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18話 母の死


 灰色の男は、ソフィの腕を掴み上げる。

 高身長だった灰色の男に腕を掴み上げられ、ソフィは空中に持ち上げられ、逃れるためにジタバタと男を蹴ろうとしていた。

 しかし、灰色の男は笑いながらソフィの腹部を殴る。


「ぐっ……」


 ソフィの顔が痛みで歪む。そんな顔を見て、灰色の男は口の端をさらに吊り上げる。

 そしてソフィの顔に自分の顔を近づけて「そのガキの噂は聞いているぜ?

 剣しか使えない、俺達(・・)を殺せない無能なんだろう?」

「黙れ!!」


 ソフィは隠し持っていた銃で灰色の男の額を撃った。

 この灰色の男が人間であれオオカミであれ、紋章を刻んだ銀の弾丸を撃ち込めば、倒せるはずだった……。

 しかし、灰色の男は額に穴を開けられても平然な顔をしていた。


「あはははは。

 俺を倒したと思ったか?

 確かに、紋章魔法だっけか? アレを撃ち込まれたら、痛ぇよ。

 だがなぁ……」

「くっ……」


 灰色の男はソフィから手を放し、自分の額に指を突っ込む。そして、抉り出すように銀の弾丸を取り出した。


「こんなに小さな弾で俺を殺せると思ったか?

 それなら改めるんだなぁ……

 ……ん?」


 灰色の男が気付いた時には、レイチェルが剣を振り下ろしていた。

 レイチェルの剣は灰色の男の腕を斬り落とした。

 斬り落としてしまえば、自己再生能力も意味がない……はずだった。

 灰色の男は痛がるどころか、笑みを浮かべていた。


「いやぁ、意外だったよ。

 ハンター頭巾共から無能と呼ばれ、オオカミ達からも赤ずきんを誘き出すための餌としか認識されていない癖に、俺の腕を斬り落とすとはなぁ……」


 灰色の男は、斬れた腕を拾い上げ、無理やり繋ぎレイチェルを殴った。

 そして、近くにいたオオカミにレイチェルを抑えさせた。


「しばらくそこで見てな……。

 お前の母親、二代目赤ずきんの死ぬところをよぉ……」


 灰色の男はそう笑う。

 レイチェルは無理やり動こうとするが、オオカミの力はとても強く、同年代の少女よりも小さなレイチェルの体はミシミシという音をたてて、潰されそうになっていた。

 しかし、そんなレイチェルを見て灰色の男はオオカミを(・・・・・)睨みつける。


「おい。誰が殺せと言った?

 俺は抑えておけと言ったんだぞ?」


 灰色の男が赤い目でオオカミを睨むと、オオカミは怯え、力を抜く。

 しかし、力が抜けたからといって、レイチェルがオオカミの抑える手から逃げる事は出来なかった。


 レイチェルは今も手に握っている剣でオオカミを刺そうとした。しかし、抑え込まれているせいか力を入れる事が出来ず、ケンはオオカミに刺さる事はなかった。


「お母さん!!」


 レイチェルは出来る限りの大声でソフィを呼ぶ。

 その直後、灰色の男がソフィの首を掴んだ。


「か……は……」

「お母さん!!」


 灰色の男はレイチェルを冷笑した。


「おい、無能。今からお前にいいモノを見せてやろう。

 いや、教えてやろう。

 オオカミには二種類の種族が存在する。

 まずはお前達、ハンター頭巾と馴染み深い人喰い種だ。奴等は人の肉を喰らいつくす。

 そしてもう一種は、人の血をすする吸血種だ。

 だが、お前らハンター頭巾が勘違いしている事を教えてやろう。

 俺も人喰い種だが、俺達人喰い種は厳密にいえば人の肉を喰らうんじゃない……」


 灰色の男は唐突にソフィの胸を手刀で貫き、心臓を取り出した。


「がはっ!!」


 ソフィは口から大量の血を流し、レイチェルの方を見ようと首を必死に動かしていた……。


「お母さん!!」

「あはははははははは!!」


 灰色の男は力を無くし動かなくなったソフィを無造作に投げつける。そして……。


「俺達が人間を喰らう本当の目的は、心臓を喰らう事を目的にしているからだ!」


 灰色の男は口を大きく開き、いや、口の端が裂けていき、ソフィの心臓を一口で喰らう。

 そして咀嚼を何度かして、飲み込んだ。


「あ……あ……」


 レイチェルの両眼には涙があふれ、そのまま地面に伏せる。


「あぁ、流石は悪名高い赤ずきんの心臓だ。

 なんと甘美な味だぁ……。

 わざわざこんな辺鄙な地まで来てやったかいがある」

「来てやった……かい?」


 レイチェルは灰色の男の言葉に反応した。


(お母さんが赤ずきんだったからというだけで、こんな殺され方をしたの?

 悪名って何?

 お母さんはオオカミに襲われる人達を守る為にハンター頭巾になったんだよ……。

 なに?

 コレの言い分通り、オオカミを殺す事が悪名というのなら、私達人間はオオカミに無抵抗で喰われろと言っているの?)


 いつの間にかレイチェルの目からは涙が流れていなかった。

 そして……。

 哀しいという感情は残っているが、表に出せない自分がいる事に気付いた。

 それと同時に、オオカミに対する憎悪の気持ちすら表に出せなくなっていた。

 だが、間違いなくどの感情よりも憎悪の感情が強い。


 レイチェルの変化に灰色の男が気付く事もなく、レイチェルに向かい叫ぶ。


「安心しろ!!

 すぐにお前も母親のもとに送ってやろう!!」


 灰色の男がその言葉を放った瞬間、レイチェルを抑えていたオオカミがレイチェルを離し、立ち上がる。

 そして、レイチェルは静かに立ち上がった。


「オオカミなんて全て滅びればいい……」


 レイチェルは無表情で自分を押さえつけていたオオカミ二匹を目にも止まらない速度で何度も斬った。



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