28話
今回から一人称よりの三人称に変えて書いていきます。
≪ティル視点≫
私達の前に立ちはだかるのは、レベッカ婆ちゃん達が四十年前に命懸けで倒した魔王と呼ばれた六本腕の魔王だ。
目の前の六本腕という異形の姿を目にすれば、脅威に感じるかもしれないが、私にはどうも脅威には見えない。
レベッカ婆ちゃんを除く、他の三人は四十年前が全盛期だったかもしれない。でも、レベッカ婆ちゃんは今の方が強いと言っていた。
恐らくだが、今のレベッカ婆ちゃんなら単騎でも魔王を倒す事は可能だろう……。
いや、ダメだ。
どれだけ弱いオオカミであっても、決して油断してはいけないとレベッカ婆ちゃんに教わった。現に、レイチェルも決して油断せずに魔王をジッと見ている。
「がははは!!
ワシの姿を見て恐怖しておるのか?」
この魔王、名前を何と言ったか?
確か、レベッカ婆ちゃんがあのスロポスって九星から聞いたのは……。
「言葉が通じるの?」
私は六本腕の魔王に声をかけてみる。もちろん答えてくれないだろうと思っていたのだが……。
「人間の言葉なら簡単なモノだ。
これから殺される哀れな人間の雌共。話くらいはしてやってもいいぞ」
魔王の尊大な態度に多少イラっとするが、ここは少しでも情報を聞けるのなら聞いておいた方がいい……。
レイチェルも同じ考えの様で、私を見て頷いていた。
「なら単刀直入に聞くわ。
あんたが九星ブラッソローボなの?」
「あぁ、そう言えばスロポスの奴が二代目赤ずきんを殺した時に三代目もいると言っていたな……。
もしかして、貴様がそうか?」
ブラッソローボはレイチェルを指差す。どうやら、スロポスが脅威に思っているのはレイチェルだけの様だ。
確かに一年前は私は役に立たなかった。だけど、今は違う。
「ところで、あんたは魔王じゃないの?」
「ふむ……。
魔王というのがどういうモノかは知らんが、ワシは王ではない。
ワシ等の王はルプス様だ。
まだ復活こそしていらっしゃらないが、ルプス様が復活した折には、貴様等人間はすべて滅ぼされる!!」
ルプス?
そいつがオオカミの王だって言うの?
しかし、スロポスの言っていた通り、こいつは脳筋みたいだ。このまま重要な情報を……。
「がはははは。
貴様はワシから情報を聞き出したいようだが、なぜワシが素直にルプス様の事を話したと思う?」
「なに?」
「もしかして、ワシが何も考えずに脳筋だとでも思ったか?
確かに、貴様等の村を襲ったオオカミの中でも智将であるスロポスに比べればワシは頭が悪いやもしれぬ。
しかし、何も考えずにべらべら喋るほど阿呆ではないぞ?」
「それだったら、なぜそう簡単に情報を与えてくれるの?」
私がそう聞くとブラッソローボの口元が大きく歪む。
「今から死ぬ者に、せめてもの優越感を与えようと思ってな。
まぁ、ワシが本音を言った以上、もう絶望しかないがな。
がぁーっはっはっは!!」
チッ……。
確かに目の前にいるブラッソローボは脅威だ。だけど、今の私達なら倒せるような気がする。
「レイチェル……どう見る?」
レイチェルは黙って一度だけ頷く。
……。
よしっ!!
レイチェルが勝てると思っているのを確信した私も魔銃に魔力を籠める。
最初は……。
「ティル、煙幕弾を撃ち込んで……」
煙幕弾?
ブラッソローボの様な強いオオカミ相手に煙幕なんて……。
「アイツを一度斬りつけてみたい」
斬りつける?
つまり……。
私はレイチェルが試したいと思っている事を察して、煙幕弾を魔銃に籠める。
オオカミにダメージを与えるのであれば魔力を籠めないといけないけど、煙幕弾を撃ち込むだけなら市販の弾で十分だ。
私はブラッソローボの足下に煙幕弾を撃つ。
「がははは。
先制攻撃も外していては意味がないぞ!!
……ん?」
足下に着弾した直後ブラッソローボが煙幕に覆われる。
「こんな煙、何の役に立つというのだ!?」
ブラッソローボは煙を振り払う為、三本の腕を振り上げる。しかし、その振り上げた腕にレイチェルが斬りかかった。
レイチェルはオオカミの核を見極める事が出来る。それに、今のレイチェルは修復不可能線も見えているから、的確に腕を斬り落とせるはずだ!!
ブラッソローボも腐っても九星だからか、レイチェルの姿を視認していた。だが、今更遅い。レイチェルが刀を振り切るとブラッソローボの腕が二本斬り飛ばされた。
「がぁ!?」
こうも簡単に斬り飛ばされると思っていなかったであろうブラッソローボは空中にいるレイチェルに殴りかかる。だが、レイチェルはブラッソローボの胸を思いっきり蹴り、後ろへと大きく跳ぶ。
「レイチェル!!」
「大丈夫……。
それよりも、アイツの腕……」
私はブラッソローボの腕を注視する。
普通のオオカミであれば、修復不可能線を斬られれば再生する事は出来ない。
私には修復不可能線は見えないけど、オオカミの核ですら見えるレイチェルならば確実に見えている。
しかしブラッソローボが魔力を籠めると、斬られたはずの腕が再生していた。
「そ、そんな……。
修復不可能線を斬っても再生するなんて……」
やはり九星というのは間違いなく普通のオオカミとは違う……。
少しだけ戸惑う私の肩をレイチェルが優しく叩く。
「大丈夫……。
修復不可能線では倒せないのは想定済み。
これで倒せないなら、核を斬ればいいだけ……」
そう言ってレイチェルは刀の刃の腹に指を当て、刃先に向かいそっと撫でる。すると、刀に魔力が籠められた文字が浮かび上がる。
レイチェルはこの一年で刀に紋章魔法を纏わせる事に成功した。
その力は絶大で、斬撃ではオオカミを倒せないと言われていたのを覆した。
あ……。
レイチェルに見惚れている場合じゃない。
私も魔銃に魔力を籠めなおす。
さぁ、ここからが本当のオオカミ狩りだ。




