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第八話


 対ジャイアント・タートル戦。おそらく世界でも最大の亀と戦った僕達は歴史に名を残す事になるのだろう。後はこの亀の部材を王都か領都にでも持ち込んで世間に公表する。一躍、シルバー・クリスタル号は有名になって、部材をお金に変えれば……

 

 「あのジャイアント・タートルの部材は放棄するってよ」

 

 「えっ!?」

 

 あの…… 僕の勝利の証が…… あれだけの苦労が…… 僕のボーナスが…… 魔岩を少し分けてもらう計画が……

 

 「あれだけの物を放棄するってどういう事ですか!? 一年とは言わないけど半年分くらいの利益が上げれますよ!」

 

 「そう興奮するな。これには訳があるんだよ……」

 

 フィリスの言い出した言葉に僕は、ただ聞くだけだった。これほどの理不尽は有るのだろうかと、人生に絶望して膝を抱えてスマホ片手に無料動画でも見ていたい気分になった。

 

 見付け出した、タマゴを運べ。

 

 理不尽過ぎる! さすがに結論だけだと、まったく分からなかったが、順を追ってリリヤちゃんがフィリスの補足をしながら話がすすんだ。二人が話すには…… おい、ナターシャ。仕事が無いならご飯をもらってきて。

 

 まず、僕達が倒したジャイアント・タートル。これはハミルトン公爵を助ける「ついで」に倒した訳だが、倒した方法が悪かった。

 

 この世界にはまだ無い炸裂弾や貫通弾を使い、派手に目立つレールガンを撃ったものだから、ハミルトン公爵がそれに興味を持ち始めた。

 

 「あれはどういう物だ?」「誰が造ったんだ?」「一つ分けてくれ」とリリヤちゃん曰く船長に迫ったらしい。船長は誤魔化す様に話した訳だが、ハミルトン公爵の尽きない探求心はシルバー・クリスタル号を臨検するとまで言い出した。

 

 それで僕はハミルトン公爵と顔を会わせないよう、怪我人はベッドで寝ているようにと自宅軟禁となった。営倉に匿われるよりかは、ずいぶんマシだ。

 

 僕の事よりも、もっと大事な事がある。それはジャイアント・タートルと戦ったシルバー・クリスタル号に少なからず被害が出ている事だ。

 

 魔岩の直撃は六割くらいあったが、リリヤちゃんの活躍により重要な場所は守られた。感謝の一言に尽きるが、今度から城船に乗らない様に守ってもらおう。おそらく城船には無駄に六十トンくらい乗ってるからね。

 

 今は錬金術師や魔導師が総出で補修や魔岩の撤去にあたってる。短脚や長脚に無理をさせているし、魔岩もそのままでは城船上にある建物の修繕の邪魔だ。

 

 それに魔岩から作られるアクセサリーは都の女性に人気があると聞いている。固さ故に浮気の防止や亀から取れる故に絶倫になると、彼氏や旦那さんにプレゼントに使われる。

 

 僕の錬金術でアクセサリーを作るのは得意では無いが、同僚のジョシュに任せれば良い物を作ってくれるはずだ。それを全部を放棄しろとは、ハミルトン公爵が見付けた物がそれ以上価値があるものと船長が判断したか、弱みでも握られているからだ。

 

 ハミルトン公爵が見付けた物。それは今まで見た事もないくらい大きな魔石の塊だった。普通の魔石なら、拳くらいの塊として地下から見付けられるが、ハミルトン公爵が見付けたそれは、各属性を表す色が無数に集まり一つの塊となっていた。

 

 そんな物は聞いた事が無い。各属性は相反する力を持っていて組み合わせる事柄出来ないとされている。もしそれが出来るのなら、それは無属性の魔力か魔力自体を調整しているかだ。

 

 無属性の魔石は他の属性の魔力と衝突する事も中和される事も無い。魔導師が魔力の調整をするのは、それなりに難しいが魔石自体が調整しているなんて出来ないはずだ。

 

 もし、魔石が自ら魔力を調整してくれるのなら、今後は錬金術師の時代が来る! 僕達の魔力が他の属性の魔力を産み出せるのなら、属性に拘らずに魔力を持っているかどうかで決まってくるからだ。

 

 普段の生活や仕事、城船の運営に属性が大事になっているが、それを無属性の魔力で調整の時には魔力が取られる事も少なければ、ハミルトン公爵は凄い発見をした事になる。

 

 「それで、そのタマゴを運べと。何でしたっけ? イグ…… イグナフスの街でしたっけ?」

 

 「そうでぅ~。魔導都市イグナフスですぅ~。あそこなら色々な調べ物が出来ますぅ~」

 

 イグナフスなら僕も行かないといけない所だ。あの都市でしか二級以上の魔導試験をやっていないからね。僕の実務経験が満了した時には有給取って、試験を受けに行かなければならない。

 

 「丁度、いいかも知れませんね。試験の前に一度行ってみるのも」

 

 「おまえ、試験はいつになるんだ?」

 

 「後、一年半くらいで実務経験は満了しますからね。受けるならその後かと」

 

 「そうか。あたいと同じくらいだな。一緒に行ってやるよ。宿代も安く無いからな」

 

 謹んで遠慮します。試験は一ヶ月もかかるって話だ。その間、一緒に住む気か? 燃やされたら試験所じゃない。

 

 「それならリリヤも一緒に行きますぅ~。リリヤは実務経験は終わってますぅ~」

 

 喜んでお受けします。試験は一ヶ月もかかるって話だ。その間、一緒に住めるなんて幸せ。ただ、右手で触るのは無しでね。

 

 「ソフィアさんはどうなんですか? 今回で降りて試験を受けるんですかね?」

 

 「どうなんだろうな。あいつは、いつでも試験を受けられるだろうし、行ったら降りるかもしれねぇな」

 

 それは残念だ。一ヶ月も会えないなんてシンちゃん寂しい。その前に、思い出を作っておきたいな、二人きりで、ゆっくり、しっぽりと……

 

 「ナ、ナターシャは、どうするの? 試験は受けたりするの?」

 

 黒いローブを羽織る謎の魔導師ナターシャ。系統はおそらく「黒系」だろう。年齢は十代だと思うがハッキリとはしない色白な美少女、ストライクゾーン高めホームランコース。唯一の欠点は……

 

 「……ご飯」

 

 いつ、部屋から出ましたか!? いつ、戻って来たの!? 影が薄くて無口。いや、影は黒いローブだけに濃いけど存在感が薄い。このキッチンの無いワンルームにどうやって気付かれずに出入りした?

 

 「ありがとう。頂くね」

 

 差し出されるトレイに乗ったパンとエール。もう米を食べる習慣が無くなってどれくらい経つのだろう。僕は出されたトレイを受け取ると同時に撃ったらナターシャのフードを取った。

 

 部屋の中なんだからフードは取ろう。可愛い顔が勿体ない。ナターシャは恥ずかしいのか慌てて被り直した。そして僕は慌ててそのフードを取る。

 

 そんな無益な攻防が五回も続いた時に、両手で抑えて、ぐっと被ったまま下を向いてしまった。まるでイジメている様にも見えるが、ナターシャほどの美形をフードで隠すのは勿体ないよ。

 

 「そのくらいにしておけって。後ろを見ろよ」

 

 フィリスの言葉で我に返ったが、今度はそのローブから捲ってやろうかと思い後ろを見た。見て良かった。いや、見ない方が良かったのか、僕の後ろでは前に僕の首を締めた「蔦」がジャングルの様に成長して今にも襲い掛かって来そうだった。

 

 「あ…… ありがとね、ご飯。た、食べるね」


 小さく頷くナターシャちゃん。いつか目を合わせて話がしたいよ。その時は「蔦」は無しでお願いしたい。

 

 それからは無言の食事が喉を通りエールで流し込んだ。後ろの方では風になびいている訳でも無いのに蔦の動きが音として伝わって背筋が寒くなりそうだった。

 

 聞きたい事はまだあったけれど、二人は仕事に戻らないといけない。一人は…… ナターシャはどうするの?

 

 帰り際にリリヤちゃんが小さな魔岩の欠片をくれて、「これでアクセサリーを作って下さい」と手渡してくれた。どれほど、魔岩が貰えるか分からないが、この欠片はリリヤちゃんにプレゼントするために僕が作ろうかと思った。

 

 三人が部屋を出て行くのと同じくらいに、僕は食事の後の尿意に襲われ気が付いた。魔岩を受け取った時に触れられた両手が石になっている事を。

 

 どうやってズボンを下ろせばいいのだろうかと…… 

 

 

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