本当に異世界に拉致されたら?
ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
思わず耳を覆いたくなるような、酷い炸裂音が現実へと僕を戻した。
こめかみに力を入れ、眉をしかめたい気持ちをグッとこらえ、ひたすら銃の弾を撃ち続ける。
万が一にでも耳を塞ごうものなら、途端に鞭が飛んでくるに違いない。
いや、
今まで飛んできてたからこそ、世界中の拷問で鞭がよく使われていた理由を誰よりも知っている。
兎にも角にも、目の前にいるイライラした顔で命令する人間に逆らうことはできないのだ。
「48、49、50番 射撃訓練を始めろ」
「イエス、サー」
「他は換装体を解いて、攻撃訓練に移れ。それから貴様、体の軸がぶれている。この程度の的にも当てられんのか!!」
「すみまs」
撃ち続けていると言うのに、容赦無く腰を思いっきり蹴られる。
いつも鞭が来ると思ったら大間違いだ。
上官とは一生思いたくもないクソ野郎は気分によっていたぶる方法を変えてくるのだ。
「武器を落とすな馬鹿者、さっさとしろ」
「すm」
「黙れ黙れ黙れ」
今度こそ、持っている鞭を使ってきた。
スナップが効いた無駄に鋭い一撃は、僕の脇腹にヒットした。
しかし、傷どころか、血の一滴も出ることはない。
もっと言うなら、腕を切ろうが頭をぶち抜こうが、人体をもいだとしても、何も起こらない。
代わりによく分からない気体のような何かが、ガス漏れのように吹き出るだけだ。
それで痛みもなければ、完璧なのだが。
脇腹を抑えた僕は、じんじんする痛みをこらえるため、グッと奥歯を噛み締めた。
優しい言葉をかけてくれる人はこの場にはいない。
いるのは、見たこともない人の肉壁となる為に訓練を施される新兵と、それを施すクソ教官だけだ。
だから、みんな自分のことで必死なんだ。
僕も含めて。
「さっさと射撃訓練を始めろ。そこ、構えなおせ。撃方がなっとらん」
「サーイエッサー」
上官の声で、僕は今日5回目の的当てを始める。
さっきから撃っているのは「ガロン」と言って、所謂「魔力」みたいなエネルギーなのだが、既に今日の度重なる訓練で体の中にあるものは、ほとんど使い切っている。
今から5回目なんて馬鹿らしい。
ちなみに、体もガロンで「換装」されている。
だからこそ、僕らは躊躇いもなく殺されるし、時には手に持つ銃で打ち合いをさせられる。どうせ死なないから、相手を撃つ事の罪悪感もほとんど無くなってしまった。
さて、この時間の訓練の内容であるが、距離にして20mの的に弾を当てると言うものだ。簡単そうではあるが、全然当たらない。
弾丸がガロンで出来ているせいか、まっすぐ飛ばない。本物の銃と比べても命中率はかなり低くなっているだろう。
もちろん、僕の才能がないのも間違いなく一つの理由だろう。撃てば、あらぬ方向へ弾が飛ぶのを、銃の性能に責任転嫁するつもりは毛頭ない。
だからと言って上官が僕に暴力をしていい理由にはならないはずだろう。
「貴様ら!さっさと失せろと言ったのが聞こえなかったのか?」
「「「サーイエッサー」」」
一瞬、僕がまた怒鳴られたのかと思ったが、そうではなく、無駄に喋ろうとしていた他の仲間を怒鳴っているだけのようだった。
彼らは敬礼を軽く行い、扉の奥へと消えていった。
今日のクソ上官の八つ当たりの相手は僕に決定のようだ。
「全然当たっていないようだな」
「すみません」
「どうやら指導が必要なようだ」
「ガロンが枯渇しておりまして」
「うるさい」
バシッッッッ
「貴様は黙って弾を打てば良いのだ。口を開く前に手を動かせ」
クソ上官は無駄にコントロールの良い鞭で肩をえぐった。ギリギリ腕から銃が落ちない程度にだ。妙にそのコントロールが上手いのも非常にムカつく。
だが従わないわけにはいかない。
「射撃用意」
銃の左側にある安全装置らしき部分をスライドし、右手でグリップを握る。
銃床を胸に当て、左手で銃身を握った。
そこまでしてから、目印っぽい穴から的をのぞく
「撃ち方よし」
ズダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
フルオートでかなりの数を撃ったものの、赤い円に入った弾丸は全部で3つ。他は見事にその上に印をつけた。ここまでいくと才能すら感じる。
しかし、それまでの4回では1発も当たらなかったことを思えば、3発だけでも当たっただけ全然マシなのだろう。嬉しくはないが。
このガロンでできた物体は、形こそ全く似てないが、セミオートのアサルトライフルみたいな感じだと思われる。・・・って同室の男が騒いでいた。違うのかもしれない。
この銃のガロンの消費はかなり低い方である。それ故に命中が低いのかといえば、そう言うわけではないらしい。
ゲームの知識では、アサルトライフルと言うものは、使いやすく射程も悪くないそうだ。だから、反動を考慮しても、もっと当たるものなんだそうだ。
要するに何が言いたいかと言うと、、、僕の能力は低すぎる。
どうせ「換装体」になるんだから、もっと腕力とか強化してくれよと思わずにはいられない。残念ながら、脚力以外は少ししか強化されない。
素人ながら、軍隊であるならば、手を強化した方がいいのではないかと思わざるを得ない。
「そろそろ当たったか」
「サー。三発当たりました」
「阿呆が。40も50も撃って、当たったのが三発だと。死にたいのか」
「サー」
「敵の小隊の人数よりも少ない命中数でなんの役に立つ?このくそ豚め」
「・・・」
こっちにも豚がいるのか?
「返事は?」
「サーイエッサー」
バシッッッッ
答えたにもかからず、鞭は容赦なく飛んでくる。
本当に人を甚振ることしか考えてないクソ野郎だ。
「だいたい貴様は力が入りすぎなのだ、この出来損ないのポンコツ人間め」
ガッッ
言葉とともに、拳が顔に刺さる。銃から手は離れ、ぐらりと体が傾いた。
踏ん張りが効かずに、地面に倒れこむ。
倒れた人間を起こすような優しさは、、、こいつにはない。倒れたまま、胸ぐらだけ掴んで僕を睨みつけた。
「上は何を考えてこんな役立たずを生かしているのか。さっさと処理してその分のリソースを別のことに裂けば良いものを」
これだけ近ければ、唾でも吐いてやりたいところだが、隷属設定の「換装体」は、「本体」の首が閉まり苦しいだけだ。
それこそが、このクソ上官がやりたい放題やっている理由でもある。
自分が優位だからこそやりたい放題やるのだ。
ちなみに、殴りかかると「本体」が感電死するらしい。
何番(誰)かは忘れたが、びくりと震えて換装が溶けたのを見たことがある。
体を起こし、無駄口を叩いてる上官を横目に、白と黄色のセンスのない銃を手に取った。
腹を立てつつも、当たることのない的をもう一度狙う。連続で沢山撃たずに、少しずつの方が当たりそうな気がする。
「外界の人間がガロンが多い奴が多いのかしらんが、少年兵よりも役に立たん生温い小僧を使ったところで意味はないだろうが」
「撃ち方よし」
右手の人差し指をわずかに動かすと、ほんの僅かに体から何かが抜けていく感じとともに、数発の弾丸が壁に向かって放たれた。
的には当たらない。右に逸れたか
クソ上官は撃っている僕には興味がないようで、ブツブツと独り言を言い続けている。居るだけでうっとおしいんだから、せめて黙っててくれ。
「確かに、容量自体は民間人よりも多いかも知れんが、コストパフォーマンスが」
集中集中。
若干左に照準をずらし、的の中心をぶち抜く気持ちで狙う。呼吸を止めて、引き金をひく。
数発の軽い破裂音とともに的の左上を撃ち抜いた。
今度は動かしすぎたようだ。この加減が絶妙に難しいのだ。何とかして的の中心に当てたいところだが、そう簡単なことではない。これでも半年やって上達はしてきているはずなのだ。
そもそも立ったままで当たるわけがないと言うことがわからないのだろうか。どうせならライフルの如く、寝ながら撃ったらダメだろうか。それか三脚を立てるとか
ダメだろうな。
蹴りが飛んでくると思う。
「遅いぞ、さっさと撃ち尽くせ。どうせ当たらん」
「はい」
早く訓練を終わりたい上官の蹴りが、自分の背中に当たる。どんな風に構えていたとしても、結局蹴りがくるのか。ならさっさと終わらせてズラかろう。目をつけられても困るしな。
そう思って声をかけようとした瞬間、
「お、終わりました」
「さっさと攻撃訓練に行け。目障りだ」
「サーイエッサー」
どうやら居残り組の他2人も同じことを考えていた様だった。今から訓練はマンツーマンだな。切り上げるタイミング本当にミスった。こうなれば、ガロンがなくなるまでずっとやらされる。
「単射ではなくフルオートにしろ。ちまちま撃つな」
「サーイエッサ」
この顔をいつになったら殴れるのやら。しかし、上官が弱いわけではない。訓練の最初に見せた見本では、ほぼ全弾が的の中心に当たっていた。
「コツとかないですか」
「無駄口を叩くな、叩く暇があれば撃て」
「痛い」
蹴らなくてもいいじゃないか。上手いならやり方くらい教えろよ。使えねえやつだな。
「返事は」
「サーイエッサ」
僕は射撃モードを自動射撃に戻し、構え直した。そして、人の命を奪うにはあまりにも軽すぎる引き金を強く引いた。繰り返される銃声は耳障りだ。
暴れる銃を胸の少し下と、左手で強引に押さえつける。
当たれ。
と言うか早く終われ。ガロンの残量はそれほど多くない。あと2〜3回もフルオートで撃てば空になるだろう。
銃を押さえつけるので精一杯なあまり、照準なんて物は既になくなっていた。
「ガロンがなくなる前に、安全装置を戻せ。それから、もう一度持ち方をやり直せ」
「サーイエッサー」
もちろん案の定壁を蜂の巣にしているだけで、的には一発も当たらなかった。外縁部にかすってるのが一つだけあるな。
それを喜ぶことができるのは、底抜けのアホかクソ野郎だけだろうな。
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