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1.黒い炎
「何故こんな目に合わなければいけないの」
アインホルン王国の王女リーゼロッテは声にならない程小さく呟いた。
目の前には父親であるアルベアト王が、
爛々と目を光らせながら「終焉の業火」と
唱え闇魔法と思しき巨大な黒い炎をリーゼロッテに向けて発した。
アルベアト王の前には厚く七色の光を発する魔法書が開かれていた。
「こんなにぶ厚い本は初めて見たわ。そしてこの色彩も..」
命果てそうな時であっても、いやむしろそんな時であるからこそ、自らの命以外の事を思案している事が可笑しく、ふっと微かに微笑んだ。
そもそも齢9歳、「本無し」とはいえまだ幼く、ましてや実の父親に殺される程の何の罪を犯したと言うのか。
リーゼロッテの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた瞬間、黒い炎は身体全体を巻き込んで更に強く燃え盛った。
全身が黒焦げになるのを遠ざかる意識の隅で感じた。