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27話 魔王再来


 特殊個体の巣が発見されたと報告されたのは、ヴァルトという町の南西に広がる森の奥にある洞窟だった。

 この森には特にオオカミや食用になる動物も少なく、木の実なども毒を含んでいる事が多い為、地元の人間ですらあまり近寄らない。

 そんな報告書をヴァルトのハンター頭巾協会支部で見たレイチェル達は首を傾げた。

 しかし、ハンター頭巾協会支部長が洞窟を調べる事をあまりにも急かしてきたので、ゲートで到着して一時間もしないうちに森に向かった。


 森に入って三時間。

 レイチェル達は森の奥の拓けた場所にあった洞窟の前で首を傾げていた。

 レイチェルは方向音痴なので、報告書の場所まではティルが地図を見ながら洞窟まで向かったのだが、あまりにもあっさりと件の場所を見つける事が出来た。


「……アッサリ見つかったね」

「えぇ、ほとんど一本道で、まるで見つけてくださいと言わんばかりに草がかき分けられ、人が一人歩けるだけの道が出来ていたわね……。

 まるでオオカミがハンター頭巾を誘っているみたいじゃない」


 ティルは自分達が歩いてきた()を一瞥して溜息を吐く。


「全く……。

 よくよく考えたら、怪し依頼だったわね」


 ティルは懐に入れていた報告書を取り出す。

 実は、ヴァルトの町で追加の報告書を渡されていたのだ。


「ゲートを出て来てすぐに支部長が私達を待っていて、追加の報告書……そして」

「もしかして、協会の連中に嵌められた?

 でも、シャンティさんがそれを見抜けないと思えないけど……」

「だからこその追加の報告書でしょ?」


 レイチェルはシャンティを尊敬しているので、疑う事無くそう呟く。ティルもシャンティを尊敬こそしていないが、信頼はしているので彼女を疑ってはいなかった。


「ティル、このまま依頼通りに動くの?

 支部長は怪しいけど、この洞窟がオオカミの巣である事は間違いないよ」

「うーん」


 レベッカに鍛えられて一年。二人の感覚はとても優れていて、オオカミの気配をいち早く察知できるようになっていた。

 レイチェルが言うように、ティルも洞窟にオオカミがいる事は把握してはいたが……。


「そうだね。

 駆逐するんであれば、洞窟から炙り出そうか」


 ティルはそう言うと、魔銃を取り出し洞窟に向かい数発撃ち込む。

 この一年でティルは魔銃に込める魔力を微調整する事により、様々な特殊な弾を撃ちだす事が出来るようになっていた。

 今、洞窟に撃ち込んだのは爆発音だけは大きくなるようにした弾だった。着弾した瞬間、爆音が洞窟に鳴り響く。

 一分くらい何も反応はなかったが、洞窟の奥からオオカミの咆哮と走ってくる音が聞こえてきた。


 ティルは魔銃をもう用意しているし、レイチェルも聖銀の刀を抜く。


「ところで、見ている人達(・・・・・・)はどうするの?」

「アイツ等もハンター頭巾なんでしょうから、私達が取り逃がした(・・・・・・)オオカミくらいは倒せるでしょう」

「でも、私達を監視する為に雇われたハンター頭巾だろうし、隠密能力が高いだけでオオカミ退治には向いていないかもしれないよ?」


 レイチェルの言う通り、やもえない事情があってハンター頭巾を監視する場合、オオカミ退治に特化したハンター頭巾を使うのではなく、見つからないよう隠密能力の長けたハンター頭巾を使う事が多い。

 しかし、その反面監視対象のハンター頭巾とオオカミとの戦闘に巻き込まれて死んでしまう事も少なくはない。

 それを知っている二人だからこそ、それぞれ別の反応になるのだ。


「別にアイツ等が巻き込まれようとも関係ないでしょう。

 支部長が何を考えているのかは知らないけど、わざわざ他の町から依頼を受けてきた者を監視しようとしている時点でオオカミ戦に巻き込まれても仕方がないわ。

 特に、今回は特殊個体の巣の調査なのよ。監視していて巻き込まれないという考えが甘いのよ」


 ティルが言う事は尤もである。

 今回の依頼は斥候とはいえ、特殊個体が多く存在する場所に行くのだ。戦闘に特化したハンター頭巾ですら命の危険がある。それにもかかわらず、戦闘能力のないハンター頭巾が監視しているのが悪いのだ。


 そんな事を考えていると、ティルの魔弾の音を聞いたオオカミが、洞窟から数体飛び出してきた。

 レイチェルとティルはそれぞれを一瞥し、オオカミを迎え撃つ。


 ティルは魔銃に魔力を装填させ、オオカミの攻撃を細かいステップで掻い潜り、瞬く間に背後を取り、後頭部に銃を突きつけ一気に放つ。

 弱点の一つである頭を吹き飛ばされたオオカミはその場に崩れ落ち絶命する。

 ティルは仕留めたオオカミに目もくれずに、次の標的を狙う。


 一方レイチェルも、一瞬でオオカミの()を探し当て、確実に斬っていく。

 凄まじい再生能力を持つオオカミと言えど、()を真っ二つに斬られれば再生できずに死んでしまう。

 オオカミ自身ですらどこに核があるのか分からないので、再生もできずに死んでしまう仲間を見て、オオカミ達も少し動揺しているように見えた。

 卓越した剣技を持つレイチェルを前に、一瞬でも動揺してしまえば遅い。レイチェルに襲い掛かったオオカミは、十秒もしないうちに斬り刻まれた。

 

 そして、五分もしないうちに洞窟から出てきたオオカミは全滅した。

 中には特殊個体もいたのだが、レイチェルがさりげなくティルに核の正確な場所を教えていた。

 二人の連携は完璧で、息一つ乱さずにオオカミを殺し尽くした。


 しかし、オオカミを全滅させたわけではない様で、レイチェルは洞窟をジッと見ていた。


「洞窟にはあと一匹いるみたいだね……」

「えぇ、こいつは少し格が上かもしれないわね……」

「九星かな?」

「さぁ……。

 でも、九星がここに居るのなら、殺しておく必要があるでしょ?」


 ティルはそう言って魔銃に魔力を最大限に込める。そして、森に向かって「死にたくなかったら、さっさと逃げなさい!!」と叫んだ。


 だが、すでにハンター頭巾達の気配は感じ取れなくなっていた。


「反応がない……どういう事?

 もう逃げたのかしら?

 それとも……」


 ティルは気配を消せるオオカミがいるのではと警戒する。

 しかし、レイチェルは冷静に「中にいるオオカミの殺気に呑まれたんだよ……」と呟く。

 レイチェルにそう聞き、ティルは監視していたハンター頭巾は無視する事にした。


 殺気に呑まれる程度ならば、起こしたとしても足手まといになると判断した。


 強力なオオカミの気配はゆっくりと洞窟の外へと動いている。

 しばらく洞窟を睨みつつ待っていると、六本腕と大きな角を持った漆黒の毛皮を持つ大型のオオカミが現れた。


 そして、オオカミの死体を見回し、大声で笑う。


「貴様等が我が配下共を殺し尽くしたのか?」

「そうだけど?」


 六本腕のオオカミは問いに答えたレイチェルを凝視していた。


「ん?

 貴様……そうか!!

 貴様はあの時の赤いずきんの女の血縁かぁあああ!!」

「……そうだよ。

 四十年前にあんたを倒した赤ずきんの孫だよ……」

「がはははは!!

 そうか!! 孫か!!

 それは素晴らしい!!」


 六本腕のオオカミは地面を思いっきり叩きつける。

 そして……。


「ワシは九星、阿修羅ブラッソローボ!!

 貴様を殺すオオカミだぁあああ!!」


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