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22話 九星ロビソーミン


 オオカミである以上、胸を貫いただけでは死ぬ事はない。それに、レベッカの拳は核を貫いてはいなかった。

 だが、スロポスは貫かれた腹部に違和感を感じた。


「ど、どういう事だ……?

 傷が再生しない……」


 頭や核が破壊されていない以上、オオカミが再生するのは当たり前だ。

 だが、貫かれた腹部は全く何も反応しなかった。


 スロポスは貫かれた腹部を抑えながら、少しずつ後退していくが、レベッカはスロポスの首を掴む。


「ぐがっ……!?」

「さて、貴様には話を聞かせてもらおうか……」


 スロポスは首を掴むレベッカの腕を何度も殴るが、首を握る力は全く弱まらない。

 首を絞めている事で話をする事が出来ない事に気付いたレベッカは首の代わりに足を掴み、地面に叩きつける。

 首を解放されて地面に叩きつけられたスロポスは逃げるチャンスが出来たと思ったのか、自分の足を引き千切り、片足で逃げようとした。

 だが、レベッカがそう簡単に逃がすわけがなく、もう片方の足を掴み再び地面に叩きつけられる。


(クソっ……。

 人間風情が九星である俺に屈辱を与えるとは……。

 こうなったら、全力を出してこのババアを殺した方が……。

 いや、それは出来ん……。

 ブラッソローボの復活がまだである以上、同じ九星の俺が死ぬわけにはいかない。

 しかし、どう逃げればいい!?)


 スロポスが逃げる方法を考えていると、レベッカの背後の空間が歪み、何者かの腕が突き出てきた。

 不意打ちとはいえ、レベッカにそんなモノが通用するわけもなく、スロポスを盾代わりにその腕を回避した。

 だが、これが失敗だった。

 腕はスロポスを貫く事はせずに、スロポスの腕を掴みレベッカから引き剥がす。


「くふふふ……。

 スロポス様、何を遊んでいるのですか?」


 歪みから緑色の短髪の若い男が現れた。

 男は鎧を着ており、腰には剣を差していた。


「ロビソーミン……。

 俺を助けに来てくれたのか?」

「そうですね。

 ブラッソローボ様の復活も近く、預言者ルー様の話ではあの御方の復活も近いというのに、九星である貴方が死んでしまっては話になりません……」

「ケッ……。

 素直に助けてもらった事には感謝するぜ。

 だが、あの化け物をどう倒す?」


 ロビソーミンと呼ばれた男は、レベッカを凝視する。そして、微笑む。


 「アレは人類の最強の剣の様なモノ……。

 私達九星であっても命懸けで戦わなくてはいけないでしょう……。

 ここで提案なのですが、貴女達は二代目赤ずきんであるソフィを失った……私達は多くのオオカミを失った。

 痛み分けなどはどうでしょうか?」


 こんなふざけた提案をレベッカ達が受けるわけがなかった。

 レベッカから今までにない殺気が放たれたのだが、ロビソーミンは全く気にした様子はなかった。


「ふざけているのかい?

 こちらは娘夫婦を殺されているんだ。許せると思うかい?」


 レベッカのいう事は尤もなのだが、ロビソーミンは大笑いをする。


「くはははは。

 じゃあ貴女に聞くが、貴女達が殺し尽くしているオオカミには家族がいなかったとでも?

 人間だけが特別だとでも言うのであれば、それは傲慢ではありませんか?」

「だ、黙れ!!

 オオカミは突然変異した動物だ!!

 お前達に家族はいないはずだ!!」


 いつの間にか、ロビソーミンの後頭部に銃を突き付けていたジャンがそう叫ぶ。

 しかし、ロビソーミンは冷たい目でジャンの銃を掴む。


「不思議な話ですね。

 人間は生まれをどうこう言いますが、ジャン()が死ねばシャンテ《君の妻》は悲しむでしょう?

 先ほどのジャン()が言った様に、オオカミが突然変異で生まれたから家族はいないというのが正しいのであれば、君達夫婦は同じ場所で同じ母体から生まれたわけではないのだから、家族ではないのですかね?」

「な、何を屁理屈を……。

 まるでオオカミにも夫婦や家族がいると言っているみたいじゃないか……」


 ジャンがそう言うのは、なにもおかしい事ではなかった。

 実際に長くオオカミを狩っているレベッカですらオオカミが家族を持っているとは考えもしなかったし、ハンター頭巾協会の研究者達ですら知らないどころか、考えもしていない事だった。

 だが、ロビソーミンは両手を広げ笑う。


「オオカミにだって家族は存在しますよ。

 なんと言っても、私はオオカミの夫婦から生まれた新世代のオオカミですから……。

 いえ、私達九星は、全てがオオカミの子供なのです!!

 しかし、私達九星の親はハンター頭巾共に殺されました」


 ロビソーミンは、スロポスの体を抱きかかえて空間の歪みに入ろうとする。


「に、逃がすか!?」

「くはははは!!」


 ジャンがとロビソーミンの腕を掴もうとしたが、逆に腕を斬り落とされる。

 いつの間にか、ロビソーミンの左手には剣が握られていた。


「ぐあぁあああああ!!」


 ジャンは無くなった腕からあふれ出る血を抑えてうずくまった。


「くふふふふ。

 私の間合いに迂闊に入ると死にますよ?

 あ、安心してください。

 今回は痛み分けという事で殺すのは止めておいてあげますよ」


 ロビソーミンの邪悪な笑顔で剣を鞘にしまった。

 そして、ジャンの頭を優しく撫でた。


 レベッカはロビソーミンを見てこう思った。


(コイツとここで戦えば自分以外は全員死ぬ)

「では、私達はここで帰らせてもらいますね……」


 そう言い、お辞儀してロビソーミンとスロポスは歪みの中に消えていった。


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