表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/28

17話 灰色の男


 村までは慎重に歩いて三時間かかった。シャンティ達が村に到着した時点でジャンが村に向かってから七時間近く経っていた。

 すでに夕暮れの色に染まっていたのだが、村は無残にも破壊され、至る所にハンター頭巾が倒したであろうオオカミの死体と喰い散らかされた村人の遺体が散乱していた。

 ティルはその光景を見て、思わず吐き気を覚えてしまった。そのくらい無残な惨状だった。


 レイチェルも遺体を確認しながら自分の家に向かう。もちろん生まれた時から住んでいるので、近所の人や、ケンしか使えないレイチェルを小馬鹿にしてきた同年代の若者達。それに、いつもキャッキャとはしゃいでいた子供達も無残な姿になっていた。


(どうしてこんな事に……!)


 レイチェルの家は村の中心地からは少し離れた場所にあった。

 家にまで続く道に差し掛かった時、レイチェルの足が止まった。


 決して広くない道の真ん中に、見慣れた背中を見つけたレイチェル。

 座っているだけのように見えるが、その背中は血に染まり、ぴくりとも動いていなかった。


「お父さん?」


 レイチェルは座ったまま動かないハンゾウの肩を掴む。

 しかし……。


「お父さん!!」


 レイチェルは前に回り、ハンゾウの顔を見る。

 しかしハンゾウは薄目を開け、口からは大量の血を吐いたであろう跡、胸の部分がえぐり取られており、心臓はなかった……。


 ハンゾウは死ぬ寸前まで倒れまいと、剣を地面に突き刺し事切れていた。


 レイチェルの目に涙があふれ出た。

 剣しか使えない自分をいつも優しい言葉で励ましてくれ、自分の持つ剣技を惜しみもなく教えてくれた父。


 どうして……!?

 レイチェルは父に抱きつき泣き叫ぶ。

 そして……。


(お母さんは……?)


 レイチェルはいつも仲睦まじい両親を見てきた。

 それなのに父だけがこの場で死んでいるのはおかしすぎる……そう思ったレイチェルは涙を拭い、自分の剣を抜き、家まで走り出した。


 遅れてティルとシャンティ、ヒサメもハンゾウを見つける。

 ティルはハンゾウが死んでいるのに驚愕した。

 ハンゾウは剣士で確かにオオカミを倒しきれないかもしれない。

 だが、ハンゾウの身体能力はレイチェルの祖母レベッカに匹敵するモノだった。

 それなのに、正面から心臓を抉り取られている……とは。


「シャンティさん! レイチェルを止めないと!!」

「えぇ!!」


 シャンティも自分よりも強いティルがここまで焦るのを見て、異常な事態と気付いたのだろう。

 いや、村が襲われている時点で異常なのだが、この村には二代目赤ずきんであるソフィもいるし、ソフィの相棒であるティルの母親もいるのだ。

 そんな二人に会いに来ようと、多くのハンター頭巾もいたはずだ。

 だからこそ、たとえ複数のオオカミに襲われたとしても、対処できるだけのハンター頭巾がいるので、余程の事がない限り、村が滅びるとは考えられなかった。


 ティル達はレイチェルの家へと急いだ。そして、家が見えてきた時、その光景に衝撃を覚えた。


 家の前には、息を激しく切らしたソフィ。そしてその目の前に立つ灰色の髪の毛の男。

 その二人をジッと見るレイチェルと、家を取り囲むオオカミの群れ。


 ソフィは、自分の銃を灰色の髪の毛の男に突き付けている。だが、ソフィの腕は小刻みに震えていた。

 そして、レイチェルに気付いたソフィは「逃げなさい!!」と叫ぶ。


 逃げろと言われたレイチェルはぴくりとも動かない。ティルもレイチェルを連れて行こうとしたが、ソフィの後方に倒れる男女を見て膝から崩れ落ちる。


「お……お父さん……お母さん……」


 ソフィの後ろに倒れていたのは、ティルの両親だった。

 まだ生きているかもしれないとシャンティが助けに入ろうとするが、オオカミにより行く手を阻まれてしまう。


「チッ……」


 シャンティは最悪だ……と少し後悔していた。

 村の惨状を見た時に、二人に言い聞かせていれば、逃げられたかもしれない……と。


 ハンター頭巾である以上、オオカミにいつ襲われるか分からない。

 ソフィやティルの両親も引退しているとはいえ、元はハンター頭巾だ。

 過去に殺しかけたオオカミが、引退してから復讐に来るという話も、よくあるというわけではないが、年に数件はあり得る。

 あくまで引退したかどうかは人間の都合でしかないので、オオカミからすれば弱くなったら狩る。なにもおかしくはない。

 だからこそ、ハンター頭巾をやっていた者はいつオオカミに殺されてもおかしくない……冷たい様だが、レイチェル達に話しておくべきだった……とシャンティは唇を噛む。

 しかし、今は後悔していても遅い。

 オオカミに囲まれている現状、どうやって逃げるかをシャンティは必死に考える。

 例え、それが絶望に近い可能性であっても……。


 ソフィは今も灰色の男に銃を撃つ。しかし男は簡単に銃弾を避けてしまう。


「くははは。

 見え見えの銃撃など、俺には当たらんよ」


 男は笑いながらソフィに近づく。

 そしてソフィの顎を足で上げ、「アレがお前の娘か?」と口の端を吊り上げる。

 レイチェルを見るその目は、血の様に真っ赤だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ