14話 ハンター頭巾
ハンター頭巾になるには、協会支部の受付でハンター頭巾登録すればいい。
登録料というモノは存在せず、年齢制限も国籍も関係ない。
ハンター頭巾になりたいという意志があれば登録は出来る。
ハンター頭巾の主な仕事はオオカミ退治。
年齢制限がないという事は、小さな子供でもハンター頭巾になれるという事だ。
だが、力のない小さな子供にオオカミ退治などできるわけがない。しかも、オオカミ退治の依頼は十五歳以上じゃないと受けられない事になっている。
それでは子供がハンター頭巾になっても仕事がないじゃないか! となるのだが、十歳以下の子供でも草むしりや町内への配達などは出来る。それに十歳を超えれば、結果を出しているハンター頭巾のギルドに入ればオオカミ退治にも参加できる。力があれば、ギルドに入り力と経験を積み、十五になったら本格的にオオカミ退治を始める者が大半だ。
話を聞く限り、悪い事は無いように聞こえるのだが、こういったハンター頭巾はオオカミ退治をしない者を見下し始める。
協会の理念としては生活にあぶれた者を救う為にハンター頭巾協会が生まれたというのに、オオカミ退治が出来ないから見下されるのは違う。
だからこそ、協会としてもこういった問題をなくす為に、明確なランク付けは存在しない。
だが、協会の支部を束ねる支部長となれば、話は別だ。
オオカミ退治をするようなハンター頭巾を束ねるには、誰もが認める結果と強さを示す必要がある。
大きな結果を得ようと思えば、やはりオオカミ退治を主体にしなくてはいけない。
ハンター頭巾協会の歴史は、数百年と長い。
どんな組織も長くなれば設立当初の理念が薄くなっていく。
協会発足当初は、全てのハンター頭巾は平等なはずだった。だが、オオカミ退治で地位を得ていった者が協会を運営していった結果、支部長ですらオオカミ退治が出来ない者を無能扱いするケースが増えてきていた。
この様な歴史があるからこそ、ティルはオオカミ退治で名を上げた支部長にこう聞いたのだ。
「貴女もレイチェルを無能と陰で言っているのですか?」
アリアは、何を馬鹿な事を……と答えようとしたが、ティルの目は真剣だった。
本来であればレイチェルが陰口を叩かれるいわれはないのに、村を訪れたハンター頭巾達はレイチェルを陰で笑い無能扱いした。
レイチェルはハンター頭巾協会に登録をしていない。ただ、赤ずきんの孫、二代目赤ずきんの娘という理由でだ。
しかも、レイチェルの剣技の腕は想像のはるか上をいく。オオカミ退治で名を馳せたハンター頭巾でも、レイチェルの間合いに入ってしまえば、簡単に命を刈り取られるだろう。
しかも、これはあまり知られていないが、レイチェルは弾道を読み切る事で、余程の不意打ちでない限り銃弾を避ける事が出来る。
つまり、オオカミには勝てないが、負ける事もないのだ。
だからこそ、レイチェルの場合は陰でコソコソと、無能と呼ばれていた。
アリアは答えを考える。
レイチェルはハンター頭巾でもないのに、生まれた環境だけで無能扱いされている。そんな娘にどう声をかけるか……。
「私はハンター頭巾協会支部長だ。いわばハンター頭巾の上司にあたる立場だ。
そんな私が部下の、いや、レイチェルはレベッカの孫というだけでハンター頭巾でもない、そんな少女を無能と呼ぶわけがないだろう?」
アリアには支部長としての矜持がある。だからこそ、ハンター頭巾でもない子を無能扱いなどしない。
いや、ハンター頭巾であっても真面目に依頼をこなしているのであれば無能扱いなど絶対にしない、と心に誓っていた。
だが、ティルは違った。
「私達の村の支部長は平気でレイチェルの事を無能と陰口を叩いていますよ。しかも、レイチェルがオオカミの効率のいい倒し方を思いつくという特異体質を持っていると知ってからは、利用しようとまで考えているようです。
その点に関しては、どうお考えですか?」
アリアは額を抑える。
レイチェル達が住む村には名はない。
普通であれば無名の村にはハンター頭巾協会の支部が作られる事はない。
だが、あの村には二代目赤ずきんであるソフィがいた。
ソフィを訪ねてくるハンター頭巾が多かった為、無理やりハンター頭巾協会の支部を置いたのだ。
当然と言えば当然なのだが、その支部には価値はあまりない。そこの支部長にも価値はそれほどないのだ。
(ハンター頭巾協会の支部長は、貴族に匹敵する地位を得る事が出来る。だからこそ、品行方正でなくてはいけないはずだ。
確か、あの村の支部長はボールドだったな。
奴はハンター頭巾歴の長い男だ。しかし、下の者への態度が悪く、支部長の器じゃない。
あの村に赴任させたのは、あの男があまりにもうるさかったからのはずだ。
それに、もし下らない事を考えたとしても、ソフィがいるからと安心しすぎたか……。
しかし、あの男がレイチェルを利用しようとしているとは……)
アリアは溜息を吐くとともに、多少の怒りを覚える。
レイチェルとは直接接点を持っていたわけではないが、親友であり戦友でもあるレベッカの孫娘だ。
それ以前に、ハンター頭巾でもない少女を利用しようなど……恥知らずな!! と心の中で怒鳴る。
「レイチェルはハンター頭巾ではない。ハンター頭巾であったとしても、オオカミ退治の依頼以外をこなしていれば、こちらから何かを言うつもりはないよ。
ただ、今回の事だけは、どうしても見過ごせないんだよ……」
アリアとしては、そこそこ名の売れたハンター頭巾ですら、特殊個体と気付かないうちにオオカミを倒せていた、というのが気になった。
(ジャン達の言う通り、レイチェルの指示が正しいモノであれば、その知識を生かす事は出来る。
だが、これが本能だったのならば……この子は化ける可能性が高い。
それこそ、レベッカすら超える存在になるかもしれないが……)
アリアはそう思ったからこそ、レイチェルと話がしてみたいと思ったのだ。
そして、レイチェルに話を聞いたところ……。
(やはり、本能だったか……)
アリアはレイチェルの本能に驚愕し、そして、落胆もした。
(この子は特殊個体を殺す事に特化している。
これにアールミヤが気付いたら、きっと欲しがるだろうな……。
だが、レベッカの話ではこの子はハンター頭巾になりたがっていないと聞いた。
化ける可能性のある子を、馬鹿なハンター頭巾や馬鹿な支部長のせいで、ハンター頭巾にする事が出来ないとは……残念だ……)
アリアが落胆したモノは、レイチェルではなく、本当の才能を見出す事の出来なかった、協会そのモノだった……。
アリアは二人を見送った後、ソフィの村にある支部に話を聞くべく通信を入れた。
しかし、いつまで待っても通信がつながる事はなかった……。




