rail gun
BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNNNNN!!
光が換装体の鼓膜を焼いた。
赤茶けた荒野の形を大きく変えた。
遅れて聞こえる砲撃の音。
突風は砂埃を巻き上げ、視線を塞いだ。
踏ん張りきれないと悟るや否や、すぐさま大きな岩の陰に避難した。
しかし、風は止まない。
視界が遮られた以上ARから情報を得るしかない。
人間という生き物は状況がわからないと、パニック状態になりやすいらしい。いつもならスムーズに操作できるインターフェイスも上手く操作することができない。
ARは警告を鳴らすばかりで敵味方の識別すらまともに機能しておらず、まるでそこら中に敵性戦力がいるかのような反応を示すばかりだ。
「無事か?」
「こちらは無事だ。敵の新兵器か?」
緊迫した声は他の岩陰から聞こえる、声を出すことで少しでも情報を得ようとする姿勢はさすが軍人といったところだろうか。
「十分に目視はできなかったが、おそらく高威力の遠距離兵装だろう」
「突撃するか?」
「ガロンの充填には時間がかかるはずだ」
確かにあの威力であれば、相当ガロンを食うはず。それなら、今がチャンスだろう
「総員突撃準備」
僕は静かに銃を構えた。他の仲間も同じように銃や武器を構えている。安全装置をずらし、すぐにでも撃てる準備をする。
先ほどの威力を目の当たりにした後油断している人間は誰一人いない。
誰もが息を飲んだ。
ガリリ、という不愉快な音がすぐ近くで聞こえた気がした。
準備はできている。いつでも飛び出して撃てる。ARはあいも変わらず敵性戦力と味方の識別に失敗しているものの、照準を敵の新兵器をすぐに撃てるようになっている。
「・・・マテ」
小声で声が聞こえた気がした。かと思うと、腕を引っ張られて岩の奥へと追いやら
BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!
れた、、、、。
再び極光が視界を遮った。
いや、違う。
撃たれた。
明確にこっちにいる部隊を狙っている。
今度の閃光は網膜だけでなく、感覚器官ー頭まで白で染め上げた。
手足からは汗が滲み出ている感じがする。僅かに震える手足はまるで生まれたての子鹿だ。
「ハヤト イキテル?」
聞きなれた声がしたが、それどころではない。頭は完全にフリーズしており、失神して現実からログアウトしたい気分だ。
さっき手放さなかった銃も、今度ばかりは落としそうになり、意識が徐々に現実に戻っていくのがよくわかる。
あれ、銃ってこんなに重かったか。
「ハヤト、イキテル?」
金髪の人間が姿勢をできる限り低くして問いかけているのを認識すると、震える口で答えた。
「はやとは、、、生きています!!」
今で使ったことはおろか、日本語教室ですら使わないような言葉は、不思議なくらいスムーズに自分の口から出てきた。
「ハラショー。ハヤト オチツク サイショ」
「、、、あぁ ミハイルか」
心ここにあらずといった感じの生返事しかすることができない。
目の前の外国人はどうしてそんなにも落ち着いていられるのだろうか。
死が怖くないのだろうか。
あの光に飲まれたらひとたまりもなく死ぬことが確定している。むしろ死ぬ以外の何があるというのだ。感じたことのないドロドロとしたものが腹のそこにあるのを強く感じる。死ぬ前に感じる恐怖というのはこういったものか。ホラー映画で感じたドキドキなんて嘘なんてものじゃない。死の恐怖で叫べる人間なんて所詮まだまだ余裕があるということがよくわかる。
「ボット(ほら)」
自分の数倍落ち着いているらしいミハイルは、岩の影の方へグイグイと手を引っ張った。
「なんでそんなに冷静なんだよ!!」
「ダイジョウブ。ハヤト シナナイ」
一度引きつった表情筋はなかなか元には戻らない。
しかし、識別反応は治ったらしく、ミハイルには味方を示す、グリーンのマークがついていた。
「イマ アンゼン」
「のようだな。でも、無茶苦茶じゃないか!!」
「・・・シー」
理不尽な攻撃に腹を立てる僕に向かって指を立てた。
「すまん」
「シズカニ」
まだ敵がどこにいるかわからない状況で声を出すのは馬鹿のすることだ。
「ごめん。ミハイルのおかげでだいぶ落ち着いてきた。本当になんとかってところだけど」
「コワイカ」
「怖いに決まってるだろ。あんな化け物みたいな攻撃。こっちが持ってる銃なんてチャチなもんだろ。見たことねえよあんな威力」
声のトーンが上がるのを必死に抑えて青い瞳を見つめる。
「アァ」
「こっちが持ってる銃が豆鉄砲にしか見えない。勝てるわけないし、とにかく基地まで戻ろう。やられてなければ良いけれどね」
「イマハ ムリダ」
「は?」
ミハイルの言葉が上手く頭に入ってこない。コイツ何て言った?
「オチツケ。オレラブタイソトカラ オソウ・・・・オソッテタ」
ロシア語を話されても困る。誰が意思疎通のためにこれだけの日本語を教えたと思ってるんだ。さっさと日本語で話やがれこの外人め。
「ブタイ・・・・ソト・・・・・カラ・・・・・オソッテタ」
ミハイルはゆっくり、1単語ずつ区切って丁寧に言い直した。
「外から襲う・・・?ああ、そういうことか最悪だ。つまりは僕たちの部隊自体が、側面回り込んで叩くために控えてた部隊だったってことかよ。ほんとクソだな」
小声で呟くとようやく自分の立ち位置がわかった気がした。
「ハヤト シッテル アル?」
「ねぇよ。むしろこっちが聞きたいくらいだよ。どうやって逃げるんだよ」
岩の遠く向こう側には強力な兵器があるのは間違いない。音と光は遠かったものの、射程を考えればこちらを狙うなんて造作もないことだろう。
油断していてズドン。なんてシャレにならない。というか認識する頃には消し炭になっているのだろう。
「だいたいなんだよあの射程。キロ単位の射程は間違いなくあるし、威力なんて岩を溶かすとか頭おかしいのかよ」
「レンゾク」
「そうだよなぁ。普通ああいうのは連射できないようになってるんじゃねえの?5分くらいクールタイムあってもいいよね?1分もせずに次弾を撃ってくるのほんとやめろって感じ。マシンガンみたいな連射性能じゃないのだけが唯一の救いだな」
手を伸ばすとすぐそこには先ほど砲撃によって飛んできた白い石が転がっている。
「あんだけ威力出てるんだったらガロンの消費馬鹿にならねぇだろう。どれだけ弾丸にガロン注いでんだよ。どう考えたっておかしいだろ」
「アァ」
相槌をうってくれるのは助かるが、早口な日本語の半分も理解できていないだろう。白い石を弄びつつ、説明するため、AR上に文章共有ウィンドウを起動した。
「いいか?弾丸を撃つのに、弾丸本体の物質化、弾速、そして爆発の3つにエネルギーが必要なんだ。本人のガロンが多ければ多いほど強いのはそのおかげだ」
ARをリンクさせ、ウィンドウを見せた。
「あれだけの威力を出そうと思うと、多分だけど僕たちのガロンなんてすぐに枯渇すると思う。というか換装体を作ることも考えると普通は一発も打てないと思う」
というかどう考えてもおかしい。変換効率が良いとかそんな次元ではないはずだ。
少なくても自軍が持っている技術力でそんな力は発揮できない。もはや固定砲台と言っても過言ではないだろう。
「地球ならそんな攻撃があっても疑問はないけどさ。ミサイルとかレーザーとか」
「アタラシイ ブキ」
武器というか、兵器だな。
世代を3つくらい飛ばしているだろ。
「【ブレード】」
【警告 敵性戦力接近】
ギン!!
警告音よりも先に飛び出したのはミハイルだった。相手の攻撃を防いだかと思うと、あっという間に切り結んでいく。
それまで出していたウィンドウを全て消し、ARを戦闘モードに切り替えた。油断していたため、慌てて銃を構える。
落ち着け
下手に撃っても邪魔になるだけだ。だが、「換装体」である限り味方に誤射しても、ダメージは小さい。ここは援護射撃をするべきだ。
少し息を整え、耳をそば立てた。AR以外でも撃つべき場所を確かめるためだ。
大丈夫。
そこを目掛けて打てば当たるはず。
僕は心の中でカウントをとった。
3
2
【でるな】
「加勢す!」
共有を切るのを忘れていたARの画面からメッセージが飛んできて、慌てて引っ込んだ。
あぶねぇ。
【3 いる じぶん たおす】
「敵は3人で自分でなんとかするってか」
返信をしようとするが、近距離で切り結んでいるミハイルのARに余計なものが写って負けるのも気が引ける。
祈ることしかできない。
そもそも、20メートル先の的にさえ三発しか当てることができない人間の援護射撃なんて期待するだけ無駄というものだろう。
今日は既に的に当てているから、幸運にも期待はできない。
「ミハイル頼むぞぉ」
訓練中ではほぼ負けなしと聞いてはいるが、実戦と異なるのは間違いない。
しかも、敵は3人もいる。
1対1のタイマンとは訳が違う。
やることもなく、無駄に安全装置を動かしてしまう。もし負けてしまったら次は自分の番だ。逃げるか?
いや、2度もミハイルを見捨てて逃げるなんてできない。ミハイルがいなければ、生き残っていない。それこそ恩知らずというものだ。
だが、ここにいたというところで何の役にたつ?遠くにいた方がミハイルも気兼ねなく戦えるのではないだろうか。
【1 かった】
悩む僕に届いたのは、短いメッセージだった。3対1で勝ってしまうのか。さっきまでの葛藤は何処へやら僕は思わずメッセージを返してしまった。
【かてそう?】
【かんたん】
ミハイルという人間はどうやら本当に強いらしい。
なら、待っているだけでいいだろう。
護身用に一応銃を持っておけば大丈夫だろう。
当たらないとは言え警戒しておくことに越したことはない。
【てきのぶそうは?】
【ブレード 2 ランス 1】
【たおしたのは?】
【ブレード】
どうやら相手は近接手だけで揃えた小隊のようだ。中距離武器があるならともかく、無いのであれば加わる道理はない。
いるなら威嚇射撃をすれば気を引けるだろう。いないのであれば、標的を変えて接近されて落とされるのは避けなければならない。
勿論当たるのであれば、もっと僕が強ければ話は別だ。有利なんてもんじゃない。すぐに片付くだろう。だけど僕は200発撃っても3発しか___
「違う!!」
ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
頭が理解する前に僕は岩陰から飛び出してトリガーを引いていた。切り結ぶミハイルの目には驚きが浮かんでいるのがわかった。
【警告 敵性戦力に発見されました】
「知るかボケ」
僕は無我夢中で辺りを撃ちまくる。
「【でるな!!】」
ミハイルからの警告と怒声が聞こえるのを無視して、引き金を引く。当たるとか当たらないとかそんなことは完全無視だ。こっちは必死である。
「おらああああああああああああああああああああああ!!!!!」
無我夢中の頭では何で飛び出したとか、どのくらい当たるとかそんなことを考える余裕はない。
てかなんで僕飛び出したんだよぉ。
そんな支離滅裂な僕とは反対に、ミハイルは動揺して視線がこっちを向いた槍使いの足を切り裂いた。
「アイテハ コッチ!!」
二人の注目を惹きつけるためか、ミハイルは僕の声に被せるかのように大声を出した。しかし、向こうでは敵は示し合わせたかのようにこっちを見ている。クソが。
「当たれええええええええ!!!!』
しかし、懲りもせず僕は打ち続ける。
ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
小気味のいいフルオート射撃は僕のガロン残量をガリガリと削っていく。
陶しいだろう!?
そこからじゃ攻撃もできないだろう!?
どこ狙ってるかわからないだろう!?
流れ弾でも当たればダメージはあるんだろう!?
だが、接近しないだろう!?
もう一人いるんだから
【警告 弾ガロン飛来】
「うお!!」
警告音で我に戻った。
そして、獲物から逃げる子ウサギかのように、慌てて岩の影に逃げた。
ズドン
地面を揺らす音がしたかと思うと、岩の上半分が吹き飛んでいた。
あぶねえ。
まだ半分残ってるけど、このまま隠れてても大丈夫なのか?他の岩へ移った方が良いのではないだろうか。
向こうに見える岩までは大体7~8mくらい。横断歩道の幅よりやや広いくらいだろう。そのくらいなら当たるはずがないだろう!
僕は数秒もしないうちにそう結論づけて、必死で走った。
ズドン
さっきまで隠れた岩は、粉々に砕かれ爆風が頬をわずかに掠めた。
やばい。
なんとか岩の陰へと滑り込むと、顔を覗かせて音のした方向をわずかに見た。
結構遠いところから打たれてし、あの威力なら、この岩もやばいんじゃないか、、、
ズドン
音がする前に、僕は走り出していた。
最初に隠れていた岩はかなり大きかったが、二発で木っ端微塵だった。今の岩なんて簡単に壊すことができるだろう。
超威力のビーム攻撃も怖かったが、追い詰めるような今の攻撃もめちゃくちゃ怖い。
当たったら「換装体」は間違いなく溶ける。
連射ができないからまだ生き残れているが、死ぬのも時間の問題だと思う。
何処か壊れないような大きさの岩を探して逃げなければ、
「【コッチコイ】」
ズドン
【alj行けるわけarm;ねぇだj;あfdl】
走りながら入力なんて器用な真似はできない。
どこかで一度は止まって確認しないと。そもそも、撃ってる場所すら全然わからないければ、如何しようも無い。
いっそのこと接近すれば、敵の場所も掴めるだろう。
少し寄ればむしろ僕の武器の間合いになるはずだ。
様子を伺っているうちに、ミハイルからまたメッセージが届いた。岩が壊される事を考えればそれほど長く返事はできない。
【ミハイルの方には行けない】
【かくれとけ】
【そっちに集中しろ】
焦りでミハイルが漢字を読めないことも忘れている。
【俺が遠いのを何とかする】
【うごくな】
【仕事くらいする】
メッセージを送ると決心がついた。
いくぞ。
まずは、あの岩まで。
少し遠いが、あの間隔なら余裕で行けるはず。
荒野に飛び出し、無我夢中で足を動かす。少しでも向こう側へ。
ズバン
大丈夫だ。今のはさっきいた岩を打つ音。ここから5歩で次の岩に行けるはず。
まだ間隔には余裕がある!!
ズバン
嘘だろぉ。
発砲の間隔が思ったよりも短い。
ここだと遮るものが何にもねえ。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ
これじゃ動く的でしかない。
ズバン
野球選手のヘッドスライディングのように飛び出して、少しでも遠くの場所に行けるように体を投げ出した。
避けろおおおおおおおおおおおおお。
神に祈りが届いたのか、なんとか傷を負う事なく岩まで移ることができた。
想像より岩の感覚が遠い。
焦っているから、そう感じるのかもしれない。
【うごくな】
【かくれてろ】
【なんとかする】
ミハイルからの鬼のような通知に目を配らず、次の岩の場所を探る。
さっきの連続攻撃とは裏腹に今度は撃ってくるまで時間がかかっている。クールタイムか?
クールタイムなら、終わる前に次の岩を目指した方がいいだろう。
目を凝らすとちょうどいい窪みが目に入った。荒野のくせに遮蔽物が多いのは本当に助かる。
砂漠とかなら本当に終わっていたのは間違いないだろう。
パンッと両手で頰を叩くと少し気合が入った。
あそこまで行けば敵の姿が見えるはず。ほんの少しだけ走る準備をし、腰を落とした。
いくぞ!!
敵の弾が自分の足元を穿ったのを確認する前に、僕は次の岩へと飛び出した。
一歩、、、
ズバン
二歩、、、
三歩、、、
ズバン
足が
クッソ、やっと近づいて来たっつうのに足持ってかれた。ここで撃たれたらゲームオーバーだ。
岩はどこだ?
逃げるところは?
目についた小さな岩に向かって僕はダイブした。
こんな岩すぐに壊される!!!!!
ズバン
さっき僕がいた開けた場所を弾丸が穿つ様子が見えた。
次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩、次の岩
いや、待て。
さっきから撃つ感覚が短くなってないか?
音も、、、違う気がする。
そもそも、今隠れている岩は大きくはない。
だから壊されてもおかしくないはず。
なぜ撃ってこない?またクールタイムか?
【いきてる?】
【だいじょうぶ そっち?】
【あしをやられた】
後ろを向いてミハイルの様子を伺うと、先程までと変わらず5体満足で相手からの攻撃をかい潜るミハイルと、そこら中にヒビの入った剣使い、片足を切断された槍使いが目に入った。うまくいってるようだ。
「マジで凄いな」
槍使いの一撃を跳んで躱したかと思うと、敵の剣を足場に空中で機動を変え、返す手で懐に飛び込む。一方で、剣使いは慌ててバックステップを踏み、ギリギリのところでなんとか避けている。致命傷には至っていないがそれでも、細かい傷を受けているのがわかる。
【そろそろ おわる】
メッセージを飛ばす余裕すらあるようだ。それどころか、こっちと目があった。
僕は慌てて目をそらし、岩の向こうにいる敵を再確認した。
こっちはこっちの仕事をするぞ。
足手まといなんてまっぴらだ。
敵の射手の位置は大体わかってる。次の岩を突破すればそのまま蜂の巣にできるだろう。
問題は、発射速度が上がった相手の攻撃をどう避けるかだ。
様子を伺おうと顔を出すと、
ズバン
すぐに撃たれた。しかし、岩自体が削れているわけではない。最初の威力を鑑みれば今いる小さな岩なんてさっきの威力なら、丸ごと抉られても不思議ではない。
だが、さっきと違って吹き飛ばされる様子はない。
やっとわかった。
銃を変えているんだ。
威力重視から連射重視に。
さっき岩陰に入ってた時撃ってこなかったのも、クールタイムなんじゃなくて、撃っても意味がないからだ。
じゃあ、なんで元の銃を使わない?元の銃を使えばすぐにこんなところ吹き飛ばせるはず。
持ち替えるのに少し時間がいるのか?
確かにミハイルに誤字だらけのメッセージを送った後の次射はかなり時間があった。メッセージを送るのには結構時間がかかる。それなのにその間威嚇射撃すらなかった。
僕が接近していることに気づいたからこそ、連射性が高い武器の方が効くと思って持ち替えたんだろう。ならば、ここから元に戻すことはないはず。いつ飛び出してくるかわからないからだ。
【あと 1】
吉報とも言えるミハイルからのメッセージが届いた。
これなら、無理してわざわざ飛び出す必要もないだろう。
【おわったら たすけて】
メッセージを送り、一安心だ。
さあ、これで適度に顔を出して向こうを警戒させれば、あとはミハイルが
ズガガガガガガガガガガガガガガ
そんな、、、、
上から降り注いだ弾丸が僕の換装体を貫いた。
頭、腹といった重要部分に穴が空き、ガロンが溢れるのがわかる。
あっという間に「換装体」は解け、「本体」が露わになった。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ
ここから逃げないと
今度こそ死ぬ。
ARに表示画面がない世界は、僕の恐怖を一層引き立てた。
「よく、頑張りましたね。でも残念。弾丸は2種類あったんですよ。通常弾と追尾弾の」
背後から女の声がした。
振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、振り向いちゃダメ、
体は意思に反抗して、無理やり振り返った。
複雑そうな顔をする女が、手に直接ガロンの弾丸を作り立っていた。
もし、ここに拡張現実があれば、きっと敵性の赤いマーカーが浮かんでいたことだろう。
「これでお終い」
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