアスはケムリニュスとの国境を超える。どういう訳かゾルディオスはあっさりと兵を引き、カルドキア国内へと逃げ込んだ。アリアスと、直接カルドキアを狙った竜戦士の軍はここに合体した。

 アリアスと竜戦士の連合軍は、死の谷を通り、聖なる山ボスポラスを目指す。)

 聖なる山に何があるのか。確か長老の話にもそれは出てこなかった。)

 (そのころ、サンドスを陥落させたロマーヌとモアドス連合軍は、ようやく戦いに飽き、内紛が渦巻いていた。

 モアドス王スメスタナとロマーヌ王インジュアスは戦後の利益の分配を巡り、己が優位に立つため声高に言い争いを続けていた。

 ついに、連合軍は分裂する・・・・・)


 鳥の囀りがカミュを優しく揺り起こす。大きく一つ伸びをする。そして・・・

 (あの少女は・・・)

 辺りを見回す。

 部屋の隅に筵にくるまった少女を見いだす。 少女の声が、怯え、そして、なじるようにカミュに届く。

 「◯・×・△・□・・・」

 カミュには少女の言葉が分からなかった。 聞いたこともない言葉だ。

 「分からない。君の言っている言葉が・・・君はどこの人・・・名前は・・・」

 カミュが少女に近寄る。少女は怯えるように壁伝いにカミュから逃げようとする。

 その時、入り口のドアが開いた。

 「どうしたカミュ。」

 ディアスの声に少女が悲鳴を上げる。

 「この()、気が付いたのか・・どこから来た。名前は聞いたのか。」

 「分からない。言葉が通じないみたいだ。」

 「カミュ・・・」

 少女はカミュを見た。

 「私を助けてくれた・・・」

 「ん・・・分かるのか・・俺たちの言葉が・・・」

 ディアスが少女に声を掛ける。

 「さっき、ごめんなさい。取り乱して・・・あなた達、悪い人じゃない。私、分かる。」

 「俺はディアス。あんた名前は・・・」

 「私、ティア。ルミアスの民。」

 「やっぱり・・・でもそれは・・・」

 「お伽噺か・・・しかし、現実に俺たちの前にいる。」

 「カミュ、大丈夫か。あの()はどうなった。」

 大声と共にサムソンが木こり小屋の中に入ってくる。

 「あっ、気が付いたのか。俺、サムソン宜しく。」

 「えーっと、薬と食べ物。そして着るもの。昨日、カミュがビリビリに破いちゃったからな。でも、かあちゃんのだからちょっと大きいかもな。」

 「おまえの母さんのなら、ちょっと大きいぐらいじゃすまないだろう。」

 ディアスがサムソンの話を混ぜっ返す。

部屋の中に男達の笑い声が響く。それにつられ、少女も頬を崩す。


ディアスが真顔で話し始める。

 「さて、これからどうするかだな。ティアはまだまともに歩けないだろうし・・・」

 「冬に向かってだんだん寒くなる。すきま風だらけのこの小屋で一冬越すのは厳しいだろう。かといって村には連れて行けない・・・どうする・・・」

 「うん・・・今は・・分からない。とにかくしばらくの間、ここに匿っていて本格的に寒さが来る前に方法を考えようよ。」

 カミュがディアスに応える。

 「よし、まず壁板を打ち直して、ベッドを作って・・・」

 「アーァ、脳天気だなァ・・・ほんとにお前は・・・」

 ディアスの言葉にサムソンが頬を膨らます。 「迷惑掛けられない。私、出て行く。」

 少女の言葉が間に分け入る。

 「ちょ・・ちょっと待った。ティア、君はまだ歩けないだろう。当分の間は傷の養生をしなきゃあ・・・無理だよ・・出て行くなんて・・・・」

 「そうだよ、まだ、だめだ。」

 サムソンもカミュと一緒になって少女を止める。

 「仕方がない。結局サムソンの脳天気な意見をまず採用か・・・」


 干し草のベッド、暖を取るための薪割り。こういう仕事になると、サムソンは生き生きと働き、てきぱきと物事をこなしてゆく。

 「後は・・板か。壁の隙間塞ぎにどうしてもいる・・だけど、こればっかしはここのぼろ板じゃあどうにもならない。

 それにベッド用のシーツ、毛布・・まだまだ物が足りない。」

 「シーツと毛布は、僕が・・・でも、壁板は家には・・・」

 「壁板は何とかするよ。

 それよりカミュ、夕べからお前の姿が見えないと、お前のおばさんが心配していたよ。

 今晩もここにお前が泊まり込むとしても、荷物取りのついでに夕方まで村にいたらどうだい。」

「ウン、そうする。村のみんなに知れたら、元も子もないからね。」

 サムソンの言葉にカミュは頷いた。


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