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ロンギオスの炎 旅立ち  作者: たかさん
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第二章 追放(6)

五日目の朝、最後の張り番だったカミュにみんなが起こされる。今日も一日歩き続ける。そして昼過ぎには、いよいよ山登りが始まる。 「みんな聞いてくれ。」

 三人が一斉にディアスを見る。

 ディアスは古ぼけた地図を足下に拡げ、説明を始める。

 「今、俺たちが居るのが、ここ・・・今日はこの進路を進む。」

 ディアスは地図の上で三人に指し示す。

 「ここがクローネンス山地。ダルタンが住んでいるところの近くまで来ている。だが、気をつけろ・・・今日通る辺りはバルバロッサの縄張りの近くでもある・・・そう・・ティアを襲ったと思われるあの蛮族だ。」

 「そいつ等、どんな奴等だ。」

 サムソンの問いにディアスが答える。

 「恐ろしく凶暴な奴等らしい。それに領土というものを持たないから、いつ、どこで現れるかも分からない。とにかく周りによく気を配り油断しないことだ。」

 カミュ、サムソンそしてティアは唾を飲み込みながら頷いた。

 背の高い草原の中を、少し横に拡がりながら警戒態勢で進む。しかし、幾晩か続いた寝不足のせいか注意力が散漫になる。昨日からそんな彼らを、足音もたてず風下から執拗につけ狙い、彼らの疲れを待っているものがあった。


 道が徐々に上りに掛かる。草原の先に見える岩山が近づいてくる。

 「なんだか、いやな感じがする。」

 突然、ディアスが皆に告げる。

 草の中の黄色く光る目。それにカミュが気付く。

 「山狗だ。」

 カミュの声が辺りに響く。

 「ティアを真ん中に・・・周りを固めろ。そのままあの岩山まで突き進むぞ。」

 「ある程度引きつけて矢を射つんだ。」

 次々とディアスの指示が飛ぶ。

 「俺、弓は射てないよ。射ってもあたらないし・・・」

 サムソンが弱音を吐く。

 「当たらなくてもいい。とにかく奴等を寄せ付けないことだ。」

 その時、ロバの背のティアの手から音をたて矢が放たれる。

 「話す暇ない、とにかく逃げる。」

 二頭のロバを囲みながら、岩山へと急ぐ。

(あと一人いれば・・・)

 そう考えるカミュの目の前を金色の鱗粉が通り過ぎる。

 (人間・・。羽根の生えた、小さな・・・) ズサッ・・・

空飛ぶ妖精に気を取られたカミュのすぐ後ろで山狗が矢に射られ倒れた。

 「ぼやぼやとするな・・こっちだ。こっちに来い。」

 小柄な男が馬に跨り、叫んでいる。

 男が手にした弓から次々に矢が放たれ、その度に山狗が傷つき、唸り声を残しカミュ達から離れてゆく。

 まずサムソンがティアの乗ったロバの轡を取り、男の方へ駆けて行く。

 「カミュ、お前も行け。」

 ディアスの声にカミュも暴れる荷駄ロバを引き男の方へと向かう。

 「向こうの岩山に洞窟がある。そこに入りすぐに火を熾せ。」

 男の指示にカミュとサムソンが岩山を目指す。その後ろを守るように馬を乗り回し、男は次々と矢を放つ。

 「お前もだ。」

 大振りのハンターナイフを口に銜え、矢を射続けるディアスにも男が声をかける。

 その声にディアスも二頭のロバを追い、岩山へと向かう。馬上の男を見上げるディアスの目に、男の頭上を舞う金色の鱗粉が眩しく光った。


 洞窟に先に着いたサムソンが入り口を守り、その奥でティアが火を熾す。その中にロバを引いたカミュが駆け込む。ロバの轡をティアに渡し、カミュも入り口の守りにつく。

 「お嬢さん。火が熾きたなら、入り口へお持ち。」

 低く太い声が洞窟に(こだま)する。

その声に驚いたティアが悲鳴を上げる。

 それに構わず声が続く。

 「そんな所で火を使うより、よっぽど効果がある。」

 カミュがティアの元に駆けつけ、鋭い目で辺りを警戒しながら暗がりを透かして見る。

 誰もいない。

 そこにあるのは古ぼけた一本の枯れ木だけだった。

 ディアス、続いて馬に乗った男が洞窟に雪崩れ込んでくる。

 「すまない。助かった。」

 ディアスの声に男が黙って頷いた。

 「火を・・・」

 ディアスが洞窟の奥に声をかける。

 そして、ティアを守るように緊張して身構えるカミュに気付く。

 「どうした。」

「声が・・声がした。」

 「それは、儂の古い友人だよ。心配ない。」

 四人はホッと息をつく。

 「ところであんた、ダルタンを知らないか。」

 「ダルタン・・・・」

 男はディアスを見つめ大声で笑った。

 「なぜ笑う。」

 ダルタンはもういないのか。ディアスの胸に不安がよぎる。

 男の笑い声が響く中、また低く太い声がする。

 「そいつがダルタンだよ。」

 この男が・・・ディアスの胸に一抹の失望が湧く。

 思い描いたダルタンの姿はディアスの中で大きく膨らみ、今、目の前にいる男とは全く違う姿となって存在していた。

 それが、ダルタンという男を現実に目の当たりにすると、背は低く、痩せた躰に大きな頭が載り、その顔ときたらあばただらけで、でこぼことし、大きな目だけがギョロギョロと辺りを見回している。ディアスが想像していたダルタンとは全く違う男がそこにいた。

 「がっかりしたか。俺がダルタンで・・・」

 男が大きな口をゆがめニヤリと笑った。

 「そんなことは・・・・」

 ディアスが口ごもる。その目の前を金色の鱗粉が横切り、小さな妖精がダルタンに何事かを耳打ちをする。

 「入り口の向こうに山狗が集まっているらしい。暫くはここから出られないようだ。」

 「ああ、こいつはピクス・・・俺の可愛い妖精だよ。いつも俺にいろんな情報を届けてくれる。お前達のこともこいつから聞いた。」

 妖精・・・村で聞いたお伽噺の住人達が次から次に出てくる。エルフそしてピクシー・・・

 「ところでお前達、何か食い物を持ってないか・・血の匂いがするようだが。」 

「ああこれか。」

 ディアスがソリの筵をはぎ取る。

 「猪さ。昨日狩った。」

 「そうか、山狗たちはそいつを狙ってきたか。助けたお礼と言っちゃあ何だが、俺にもそれをごちそうしてくれないか。」

 勿論というようにディアスは肯き、サムソンに声をかけた。

 「サムソン、そこの木を切って薪にしてくれ。」

 サムソンは頷き、斧を振り上げた。 

「儂を切って貰っちゃあ困る。」

 枯れ木とばかり思っていたものが、カッと目を開きサムソンを見た。

 サムソンは腰をぬかさんばかりに驚き、斧を放り投げた。

 「そいつはドリスト・・・儂の古い友人を薪にしてもらっちゃあ困るぞ。」

 ダルタンが大口を開け笑った。

 木の精ドゥリアードまで。お伽噺とばかり思っていた物語は現実だった。カミュの頭の中で一つの寓話が膨らむ。

 (とすると、村を出た僕たちもその物語の主人公・・・。)

 それを振り払い、目の前の現実に戻る。

 知の民と呼ばれるドゥリアード。彼なら、月の谷の場所も知っているかもしれない。カミュの胸の内に希望が芽生えた。

 

 肉を焼く香ばしい香りが辺りに拡がる。三日もまともに食ってないと言い、ダルタンは焼けた肉を頬張る。残った内臓と骨は洞窟の外へ放り投げ、山狗の餌にした。

 一息ついたところでディアスは、ダルタンに質問を投げかけた。

 「月の谷って知っていますか。」

 「ああ・・・」

 「何処にあるかも・・」

 「それは、ドリストが知っていよう。」

 「ほほう、月の谷か・・・なるほどそのエルフの故郷という訳か・・・」

 ディアスが地図を拡げる。

 「ここが今、儂達が居るところ・・・そしてこの娘の故郷、月の谷はこの辺り・・」

 ドリストはダルビドス山地の当たりを指し示した。

 そのあとをダルタンが引き取り説明を始めた。

 「ダルビドス山地であれば、ここから南に向かえば早い。しかし、知って居ろうがここら辺りはバルバロッサの勢力範囲だ。その真っ只中を突っ切る訳にはいかない。」

 「そうすると、かなり険しいがクローネンス山地の北を迂回し、海沿いの断崖の上を越える。」

 「ところで、お前さん達、猪を仕留めたようだが、狩りは巧いのか。」

 「ディアスは狩人だ。」

 サムソンが自慢げに応える。

 「そうか、じゃあ、一日、二日かけて狩りをしながら進む。この山地の北と東では狩りなんてとても出来ない。まず、山を抜けるまでの食糧を確保しておくことだ。」

 「解った。狩りは俺とカミュに任せてくれ。只、山の北側を通るなら、こっちの草原に降りたほうが旅は楽じゃないですか。」

 ディアスが地図上に拡がるオーパス湖から海へと拡がる緑の一帯を指さす。

 「その低地を通るのは無理だ。毎日、いや刻々と川の流れが変わり、とても(わた)れるものではない。」

 それまで沈黙を守っていたカミュが突然言葉を発する。

 「知の民と呼ばれるドリスト、貴方なら色んな事を知っているでしょう。教えて欲しい、貴方の知識を・・・」

 「そうだな、お前達はあの閉鎖されロニアスの生まれ。外の世界のことは知らないことが多いだろう、言ってみれば生まれたての赤ん坊のようなもの。・・・良かろう・・儂の知っている限りのことは話してやろう。」

 それに、カミュが嬉しそうに頷く。

 「とにかく今日はもう遅い。明日に備えて眠ることだ。」

  

 「おお・・・日が昇る。」 

翌朝早く、ドリストの声に皆が目を覚ます。一晩、寝ずの番をしたドリストであった。

 「木の精とは便利なものだ。眠ると言うことを知らない。」

 ダルタンがそうからかう。

 「だから、いろんな知を集めることが出来る。

 儂も長い間この地に立ってこの辺りの全ての出来事を見てきた。

 知とは経験じゃ。

 我らの一族は長い寿命と経験で知を持った・・・。

 だから・・からかうものではない、ダルタンよ。」

 乾パンと干し肉の朝食を済ませ、洞窟の外に出る。ピクスの話では山狗は彼らを襲うことをあきらめ、既に去ったという。

 先を急ぐもの。狩りをするもの二手に分かれ打ち合わせを終える。

 こうしてカミュ達の新たな旅が始まった。


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