第五世代
第5世代型ガロン-銅剣MrⅢ
現行の第4世代では使用できなかった大出力のガロン兵装を使用可能とするために、人間自体を改造し敵性をあげる試みが行われた。
実験自体は成功したものの、実用の段階になってガロン兵装そのものの課題点が浮き彫りになった。
反動が大きい点だ。
当初、優秀な狙撃手を育成することによって、デメリットを相殺する方法を試案したものの、二つの課題点にぶつかった。一つは、反動が「充電量」に依存する為、バラツキに慣れるのが非常に難しいこと。もう一つは、目玉である超長距離射撃・高威力射撃を行う場合、反動で換装体が吹き飛ぶことである。
これに対応するために編み出されたのは、どこかに固定して使用する案だった。
しかし、一回換装する度に設置するのは時間がかかりすぎる上に、"ブースト”で高速で移動された後にカウンター狙撃される危険性が高かった。
換装体を利用した戦争である以上、移動できないのは致命的なのだ。だからと言って銅剣使用者に"ブースト”を持たせることは現実的では無い。
ならば他の人間に固定させてしまえと言う発想の元、発信機は砲身を外部からの引力・斥力によって固定するという補助兵装だった。
この発明は画期的であり、副産物として想定していた超長距離だけでなく、一般的な狙撃や中距離戦についても解決策を与えたのだ。
「能無しの愚か者にしては、よく思いついたものだな」
「サーイエッサー」
「だが、そんな訳無いだろうが!!馬鹿者!!」
グゴッッッッ
これだからクソ上官に報告するのは嫌だったんだ。僕だって叶うことなら、直接ミハイルやサンダリアさんに伝えたかった。
「この役立たずめ」
錯乱しているのか、手に持っていた作戦の詳細の紙をばら撒いてまで、鞭を振るってきた。
くそぉ
「こんなつまらんことで2回も呼び出しおって、やはり貴様は奴隷にしておいた方がよかったのかもしれなぁ」
この間一瞬でも有能とか思った僕が愚かだったよ。
「大方、捕虜に何か吹き込まれたのだろう?女が相手だから調子に乗りおって、ああ?」
このクソ上官が人の話を聞くような人間じゃなかったのは、僕が一番知っていたはず。大方サンダリア隊長の顔を立てていたとか、そんな感じだろう。
「失せろ!!」
「サーイエッサー」
僕は久しぶりに上官の鞭と蹴りによって地面にキスしたまま返事をした。
作戦の詳細の紙が下敷きになっていた。
部隊のテントに戻って来た時、明るい顔をしていたマリンの顔はすぐに曇った。
「ダメだったんですか?」
僕は微かに頷いた。
「確かに舞い上がっていたのかもしれないね。辻褄があったし、説としてはありだったと思うんだけど」
「確証が持てないことで作戦の変更はできないってところですかね」
「なるほど。そうかもしれないね」
どこかポジティブな印象を上官に抱いているマリンを見ると、何だかやるせ無い気持ちになった。もちろんマリンの言うことは一理あるかもしれない。
会って数日の人間にそんな期待を寄せる僕が間違っているんだろうけど。
じゃあ、せっかく弱点らしきものがわかっても僕はミハイルを見捨てるのか?
ミハイルだけをあの第5世代と戦わせてそれで満足なのか?
それは違うだろ。
「ねえ、訓練用の換装体ってさ通信を切ることができるんだよね」
「何を言っているのですか?」
「質問に答えろ」
「できるとは思いますけど・・・」
「今すぐ切断して、マリンとのローカルネットワークにしてくれ」
マリンは困惑した表情をしたものの、作業を開始してくれる。
「それから、この訓練機の空いているスロットを教えてくれ」
「いや、空いてる訳無いじゃ無いですか。これMAXが6ですよ?」
「換装体とARで3だったね。じゃあ3枠は開けられるね」
「それはそうですけど」
助けになるかは分からない。
足手纏いにしかならない可能性だってある。
寧ろ僕の強さだったら、足手纏いになるんだろうな。
「そこに、"ソナー”と”ブースト”を入れてくれ」
「わかりました」
「最後の枠には射出機なしの弾を入れられる?」
そこでマリンはハッとした顔をした。
「まさかと思いますが、ミハイルさんの所へ行く気ですか?」
「そのまさかだよ」
だって、目に入ったんだ。
クソ上官に蹴り倒された時に、作戦の詳細の紙が。
「場所はわかってる。ここから北に20キロの廃墟」
「"枯れた街"ですか・・・」
「そこなら銅剣から目視されることはないから有利だって考えたみたい」
「確かに仮説が正しければ、目視はあまり関係ありませんからね」
「正しければだけどね」
もし間違っていたとしたら、無駄死にするようなものだ。
そうでなくても重度の命令違反で処刑になること間違いないだろう。
「もし僕が向こうへ行ったとしたら、生きて帰ってきたとしても」
「殺されますね」
「それでも、僕は行こうと思う」
僕は調整が終わったらしい、「訓練用」の換装体を手に取った。
「【換装体起動】」
ああ怖い
クソ上官にいたぶられるよりも、レールガンで撃たれるよりも、彼に失望されることが。
ミハイルは僕を生かせる為に戦場に、サンダリア隊長に要求したはずなのだ。
役立たずで、弱くて、情けない僕の為に沢山勇気を出してくれたんだ。なのに僕はその気持ちを踏みにじろうとしている。
「私はこれ以上は手伝いませんよ」
「十分だよ、ありがとう」
「こんなこと言うのも変な話ですけど、貴方は今私の生殺与奪の権利を持ってるのですから、使わないのですか?」
変な事を聞く人だな。
「それで君は、素直に僕らの味方をする程お人好しじゃないでしょ」
マリンはニヤリと笑った。
「ちょっとはマシな面になりましたね」
「行ってくる」
「ブーストを付けた状態で走るのはコツが要ります。普通に走るよりもやや低い体勢をして、足の歩幅を大きくする気持ちで走ると良いですよ」
「覚えておくよ」
僕は天幕を出た。
日は既に傾き始めている。
荒野には伸びた僕の影が映っている。
ただでさえ、赤茶けた大地は夕日を受けて一層鮮やかなオレンジ色を作り出していた。
通信は遮断されているから、リアルタイムの現在地を教えてくれるのは時計とコンパス、そして手に持つメモ帳だけだ。
そういえば何処かでこんな話を聞いたことがある。地球でコンパスのN極が北を指すのは地球自体の北極がS極であるからなのだが、勘違いしやすいと。
この世界も大地そのものが磁石になっているのだろうか。それとも別の原理でこの針は北を指しているのだろうか。
そうやって少しずつ世界の謎を解き明かすのはきっと楽しい事に違いない。
地平線の向こうにあった街はいつの間にか眼前に広がっている。
戦闘はもう始まっていた。
【ローカルネットを検知、接続しますか?】
しなくていい。まずは状況を見極めなければならない。
高台はバレるから家屋から様子を見よう。
見慣れた人はまだ誰もいなかった。
通信を経由しなければ誰が敵で誰が味方なのか全くわからなかった。
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