6.命名儀式と魔法書の鑑定
儀式は厳かに始まった。
王殿に居並ぶのは王と王妃、シュレヒテ侯爵夫妻、大神官達である。
王族の命名儀式なら何百人もの神官が居並ぶ
のが常であるが、魔物討伐からの復興の最中であるという理由により、最少人数の顔ぶれで執り行なうというアルベアト王からの命であった。
王殿の扉が開き、侍女に手を引かれ、よちよちと拙い足取りで美しい女児が入場した。
柔らかそうなアイボリーのドレスには、これでもかというほどの、金糸銀糸で豪奢な刺繍が施されている。
そのドレスに一同が気づいた瞬間、静かだった王殿にざわめきが起きた。
「金糸銀糸とは」
リヒター神官長は小さく呟き、そっと国王夫妻の様子を伺うと、アルベアト王は唇をわなわなと震わせ、拳が震えるほど握りしめている。
ヒーリーヌ王妃はうっすらと涙を浮かべているように見えた。
リヒター神官長は、小さく首を左右に振ってから入場者に命じた。
「こちらに来なさい。」
王殿の象徴である光が幾重にも差し込む神々しい台座へと促す。
移動しようと侍女が女児の手を引くと、
女児は足をピタッと止め侍女の手を振り払いながら大声で叫んだ。
「うるしゃい!」
まだ拙い喋りでオブラートに包まれたとはいえ、この女児の気性が窺い知れる一言だった。
リヒター神官長は何事も無かったかのように
もう一度命じた。
「こちらに来なさい」
ヒーディがコホンとわざとらしく咳をして、侍女を睨みつけると、ハッとした侍女は急いで女児を抱き上げ、台座に下ろし、自らは後ろに下がる。
神官長のリヒター卿が厳かに宣言した。
「これよりアインホルン王国、シュレヒテ侯爵の第一子の命名儀式及び魔法書鑑定を執り行う。」