第四章 月の谷にて(2)
いつもの朝の教練で剣、弓、槍と一通りの訓練を終えた時、
「ディアス、これどう思う。」
手にした小さな斧をサムソンがディアスに見せた。
「なんだそれ・・・そんなに小さくちゃ武器にならんだろう。」
「そうかなあ・・・これを投げると面白いんだけど・・・」
「投げる・・投げるとどうなるんだ。」
「こんな風に・・・」
サムソンが斧を投げる。
小さな斧はクルクルと回転し、サムソンの手元に戻ってきた。
「サムソン・・それは・・・それはすごい・・・絶対に良い武器になる。」
「ほんとか・・・よし、じゃあもっと練習して・・・」
(あいつ、すごい戦士になるかも・・・)
「どうしても・・・」
「はい。」
サムソンのことを考えながら歩いているディアスの耳に、カミュとローコッドの会話が入ってくる。
「魔術を覚えるというのは、その魔術を司る古の神との契約が必要になる。
たとえば、私は炎を司るイーフリートとの血の契約を結んでいる。その契約を結ぶためには何年もの修行が必要だ・・・心も体も含めてな。只、呪文を唱えれば、気を集中すればという物ではない。解るか。」
カミュが頷く。
「たとえば・・・」
ローコッドが僅かの間気を集中し、腕を振る。
するとその指先から小さな丸い炎が傍らの草むらに向け飛んだ。
「さっきも話したように、私はイーフリートとの契約のためこの程度だと簡単に出来る。 しかし、いくら修行を重ねてもこの程度しかできない者もいる。それはその者の資質により、契約の深さが違ってくるからだ。何年、いや、何十年掛かっても魔術を習得できない者さえいる。いや、その方が多い。それでも修行をすると。」
「はい。」
「解った。それではまず想像することそこから始まる。
指先に炎を想像し、熱さを感じたら腕を振る。それが出来たら修業を赦そう。」
カミュはローコッドに教わったとおりの動作を行う。
指先に炎をイメージする。
それに念を込める。
指先がピリピリと痺れる。
腕を振ってみる。
バチッと躰が後ろに飛ばされる。
青白い光が指先に見えたような気がする。 「なんと・・・」
ローコッドが絶句する。
「明日から私の元に来るがよい。」
(雷・・・天の罰と言われる・・この少年は既にラウムとの契約を結んでいるというのか・・・)
馬場ではイシューとティルトが馬を競わせていた。その中にディアスが割り込む。
ティルトが馬に鞭をいれる。その後をディアスが追う。前の二頭とイシューの馬の差が開いて行く。その差を縮めるべくイシューが馬腹を蹴る。それだけで彼の馬は飛ぶように駆けた。
イシューが厩に戻り馬を繋ぐ。その後にティルトとディアスが駆け込んでくる。
「やっぱりかなわないね“飛電”には・・・」
「飛電」と呼ばれた馬は大きく嘶いた。それに誘われるように昼を告げる鐘が鳴った。




