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24話 レイチェルの力


 オオカミにより壊滅的な被害を受けたレイチェルの村の村人を連れて、コラシオンの町に戻ってきたレベッカ達。あの後、救援にきたハンター頭巾達に埋葬を手伝ってもらい、一足先にコラシオンの町に難民の受け入れを要請していた。

 そのおかげもあり、コラシオンの領主が村人達がひとまず住む場所と、心のケアにカウンセリングの医師を準備しておいてくれた。


「レベッカ……村人達の事は任せておけ……。しかし、娘のソフィが……」

「あぁ……」


 コラシオンの領主はレベッカをとても尊敬しており、その娘のソフィとも顔なじみであった。だからこそ、ソフィが死んだ事は領主にとってもとてもショックだった。


「領主様。

 ハンター頭巾の支部長のアリアを呼び出してくれないか?」

「それは構わんが、支部長だけでいいのか?」

「あぁ……。

 アリアに話をしておけば、アールミヤにも伝わるだろう……」

「それほど、重要な事なのだな……」

「あぁ……」


 レイチェルは窓の外を見る。


(九星……。

 あのスロポスというオオカミは決して弱くなかった。だが、問題は後から現れたロビソーミンというオオカミだ……。

 奴は、明らかに自分よりも弱いスロポスを諫めていた……。そして、九星は文字通りならば、魔王以外にあと六人いる。

 あんなに強力なオオカミと渡り合えるのは……あの二人と……)


 レベッカは無表情でソファーに座り紅茶をすするレイチェルに視線を移す。


(レイチェルは剣士でありながら、オオカミを斬った。

 この子には私と同じ力(・・・・・)があるかもしれない。

 幸いな事に、ハンゾウの刀は聖銀で作られている)


「領主様。兵士の鍛錬場を借りても構わないかい?」

「うん?

 勿論それは構わないが、先ほど君が要請した通りに、アリアを呼び出してしまったぞ?」


 この領主、実はとても有能でレベッカが頼んだ事は瞬時に頼まれ事を片付けてしまう。

 

「いや、領主様も知っている通り、アリアは一つの疑問を持つと誰の命令であっても動こうとしない。

 昨日の時点でハンター頭巾から報告があった時点で大図書館に籠っているはずだ」

「なるほどな……。

 あのアリアが籠るくらいだ……。きっと今までのオオカミの常識が覆る事なのだろう……。

 わかった。

 アリアがここに到着した時点で鍛錬場に君達を呼びに行くとしよう」

「感謝するよ……」


 レベッカはレイチェルとティルを連れて地下にある鍛錬場に下りて行った。


 建物で言えば三階分の階段を下りた先に丈夫そうな扉が一つだけポツンとあった。

 ティルはその扉に触れて、上を見上げる。


「随分と深く、そして重厚な扉ね……。まるで、私達の村の地下にあった避難壕みたいだ……」

「……うん」


 ティルはこういうが、実際は村よりも立派で地下に深い。


「中はさらに広いよ……。

 この場所は、コラシオンの住民が全員避難するのを想定して作った(・・)からね」

「おばあちゃんが作ったの?」


 レイチェルがそう問うと、レベッカは「殴って地下を広げたんだ。懐かしい思い出さ」と笑う。そんなレベッカを見てティルは(普通は殴って地下空間を広げる事なんかできないよね……)とレベッカを見て呆れる。


 レベッカは大きな扉を片手で開ける。扉の先にはとても広い空間が出来ていた。

 しかし、地下にこれほどの大きな空間があれば領主の館を支える地面が落ちるのでは? とティルが聞くと、紋章魔法をうまく使っているから問題ないよ。と返答があった。


「さて、レイチェル、ティル。

 今の二人でも充分オオカミと戦う事は出来るだろう。

 だが、レイチェルは剣士で、ティルは体力的に少し不安がある」

「私はともかく、レイチェルの剣技はあのスロポスってオオカミに通用していたと思うんだけど……」


 ティルがそうレベッカに聞くと、レベッカは首を横に振る。


「レイチェル、ハンゾウの()を抜いてみな」

「カタナ?」

「あぁ。

 ハンゾウの剣は少し反っているだろう? 

 それは東方の国の剣で刀と呼ばれているものだ。

 ハンゾウに昔聞いたんだけどね。レイチェルの剣技は刀を使う事を想定した剣技だそうだよ」


 レイチェルはハンゾウに教わった剣技を思い出す。

 確かに、両刃の剣では不可解な技名の剣技などがいくつかあった。

 不死斬り(しなずぎり)という技は文字の通り殺さないと教わっていたのに、普通の剣で使えば殺してしまう。

 殺さないように剣の腹で使えば県が折れるかもしれないと、レイチェルは昔から疑問に思っていた。

 しかし、刀の形状を見て背の部分で使えば人は死なないと理解した。


「なるほど……」


 レイチェルは刀をマジマジ見ている。


「レイチェル。

 その刀は聖銀と鋼鉄で作られている。ハンゾウは強度を高めるために鋼鉄と混ぜて固めたと言っていたが、そのせいで聖銀の効果が薄れてしまっている……」

「それじゃあ、オオカミ退治に刀は使えないの?」

「いや……。

 お前がスロポスとの戦闘の時に見せた魔法を使えば問題ないはずだよ」

「魔法?」


 確かにこの世界にも紋章魔法以外の魔法が存在し、魔法使いと呼ばれる者も存在する。

 実際に五人の英雄の一人、灰頭巾のグローアは最強の魔法使いとして名を馳せていた。

 しかし、レイチェルは魔法を使えない。紋章魔法を掘る事も出来ないのだ。

 表情は変わらないが、少し困惑しているように見えたレイチェルをレベッカが優しく撫でる。

 そして、レイチェルの前に拳を出した。


「よく見ておくんだよ」


 レベッカが拳に力を籠めると拳が淡く光る。


「こういう風に、拳に魔力を溜める事で私はオオカミを素手で殺す事が出来る。

 そして、レイチェルの場合は剣にこれが出来る」


 レイチェルはそんな事をした記憶が無かったが、スロポストの戦いではオオカミを殺せていた。


「もしかしてレイチェルの剣が溶けたのは……」

「あぁ、魔力に普通の軽鉄では耐えられなかったのさ。

 でも、その聖銀が混ぜ込まれた刀なら耐えられる……いや、さらに大きな魔力も注げるかもしれないよ」


 レイチェルは刀を見ながら、無表情で「それなら、私一人でもオオカミを殺せる」と呟いた。

 だが、レベッカは首を横に振る。


「レイチェル、それではダメだよ」

「え?」


 レベッカに自分の決意を否定され、レイチェルは首を傾げた。

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