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ロンギオスの炎 旅立ち  作者: たかさん
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第三章 帰郷(3)

ロニアスを迂回し、北へ馬を急がせる。

 ティア達がロニアスの村を去ったのが五日ほど前。ロバを曳き徒歩でクローネンス山地の北を目指したという。ここから馬をとばせば五日と掛からぬ行程。

 ティアはどうしているのか。イシューはそればかりが気に掛かった。

 草原の中で夜を迎える。

 焚き火を囲み、ワインを酌み交わしながら、ダイクがローコッドに尋ねた。

 「王様はなぜあんなに戦闘を恐れる。かつてはアリアスの軍に参加し、【草原の槍】とまで呼ばれた人が・・・」

 「ん・・・それは違う。王は戦闘を恐れているわけではない。民が戦争に巻き込まれることを恐れていらっしゃる。」

 「しかし、この大陸にいくつもの国がある限り、戦争は無くならないんじゃ・・・」

 「その通りだティルト・・人の欲望は深い。その欲望を満足させるため、自分の意見だけを通すため、人は最期には武力に訴える。」

 「だから父上は月の谷に閉じこもり、門を閉じ、他国との関係を絶ったという訳か・・・」

 「その通りです。他国と関わりを持てば、自ずと利害関係が生まれる。それが共有出来ている内はよいが、価値観の違いが対立を生む。それが高じると戦争へと発展して行く。」

 「陛下はアリアスの戦いで何を見た。」

 「略奪、暴行、裏切り、その外あらゆる蛮行。醜いものは全てという程見たとおっしゃっておられた。」

 「父上はアリアスと共にいたのでは・・・」

 「いや、王はモアドス・ロマーヌ連合軍が着くまでのサルジニアの守りを任され、その後はケムリニュスの護りに就いたという。」

 「だからか・・・悲惨なものを見過ぎたというのは・・・」

 「そう、サルジニアで起きた連合軍の略奪、暴行そして内紛、裏切り。王は醜い人間達の姿を見てきていらっしゃる。」

 「そう言うものの中に民を巻き込みたくない、と王様が考えるのも当然か・・・」

 「いや違う。」

 ティルトの呟きにイシューが反論を唱える。 「自分たちは閉じこもっていても、他者は関係を強要してくる、それを避けるためには・・逃げ回るしかない。それでは国を護ることにはならない。」

 「確かにそうかも知れない。しかし我々は現在の王の考えに従うべきだと思う。事実、ルミアスは今、平穏を保っている。」

 「イシュー様の言ももっとも。ティルトの言葉もしかり。

 しかし、それが価値観の相違というものかな。」

 ローコッドの言葉を区切りに皆は眠りに就いた。


 今日もまた草原に馬を走らせる。クローネンス山地の北側を目指し気が急ぐ。その後を狼たちが追う。それをイシュー達三人が交互に矢で射る。狙い澄ました矢が狼を射抜く。その度にローコッドが感嘆の声を上げる。只、ダイクの射る矢だけがたまに外れた。ローコッドがそれをからかう乾いた笑い声が野に響く。

 クローネンス山地の姿が大きくなってくる。その中で、先頭を行くダイクが大声を上げた。 「あの枯れ木、動いてないか。」

 「そんなことはないだろう。目の錯覚だよ。お前の矢が当たらないのは、その目のせいか。」

ティルトが笑い飛ばす。

 「いや確かに・・動いている。」

 イシューが言葉を返す。

 (枯れ木)

 目をこらす。しかし何も見えない。

 ローコッドの目には見えない遠くの情景が、エルフの目には見えている。

 「あの枯れ木、捕まえるぞ。」

 イシューとティルトが馬の速度を更に上げる。


馬が二頭、自分を目指して駆けてくる。

 (見つかったか)

 ドリストは臍をかんだ。しかしもう遅い。だが彼らが拡げた網に捉えられるのは、彼の自尊心が許さない。

 二頭の馬が間近に迫るのを待ち、大声を上げる。

 「儂の名はドリスト。儂を網で捕獲しようとはどういう了見だ。」

 当たりに響き渡るその声の大きさに二頭の馬が怯え、急激に止まった。イシューとティルトはつんのめりながらも、辛うじて落馬を免れた。

 知の民ドゥリアード。二百年以上生きるエルフ族よりも遙かに永く生き、世の知識を集める種族。二人の尊敬に値する種族だ。彼ならティアの行方をあるいは・・・

 馬を下り話しかける。

 「ドゥリアード様。」

 「ドリストでよい」

 「それではドリスト。貴方はエルフの娘をご存じないか。」

 「ティアのことか。」

 「ティア・・そうティアです。貴方は何処(どこ)でその名を・・・」

 「儂の友人が今、そなた達の国へ向け(いざな)って居る。もうそろそろ着く頃ではないかな。」

 「ティアは月の谷へ・・・」

 「もう一人・・・」

 フェイが声を掛ける。

 「うむ、バルバロッサに捕まったと言う娘のことか。」

 「そうです。」

 「風の便りによれば、その娘はドワーフの男に助けられ、その男と共に旅をしていると聞く。」

 「何処へ・・・」

 「それは儂にも解らぬ。」

 「今でも生きていると。」

 「旅をしているのじゃからな。判りきったことを訊くものではない。」

 「イシュー様、月の谷へ帰りましょう。」

 「ルシールは・・・」

 「生きてさえいればまたどこかで会える。今は月の谷へ・・・」

 「ほう・・ドゥリアードとは珍しい。」

 遅れてきたローコッドが声を掛ける。

 「ほっほっほっ・・そう言う魔道士がエルフと一緒とはまた珍しや。」

「私をなぜ魔道士と・・・」

 「見れば判る。」

 ドリストはそれ以上は答えなかった。

 「とにかく月の谷へ帰ろう。」

 ダイクの声に全員が馬に跨る。

 「待たぬか。儂の友人がティアを連れて居ると言ったであろうが。儂もルミアスに連れて行かぬか。」

 「承知しました。」

 イシューの声にダイクが自分の馬の上にドリストを担ぎ上げた。


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