11話 祖父母の心配
レベッカ達に案内されて家に来たレイチェル達。
家に入ってリビングのソファーに座るとティルがソフィから預かった手紙をレベッカに渡たす。
ソフィが手紙など書く娘じゃない事を知っているレベッカは、疑うような顔で手紙の封を切る。そして手紙を流し見た後、クロードに手紙を渡す。
ソフィの手紙を読み、疲れた顔になったレベッカを見てクロードは何が書いてあるかを察した。そして、実際にその手紙を読み自分の娘に呆れる。
手紙には『ハンター頭巾の仕事を近くで見せてやって欲しい』の一文が書いてあるだけで、他には何も書いていなかった。
ソフィは周りからは聡明にみられているが、実はとても大雑把な性格をしており、無駄を一切嫌う性格をしている。
手紙を書くくらいなら直接会いに行けばいいと言う性格なので、手紙の内容が用件だけというのはよくある事だった。
ハンター頭巾の仕事を見せてやって欲しい。
ソフィはレベッカ以上に赤ずきんの名を大事にしているので、自分の両親には、「レイチェルには是が非でも赤ずきんになって欲しい」といつも言っていたのだ。
しかし、レベッカとクロードも可愛い孫娘であるレイチェルに才能がないのを知っていた。いや、才能はあるのだ。
ただし、オオカミ退治の才能がないというだけで、決して弱くない事を知っている。
だからこそ、レイチェルには別にオオカミ退治だけが人生ではないので、気にしないようにと言ってきたのだ。
しかし、ティルが「レイチェルの指示でオオカミを倒した」と言ったのがどうしても頭から離れない。
だからこそ、レベッカは考える。
自分達の知っているレイチェルには、オオカミ退治の才能はない。だが、ティルはレイチェルの指示でオオカミを倒したと言っていた。
いや、偶々そうなったのかもしれない。
そう考えたレベッカはソフィの手紙をもう一度見る。
(ハンター頭巾の仕事は何もオオカミ退治だけではない。ソフィはそこを含めてレイチェルに見せろと言っているのか?)
確かにハンター頭巾の仕事は何もオオカミ退治だけが全てというわけではない。
ジャン達が請け負った仕事の様に、護衛という仕事もあるし、盗賊退治や犯罪組織のせん滅などもハンター頭巾が請け負う事が多い。
何より、オオカミ退治の次に多いのが魔物退治だ。
魔物というのはオオカミと違い、元々魔物という種族の生き物であり、人外ともいえる見た目と狂暴な本能をしており、ある意味オオカミよりも厄介なのだ。
しかし、この国にはオオカミの方が圧倒的に数が多い。だからこそ、オオカミ退治以外を主体に活動しているハンター頭巾も多くいる。
そんな状況だからこそ、オオカミ退治をしないハンター頭巾は役立たずと言われたりもするのだ。
新人や実力のない者は、そう言われるのが嫌で無理にオオカミ退治に行き、モノを言わなくなった状態で帰ってくるのだ。
(レイチェル程の剣技の腕があれば、別にハンター頭巾にならずとも、生きて行く事は可能だと思うのだが……。
それこそ、この国を出て他国ならば優秀な剣士として大成を成す事が出来るのではないのか?
ソフィはハンター頭巾にこだわり過ぎているのではないか?)
レベッカはレイチェルを見て溜息を吐く。
確かに、レベッカはレイチェルくらいの年にはもうハンター頭巾として戦っていた。
そんな生活を行っていた自分を不幸だとも思わないが、幸せとも思った事はない。
しかし、何度も命の危険はあった。
いくら伝説の赤ずきんだったとはいえ、巨躯オオカミを一人で相手にした時は死を覚悟した事もある。
そんな危険な仕事をかわいい孫娘にさせたいか?
レベッカは再び溜息を吐いた。
レイチェルの気持ちを一度聞いた方がいい……そう思って話をしようとした時、ジャンとシャンティがレベッカの家を訪ねてきた。
レベッカは思った。
丁度いい……オオカミ退治の事を当事者のハンター頭巾達に聞けばいいと考える。
ジャンとシャンティも加わり、レベッカの家のリビングに六人で食事をとる事にした。
食事をとりながらオオカミ退治の話を聞く事にしたレベッカ。すると、ジャンが不思議そうにレイチェルの顔を見ていた。
そして……。
「レイチェルの嬢ちゃんは、あのオオカミに自己再生能力がないって事を知っていたのか?」
ティルの銃弾には紋章魔法が仕込まれていなかったし、ジャンが撃った胸の中心の傷も再生が始まっていなかった。
普通のオオカミであれば紋章魔法が仕込まれていない銃弾を受けても傷はおろか、痛む素振りすら見せないはずだ。
だが、あのオオカミは太ももを撃たれて動きが鈍くなっていた。
しかも、紋章魔法が仕込まれているとはいえ、頭以外の場所を撃てば再生が始まるはずだった。しかし、そんな様子は全くなかった。
ジャンはレイチェルがこのオオカミの事を知っていたからこそ、胸を撃てなどの指示を出したと思っていた。
しかし、レイチェルは……。
「え? 私はオオカミの事には詳しくないから、知らなかったよ」
「それなら、なぜ胸の中心を撃ち抜けと言ったんだ?」
「えっと、人間であればそこを撃たれれば動けなくなって頭が無防備になるかな? って……」
「「な……!?」」
ジャンとシャンティは絶句した。
レイチェルにはオオカミの知識はない。だからこそ、普通動物の狩りとして考えたのだ。
という事は、あのオオカミが再生能力のない特殊個体でなければ、通用しなかったのである。
この言葉を聞いてジャンは言葉を失った。
当てずっぽう……。そうとしか考えられなかった。激昂しそうになったがシャンティに止められる。
ジャンの妻であるシャンティもレイチェルの言葉に怒っても良かったのだが、ジャンと比べて思慮深いシャンティは別の事にも気づいていた。
どうやらその事にレベッカも気付いていたようで、レイチェルの顔を驚いた顔で見ていた。
しかし、気付いていないジャンは怒りで顔を真っ赤にしている。そんな夫を宥めるシャンティ。ジャンの怒りはシャンティに向いたが、レベッカに制止される。
「ジャンは気付いていないみたいだが、君は気付いているみたいだね」
「はい……。ジャン、ちょっとこっちに来て」
シャンティはジャンを連れて部屋を出ていく。そして家を出た瞬間、ジャンはシャンティに掴みかかる。
「おい!! アイツは当てずっぽうで……オオカミ退治を舐めているとしか思えない!!」
シャンティもジャンがそう言うのも理解できる。しかし、シャンティはそれ以上に恐ろしい現実を知ってしまった。
「ジャン、あんた気付いていないだろうけど……レイチェルちゃんはあのオオカミが特殊個体だと気付いていたわよ」




