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10話 英雄達の通信


『五人の英雄』と呼ばれているハンター頭巾達がいる。


 一人は伝説の赤ずきんレベッカ、引退しているとはいえ、最強の黒ずきんアリアもその中に入る。

 そして、現ハンター頭巾協会総本部長のアールミヤも、銃弾に紋章魔法を刻み込むという技術と統率力が認められ、統制の青ずきんアールミヤと呼ばれていた。

 その五人の英雄のうちの二人が通信で話し合う。それだけで、各国の記者達が騒ぎ出すレベルなのだ。


「アリア……久しいな」

『そうだね。まぁ、堅苦しい挨拶は抜きにして……』


 挨拶もそこそこにアリアは街道に現れたオオカミの事をアールミヤに報告する。

 アリアの知る限り、コラシオンの町の周辺でオオカミが現れた事はない。それどころか今回現れたのは街道上だ。


「アリア、君を疑うわけではないが、その報告を持ってきたハンター頭巾は信用できるのか? そもそも、コラシオンの町にはお前とレベッカがいるんだ。その町を襲いに来る馬鹿なオオカミはいないだろう。それに街道と言えば警備隊もいるじゃないか。そいつ等はどうしたんだ?」


 確かにコラシオンの町にはレベッカ達がいるので、国もそこまで強い警備隊を配置していないとは、アールミヤも聞いていた。

 しかし、警備隊の中でも中級以下とはいえ、ハンター頭巾と比べれば、装備も整っているし、何より強く連携もとれているのでオオカミ退治としては、充分すぎる程だった。


『その冒険者が言うには、退治したオオカミを焼いていても警備隊がやってくる事はなかったそうだ。そして、そのオオカミなんだがな……特殊個体(・・・・)だった可能性が高い。いや、間違いないと言っていいかもしれないな』

「な、なんだと!?」


 特殊個体は普通のオオカミよりも遥かに強力なため、よほど名の売れたハンター達でない限り、倒すのは困難なはずだった。


「どういった事を根拠に特殊個だと言っているんだ? 特殊個体を単独で倒せるハンター頭巾など、そうはいないぞ?」

『あぁ、その事についてはレベッカの孫娘であるレイチェルがいた事が大きい。そんな事よりも、街道上でオオカミが現れた事の方が問題だ。そのオオカミが特殊個体であった以上、国の調査機関に動いてもらった方がいいと判断したんだが……』


 レイチェルがいた事が大きい?

 その言葉を聞いたアールミヤは困惑する。

 しかし、アリアの言う通り、国に早急に調査隊を出させた方がいいのは確かだ……。


「分かった。国には私の方から申請しておこう。それよりも……」

『そうだ、調査隊の派遣もそうなのだが……今までいた警備隊の捜索願いも出しておきたい』

「なに? どういう事だ?」

『さっきも言ったが、一時間も街道上でオオカミを焼き続けたにもかかわらず、警備隊が様子を見に来ないのはおかし過ぎる』


 アリアのいう事は尤もだった。

 アールミヤの知っている警備隊には、少なくとも街道上で何かを焼かれていて、見て見ぬふりをする者はいなかった。


『それと嫌な予感がする。出来るだけ早急にお願いしたいんだが……』

「もちろんだ……」


(警備隊が全滅しているかもしれない……か。警備隊を全滅させるほどのオオカミを無傷で倒すハンター頭巾がいるとは思えないが……レイチェル嬢が関係しているとアリアは言っていたが、どうもそれは信じられん)


 アールミヤもレイチェルの噂は聞いていた。

 レベッカの娘であるソフィとも交流があり、その夫であるハンゾウの事も知っているアールミヤとしては信じられないのも無理はない。


 ハンゾウの剣技は型が美しく、対人戦やオオカミではない魔物相手であれば、レベッカに匹敵するほどの強さを持っていた事はアールミヤも知っている。

 しかし、異常なまでの斬撃耐性と自己再生能力を持つオオカミに対しては、その力が発揮される事はなかった。

 そんなハンゾウの娘であるレイチェルは幸か不幸か、父親であるハンゾウの剣の才能を色濃く受け継いだとは聞いていた。


 もったいない……。

 この国でなければ……相手がオオカミでなければレイチェルは大成する事が出来ただろう。

 だが、この国ではオオカミの脅威が大きい。

 噂ではオオカミを効率よく倒す方法を思いつくとはアールミヤも聞いていたが、オオカミが相手では、そんな才能があろうとも、剣技は役に立たない。



 アールミヤはアリアとの通信を切った後、国へ調査隊の派遣と救命隊の派遣を要請た。

 国もオオカミの脅威を知っているので、すぐに派遣するとの答えを貰った。


「では、よろしく頼む……」


 アールミヤは国との通信を終えた後、机に散らばった報告書をとり溜息を吐く。


(コラシオンの町にはレベッカやクロード、それにアリアもいる。過剰戦力と言えば過剰戦力だから、そこまで心配する必要はないのだが……)


 アールミヤは報告書に書かれた一文を一瞥する。


【オオカミの中に、人間の姿を確認。

 しかし、尻尾と耳があり全身が毛に覆われているようだった。

 オオカミ達は、その人間に従っているように見えた】


(眉唾物だな……オオカミにとって人間は餌だ。そんなオオカミが人間に似たオオカミに従うとは思えない。

 しかし、この報告が本物ならば世界が荒れるかもしれない。

 そうなれば……我々も再び戦わなくてはいけなくなるな……)


 アールミヤは馬鹿な自分の考えに首を横に振り、一笑する。


(五人の英雄もアリア、私、もう一人も、もう引退している。レベッカがいまだに現役とはいえ、もう歳だ。

 となると、この国を守れるのは()しかいなくなる……。

 アイツが強いとはいえ、たった一人でオオカミをせん滅し尽くせないだろう……。

 いや、何を馬鹿な事を考えているんだ、私は……)


 アールミヤは、馬鹿な考えを振り払い仕事に戻る事にした。


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