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16話 村の異変

ジャンが村に行って一時間を四時間に変えました。

一時間では事態は動かないだろうと……(汗)


 レイチェル達が高速馬車に乗って十数時間。もう村が見えて来てもいいくらいの位置まで帰ってくる事が出来ていた。

 アリアの懸念が取り越し苦労だといいのだが……とジャンは考えて御者台から望遠レンズで進行方向を見ていた。

 その時、客室から犬が唸っている声が聞こえてくる。


「うぅ~!」


 突然、ヒサメが起き上がり進行方向に向かい唸り始めた。


(ヒサメはオオカミの気配を感じる事が出来る)


 それを知っているレイチェルとティルは客室から顔を出し、村がある方向を見る。

 そして、オオカミの気配に敏感なレイチェルがオオカミの気配に気付いた。


「え!? ど、どうして!?」


 レイチェルがオオカミの気配に狼狽していると、ティルがレイチェルを抱きしめる。


「レイチェル! どうしたの!?」

「む、村にオオカミの気配を感じる……」


 レイチェルは震える声でそう答える。その時、御者台のジャンが客室に向かい「村から煙が上がっているぞ!! しかも、一つや二つじゃない!!」と叫ぶ。


 今の時間は朝を迎えているので、朝食の準備で煙突から煙が出ているという可能性もあるのだが、ジャン達が今いる場所は望遠レンズでないと村を確認できないほどの距離だ。

 こんな遠くまで炊事で出た煙が見えるとは思えない。

 しかもジャンが見た煙は一か所じゃなく、村の至る所から煙が上がっているように見えた。


 ジャンは御者に急ぐよう頼み、村には入らずに、少し離れた場所で馬車を停めるよう指示する。


(しかし、ここまで警備隊をまるで見なかった。どういう事だ?)


 ジャンはずっと御者台に居たので、警備隊とすれ違ったりすると思っていた。

 しかし、ここまで一度も警備隊を見る事はなかった。


「御者のおっさん! 今すぐコラシオンに戻り、支部長に村がオオカミに襲われている事と、警備隊に一度も会わなかった事を伝えてくれ。

 もし街道上でオオカミに襲われたとしても、高速馬車の速度なら追いつかれないはずだ。

 いや、自分の命を最優先にしてくれ」


 御者はジャンからそう言われて「分かりました。ただの御者である私にも、今が不測の事態という事は理解できています。

 任せてください」と馬車を走りださせる。


 元来た道を颯爽と走る馬車を見送った後、ジャンは(例え、速度特化であっても高速馬車には追い付けないはずだ。

 コラシオンのハンター頭巾が応援に来てくれれば……)と少しだけ期待していた。


「さて……シャンティ。嬢ちゃん達とここで待っていてくれ。

 もし、逃げようとしている住民を見かけたら、お前のいる方へ誘導する。

 もし、村に何もなかったらすぐに戻ってくる」


「どうして? 

 仮にオオカミがいたとして、あんた一人でオオカミの攻撃を掻い潜れるの?」


 シャンティの心配は尤もだった。

 ジャンの銃の命中率はとても高かった。

 しかし、それはシャンティの協力があってこそだった。

 それ以前に、夫を一人危険な目に遭わせたくない。と思って当然だ。


 ジャンはシャンティを抱き「俺達は戦えるハンター頭巾だ。ここにはハンター頭巾じゃない嬢ちゃん達がいる。

 この意味が分かるな……」と優しく諭す。


「それに、村の様子を見る限りオオカミ一は匹じゃない。いくら素早いお前でも複数のオオカミに囲まれればどうしようもないだろう……」


 ジャンの言葉にシャンティは何も言えなくなる。

 確かにシャンティは素早さが高く、鞭によるオオカミの捕縛の腕も一流と言って差し支えない。

 しかし、鞭という武器である以上、有効なのは一匹だけだ。複数のオオカミを相手にするには危険すぎた。

 現に、過去に何度か複数のオオカミを相手にして、危険な状況に陥った事があったのだ。

 それを思い出したシャンティは、素直に頷くしか出来なかった。


 ジャンが村に向かった後、どうするかを三人で考える。

 このまま待つか、コラシオンに戻るか……。

 いや、普通に考えればコラシオンに戻る方が正しいだろう。

 実際に、この場でオオカミにとどめを刺す事の出来るのは。ティルだけだ。

 シャンティは武器が鞭である以上、動きを止めるしか出来ないし、レイチェルの剣技はオオカミには通用しない。

 しかし、唯一のアタッカーであるティルも、銃技が優れているとはいえ、複数のオオカミとは戦った経験はない。

 さらに、元々安全な街道を馬車で移動するだけと思っていたので、紋章魔法を刻み込んだ銀の弾丸も多くは持ってきていなかった。

 特にティルとしては、レイチェルを守りながら戦う事を最優先にしているので、今の弾丸数では心許なかった。



 答えが出ないまま、ジャンが突入してから四時間が経った。


「シャンティさん……何も聞こえなくなりました……どうしますか?」

「うん……」


 シャンティは村の方を見て悲しそうな顔をしていた。

 ほんの十分前まで、遠くの方で銃声、オオカミの咆哮などが聞こえていた。

 しかし、今は何も聞こえない。


(もし、ハンター頭巾がオオカミを倒し尽くしたのであれば、勝った証として一斉に空に空砲を撃つはず。

 万が一、ハンター頭巾が全滅していた場合。

 オオカミが一斉に遠吠えをするはず)


 だが、どちらも聞こえてこなかった……。


 今ここにいるハンター頭巾はシャンティだけだ。

 村に夫が向かったとはいえ、銃声も何も聞こえてこない村にハンター頭巾じゃない女の子を連れて行っていいのか……と悩むシャンティ。

 夫を心配したい気持ちがあるが……とその時ヒサメが鳴き始めた。

 鳴き始めたヒサメを宥め、ヒサメが見つめる方向を目を凝らしてみるレイチェル。

 そして、人影に気付いた。


「あ、あれ……人?」


 レイチェルがそう言うと、シャンティ達もレイチェルが指差す先を目を凝らしてよく見る。

 何人かの人間が逃げてきたようで、シャンティとティルが駆け寄った。


 逃げてきたのは数人の若い女性と子供達で、若いハンター頭巾が護衛をしていたみたいだ。

 若いハンター頭巾は傷だらけで、命からがら逃げてきたように思えた。


 シャンティは、若いハンター頭巾に話を聞く事にする。

 若いハンター頭巾の名前はルースというらしく、二代目赤ずきんであるソフィに会いに来たそうだ。

 ルースはシャンティに何があったのかを説明する。


「僕が聞いた話だと、灰色の髪の毛をした男が村長を訪ねてきたんだ……」


 そこで男は『この村にソフィという女がいるのだろう?

 ちょいと手合わせを願いたいんだが?』と言ったそうだ。

 こういった自分の腕試しの為にソフィを勝負したがるハンター頭巾も確かに多かった。

 普通は無視する案件なのだが、男は村長に銃を向け『今すぐ呼びな。

 断るんなら、てめぇを殺す』と脅してきた。


 ソフィも村長が脅されていると聞き、男の要求をのんだ。

 そして、男と対峙したソフィが銃を構えると、男が『今日はいい日だ。

 忌々しい、赤ずきんを一匹殺す事が出来る』と叫んだ瞬間、オオカミが村に雪崩来た。


「お、お母さんは!?」


 レイチェルがルースにそう聞いたのだが、ルースは襲って来たオオカミに片腕を噛みつかれ、別のハンター頭巾に助けてもらったそうだ。

 その後は、女性や子供達を連れて逃げ出した。


「ごめん……。

 僕は逃げ出したから、これ以上は分からない……」


 ルースが俯いたのを見たレイチェルは村へと駆けだす。

 ティルもレイチェルを追いかける。

 シャンティはルースにコラシオンの方向を教え、街道を逃げるように指示する。

 運が良ければ警備隊に会う事が出来るかもと言い、シャンティも村へと向かった。



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