第三章 帰郷(4)
断崖を蕩々と流れ落ちる滝。その前に五人は立った。
「こんな所にほんとに道があるのか。」
サムソンが口にする。
「ついてきて。」
ティアが先に立ち、滝壺の横の道に入って行く。飛沫に濡れながら滝壺の裏にはいる。滝の裏には大きな洞窟があり、真っ暗な道が中へと続いている。
「ほんとに大丈夫か。」
「怖がるなよサムソン。だが、何が出るか判らんぞ。」
ディアスがサムソンをからかう。
一行の一番後ろではダルタンが用心深く目を光らせている。
「火を・・・」
ティアの声にカミュが火打ち石を打つ。松明に灯が点り辺りを照らす。
「松明は一本だけにして。」
外からの目を気にして灯りは最小限に抑える。
松明の先に見えるのはウネウネと登る一本の道。そこに足を踏み入れる。
足下に気をつけながら小一時間も登ると、太陽の下に出た。
狭い谷の先に建物が見える。
「あれが下の砦・・・あぁ、やっと帰って来れた。」
砦から何頭かの馬が駆けてくる。
「止まれ。何者だ。」
「ヴィフィール。私よ・・ティアよ。」
「ティア様・・・良くご無事で・・・」
砦に知らせが走る。
ゆっくりと砦に向かうティア達の前に、イシュー達の捜索を任せられたマーランが馬をとばしてきた。
「ティア様・・・してその者達は・・・」
「私を助け、ここまで連れてきた人たち。粗相の無いようにお願いします。」
「判りました。しかし、まず陛下にお伺いを立てませんとこの先へは・・・」
「そうね、それまでは私もここで待つわ。」
「しかしティア様・・・」
「それじゃあ、この人達も別邸に案内して。」
「仕方がない・・・」
一行はティアを先頭に別邸へ向かった。
夜を徹して駆けた使者の馬が、二日後の正午前に下の砦に戻った。
久しぶりにゆっくりとした朝を迎えた五人が別邸から砦の広間へと呼び出される。
威厳をただしたマーランが五人に呼びかける。
「王の裁定が下った。
皆の者王宮へ招致。王の謁見を許す。
その際、王よりダルタン、ディアス、サムソン、カミュへの感謝の言葉が下される。」
「明朝、ここを起ち、明日は中の砦に一泊。三日後に王都へ入る。拝謁は四日後となる。」 「但し、それまでは月の谷を出ることは許されぬ。・・・以上が王のお言葉である。」
別邸で賓客としてもてなされ、サムソンは上機嫌で食事を頬張り、ダルタンは酒に酔う。
しかしそうした中、ディアスがカミュに声を掛けた。
「さてここまで来た。だが、この後のことだ。王様に感謝されるのは良いがその後だ。俺たちは帰る所を持たない。
俺はフィルリアからレジュアス、今の世で強国と言われている国を見て回っても良いとも思うが・・・お前はどうする。」
「僕は・・出来ればここに残りたい。ここには僕の知らない知識がいっぱいありそうな気がする。それを勉強したい。」
「俺にもその気はある。しかし置いてくれるかどうか。」
「それは私がお父様にお願いします。」
そこにティアの声。
「それは助かる。
しかし、この国も外の世界から隔絶されている。外の情報に疎くなる可能性も・・・」
「ピクスがいるだろう。」
聞くとはなしに聞いていたダルタンが横から口を挟んだ。
王宮の謁見の間に於いてディアス達四人が王の言葉を聞いている頃、イシュー達が下の砦に着いた。
ティアの帰郷を知ったイシュー達は、すぐにでも王宮へ帰ろうとしたが、ヴィフィールに王の沙汰を待つようにと押し止められた。
早馬が王宮に着く。
ティアの帰郷にあれだけ喜んだブリアント王がイシュー達の帰還には怒りを爆発させた。
それもマーランのとりなしにより何とか押さえられ、イシュー達は下の砦に於いて十日の謹慎。しかし、その中にドゥリアードの存在を知り、彼だけは王宮に招致と言い渡した。




