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星の導く世界の果てに  作者: 暇な凡人
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プロローグ<喪失と再生の夜>

ネット小説に不慣れなため、至らぬところも多々ありますが暖かく見守っていただければ幸いです。


 アラム=ウォルクスは思い出す。

 もう忘れてしまいたいはずの、あの夜のことを。

 

 幼い少年は燃え盛る炎の中で、一人力なく倒れていた。

 おぼろげに周囲へと視線を向けてみれば、目に入るのは崩れた瓦礫の山だけであり、家だったはずのそれはもう本来の役割を果たしてはいなかった。

 天井にはポッカリと大きな穴が開いており、そこからは深い黒の夜空とその中で煌めく大きな月が見えている。


 遠くからいくつも重なった声が聞こえてくる。

 怒号に悲鳴、誰かの名前を叫ぶ大きな声。

 少年はなんとか起き上がろうと試みるが、身体はその意思に答えてはくれない。

 その脇腹には深々と鉛の棒が突き刺さっていて、傷口からは赤い鮮血が止まることなく溢れている。


 ゆっくりと意識が遠のいていく。

 身体に込めたはずの力が抜けていく。

 生きるために必要な熱が、少しずつ身体の外へと消えていくのが解った。


「...ぅ、...ぁ」


 小さな口から引きつった息が漏れる。

 自分はもう助からないと、彼は直感的に理解した。

 受け入れ難いはずの死を前にして、少年はどこか冷静だった。

 

 眼前の全てを諦めて目を閉じる。

 彼は薄れゆく意識の中でこれまでの短い生涯を振り返ることにした。

 どうせもうすぐ死ぬのなら、恐怖に怯えて終わりを待つよりも、幸福な記憶の中に居たかったのだ。


   *


 少年の父は不器用で厳しく、けれども優しい人だった。

 母は周りにいる人間を暖かく包み込んでくれる陽だまりのような人だった。

 そんな両親と簡素な小屋のような家が、少年にとっての世界の全てだった。

 食事すらままならないような貧困にまみれた毎日の中で、それでも彼は幸せだった。

 貧しいながらにも父と母が注いでくれた愛情を確かに感じることが出来たからだ。


『...ごめんね、アラム。貴方をギフティスに生んであげられなくて』


 時折、母は彼にそんなふうに謝ってきた。

 少年はその言葉が意味するところを理解できなかったけれど、その時に彼女が見せた悲しげな表情が少年にはどうしようもないほどに痛かった。

 謝る必要など何もないのだ。

 父がいて、母がいてくれれば少年はそれでよかった。

 

 だからこそ、守りたいと思った。

 どれだけ毎日が苦しくとも、そのささやかな幸福が続いてくれることを誰よりも願っていた。

 そんな少年の想いは、いとも簡単に踏みにじられてしまった。


   *


 固く閉じられたはずの目蓋が開く。

 そこに広がる現実は幸福な記憶の中とは正反対の炎と煙に満ちた地獄だった。

 本当はこんなはずじゃなかった。

 いつもと同じように僅かな食事をとって、三人でその日あったことを話して、またいつも通りの明日を迎えることが出来るはずだったのに。

 どうしてこの世界は、そんな幸福すら奪い去ってしまうのだろうか。


「...父さん...母さん」


 絞り出したその声に返事はなかった。

二人は少年を置き去りにして、もう既に炎の中に消えてしまった。

 崩れ落ちた屋根から見える空には、まるで自分たちのことなど関心がないように、純白の月がいつもと同じように輝いている。

 美しく、どこか残酷で冷たいその光が地上を照らし続けている。


「...嫌だ」


 弱々しい震えた声が少年から溢れ出た。

 そうだ、まだ死にたくない。

 けれど生き残ったとして、どうするばいいのだろう。

 もう彼には何も残っていない。

 父も、母も、三人で暮らした小さな家も失った。

 そんな世界で生き延びて、何の意味があるというのか。


「...嫌だ...死にたくない」


 それを理解していながら、少年はボロボロと涙をこぼしながらそんな言葉を吐き出し続ける。

 彼の小さな手が虚空を彷徨う。

 視界は既に役目を果たすことなく闇に覆われており、聴こえる音もどんどん小さくなっていた。

 世界が遠ざかるような感覚が、明確な終わりを少年に突きつける。


 そうして意識すらも完全に消え去ろうとしたその時、彼は確かにその声を聴いた。


生きたいか、とーー


 瞬間、消え去ろうとしていた自我が鮮明になる。

 燃え盛る炎のような熱が、その身体に走り抜けた。

クソ重いプロローグになってしまいましたが、次回から師匠との楽しい旅が始まります。

楽しんでいただければ嬉しいです。

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