5
『この人でなし』
Rは女に背後からひっそりと近寄って、強く殴りつけた。
女は昏倒し、その場に膝から倒れおちた。
頭から血を流し、その意識は無くなっているように見えた。
Rはその倒れ伏した女を見て、とても興奮した。
女の衣服を破り捨て、最大限に彼女を辱め始めた。
『あぁ! 何故だ! 何故だ! その女性は私の妻だ! 私は知っていた。物語が進めば妻が犠牲になることを。この悪漢が、妻を辱めて殺すことを!』
女はまだ息が合ったが、しかしその命の輝きは失われていった。頭から流れ出る血は如実に彼女の生命の残りを表していた。
Rはその様に興奮し、さらに激しくその女を辱めた。
『あぁ、許さない! 私は許さない! 何故この物語を読み進めた! 私はあんなにも止めたのに! 私は物語を止める力はない。物語は用意されていた! だが! だが! お前が私の言葉を聞き入れてくれれば、妻は! 妻は! 私に語らせないでくれ、嫌だ! 語りたくない!』
女が冷たく固くなった頃、遠くからサイレンの音が響いた。
Rは夢中になりすぎたのだ。脱獄の話は、すぐに刑務所に知れ渡ることになり、追っ手は追いかけてきていたのだ。思いのほか、上手く事が進んでしまい、Rはつい気が緩んでしまっていた。
Rは気が付けば、警察官に囲まれていた。
だがRは満足していた。すっきりしたと言ってもいい。欲望を醜く叶えたRは、またもや刑務所へと戻っていくことになりました。
最初と変わらず、また刑務所の中で。
彼はまた模範囚を演じました。次はいつ脱獄しようか、そう考えながら。
『お前は、何でこの話を読んだんだ? 私は何度も提案して懇願したじゃないか。この物語で何が起きた!? 私の妻がひどく辱められて殺されただけだ! Sは刑務所の中に戻った。おまえがこの物語を読んでも読まなくても、Rは刑務所にいたんだ!』