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第五十五話


 「間に合ったな!」

 

 「もう見えてますけどね」

 

 ザースローの街に着いた時には遠くの方から巨人がやって来るのが見えた。あれだけ急いだから余裕で間に合うと思ったのに、スキップでもして急いだのか?

 

 「速いな。余裕があるんじゃなかったのか?」

 

 「予想外です。でも、もう予想なんて必要ありませんけどね。ミスティアの巨人にはここで永眠してもらいます」

 

 「他の城船も待機してますね」

 

 「無視します。きっと何も出来ないですからね。僕達は…… とりあえずウィザードのシートを剥がすのを手伝ってもらえませんか!?」

 

 「それは整備の仕事だろ。あたいらは魔導師だ。操縦が仕事だ」

 

 僕は急いでシートを取り払った。ミスティアの巨人はもう来てるのに余裕だな、お前ら。これからは、その凶暴な力を発揮してくれよ。二回守ってくれたら巨人に届くのだから。

 

 「全員搭乗。最終通達。先鋒ソフィアさん。次鋒リリヤちゃん。後先考えずに最大防御魔法で魔石を押さえて。一回守ったら戦域を全速で離脱。後ろを見るな」

 

 「了解です」

 「了解ですぅ~」

 「りょ…… ちょっと待て!」

 

 「出撃!」

 

 フィリスの言いたい事は分かるが、もう聞いている暇はない。巨人に僕の魔力が通用するのか、勝負してやる! 僕達は陣形を取った城船の中央を割る様に巨人に進んだ。

 

 「おい! なんか言ってるぞ!」

 

 「誰がです? 何をです?」

 

 「……貴官の所属…… 名を……」

 

 「これですか?」

 

 「城船から言ってるみたいだな。返事しておけよ」

 

 「僕がですか!? なんて言うんです?」

 

 僕達はシルバー・クリスタル号を勝手に抜け出た犯罪者だ。「僕達は敵前逃亡して来ました」とでも言うのか?

 

 「なんでもいいだろ。聞こえてるかもわかんねぇ」

 

 なんでもいいなら、言ってみたい事がある。真顔では言えない。酒の力を借りて言うなら出来る言葉が。

 

 「ヒーロー見参!」

 

 「……」

 「……」

 「バカだな……」

 

 「なんでもいいって言ったでしょ! 一度くらいは言ってみたいの!」

 

 「よ、良かったと思いますよ…… 所属は明かさない方が…… ねぇ」

 

 「カッコいいですぅ~」

 

 「こう言うのは「バカッコイイ」って言うんだよ。ほれ、巨人からプレゼントが届きそうだ」

 

 ミスティアの巨人が光だし魔石を作り始めた。光は横に広がり、その光の帯が全て魔石だった。

 

 「ソフィアさん! 全力でよろしく!」

 

 「任せてください。第一詠唱、■■■■、ブラックウォーター」

 

 先陣を切るソフィアさんのウィザードの足元から沸き上がる黒い水は、横にまで大きく広がり津波の様に魔石に向かった。

 

 水と岩、どちらが強いとかの話じゃない。魔法と魔石のぶつかり合いは、濁流となったソフィアさんの魔法が勝った。

 

 「ソフィアさん! ありがとう! 後は任せて」

 

 「魔力が無くなりました。待ってますね。後は頑張って……」

 

 ソフィアさんはその力を使い果たし、戦線を離脱していく。予定通りだ。後は遠くまで逃げてくれたら大丈夫だ。

 

 次の魔石の放出を防ぐのはリリヤちゃんの役目。元からリリヤちゃんは城船の時から防御に特化している。魔石の百や二百、防いでくれるよね?

 

 「予定通りか!?」

 

 「はい! 予想以上の魔法でしたけどね」

 

 「次はあいつが敵になるのか……」

 

 あいつってソフィアさんのこと? 本当に終わったら殺り合うつもりなのか? みんな穏やかに平和的な話し合いで解決しようよ。最終的に「誰を選ぶんだ!?」とか僕にフルのは止めてね。

 

 「リリヤちゃん! 光ってる! 次が来る!」

 

 「任せて下さい。第一詠唱、■■■■、サンドウォール七重」

 

 土の壁が七枚、リリヤちゃんの前方に浮かび上がる。城船でも二枚しか見た事がないのに七枚だと! 天才って以外と側にいるのね。

 

 ミスティアの巨人が光だし、頭上に一つの巨大な魔石を出現させ飛ばした。飛翔する巨大な魔石とサンドウォールは衝突し、六重までの壁を壊して、七重目でなんとか弾いた。

 

 「ま、まだ、いけます!」

 

 「もういい! 下がってくれ! 後は大丈夫だから」

 

 「でも、まだ一枚あります」

 

 「リリヤ! これ以上は足手まといだ。おとなしく下がってな」

 

 「ご、ごめんなさい。ミカエルさんの事は任せます……」

 

 もう少し言い方があるだろうが、時間が無いから許す。これで二回の魔石を防いだ。後は背中の魔導炉に点火して巨人まで駆け上がる。

 

 「予定通りか!?」

 

 「予定通りです! 魔導炉点火まで三十秒!」

 

 後、三十秒分近付けばミスティアの巨人の背中に乗れる。乗ったらすぐに首筋まで行って魔力を最大で流す。心の準備と身体の準備。いつでもいけるぜ!

 

 「あの光ってるのも予定通りか?」

 

 「へっ!?」

 

 ミスティアの巨人が光だしてる。予定では三回目の前に飛べる筈だったのに! ずるいぞ! 予定通りに仕事をしろ! 納期を守れ!

 

 「撃ってくる! 撃ってくる! どうしよう……」

 

 「点火しろ! これを交わせなかったら巨人に近付く事も出来ねぇだろ!」

 

 「点火しても巨人までは届かないよ! その後はどうするんだ!?」

 

 「知るか! 今、死ぬか、後で死ぬかの違いだけだろ!」

 

 「少しでも長生きしてやる! 点火三秒前、三、二、一、点火!」

 

 光る巨人から魔石が放出されるのと同時に、背中に取り付けた魔導炉から炎を上げ作業用ウィザードは急上昇していく。魔石は僕達のいた地面に突き刺さり、追う様に僕達の足元まで迫って来た。

 

 凄まじい重力を全身で感じる。ロケットに乗ったらこんな感じなのか? 背中をシートに押さえ付けられ意識を保つのがやっとだ。

 

 ……ああ、空が青くて綺麗だ。雲が高い。もう秋だね。 ……飛びすぎだろ! 雲に手が届きそうだ。こんなに威力があるとは、作った自分でビックリだ。

 

 「どうするんだ、これから!?」

 

 加速が落ちて意識がはっきりと戻ってくる。どうするって言われても、後は落ちるだけだよ。逆噴射は通常の魔導炉を使う予定だったけど、ここまで上がると逆噴射しても……

 

 「どうしよう……」

 

 「考えろ! 錬金術師!」

 

 少しばかりの無重力。そして落下。作業用ウィザードには姿勢制御くらいの翼しか無い上に推進力が……

 

 「フィリス! 魔力を直接魔導師君炉に流す! それで推力を保って巨人まで…… 光ってる! 巨人が光ってる!」

 

 スポットライト浴びながら、待ち構える巨人。舞台の上から水をかけたり飴を投げたりするのは構わないが魔石は困る。

 

 「四発もあるなんて聞いてねぇぞ! お前の魔力は使うな! 巨人まで残しておけ!」

 

 「調整は任せろ! いけ! 突っ込め!」

 

 「女は度胸だぁぁ!」

 

 ミスティアの巨人の対空迎撃は熾烈を極めた。昔の零戦のパイロットもこんな感じだったのか。違うのは乗っているのがウィザードで、パイロットは野獣フィリスだ。

 

 コックピットの外には大小様々な魔石が通りすぎ、フィリスは全てを避けきった。 ……訂正。当たる、当たる。こんなの避けきれる筈も無い。

 

 魔導炉から魔力を分担して防御に回しても、右手は吹き飛び左足は何処かへ飛んでいった。ガラスハッチをかすめ飛んだ魔石は、それだけでヒビが入り、後席に座っている僕には前も見えなくなっていった。

 

 シートベルトが肩に食い込む。この減速感から巨人の背中の台座まで、着地するには十秒もあれば安全に降りれる。その期待は二秒後に、派手な音と意識が飛びそうな衝撃で幕を閉じた。

 

 「痛テテ…… フィリス…… 無事か……」

 

 「ぁあ……」

 

 無事には着いたみたいだ。地面まで落ちていたら死んでいただろう。機体は凄い事になってるだろうけど……

 

 「……フィリス?」

 

 僕達の着地は綺麗に出来たとは思わないが、この角度は足から着地したのでは無く、ボディから落ちたみたいに前のめりになって……

 

 「フィリス!?」

 

 僕はヒビの入ったハッチを割って外に出た。転がる様に落ちた時に見た作業用ウィザードのコックピットは、前部が潰れフィリスをコンソールで押し付けていた。

 

 「待ってろ! 今、復元で助ける!」

 

 僕がウィザードの機体を直してフィリスを助け出そうとすると、フィリスがそれを止めた。

 

 「後にしろ! 痛てぇ…… お前の魔力はこんな事に使うな……」

 

 「話すな! 今、助ける!」

 

 「ま、待て…… お客さんだ…… お前の力はそいつに使え……」

 

 こんな所に僕とフィリス以外に誰が居るって言うんだ!? 僕はフィリスが顎で示した後ろを振り向くと巨人の背中の台座にゴーレムが沸き上がって来ていた。

 

 そんな…… 舞台に上がっていいのは演者だけなのに、ゴーレムは警備員の制止を振りきったのか、興奮して僕達に向かって来た。

 

 「どうしよう……」

 

 予想外だ。ミスティアの巨人の本には書いて有ったのかもしれないけど、そこまで読んでる暇は無かった。サインを書いたり握手をしたら元に戻ってくれるだろうか。

 

 「やれ! やって勝て! 魔力をこの鉄パイプに流して、ぶん殴ってやれ!」

 

 コックピットに押し潰されて激しい痛みがあるだろうフィリスは、僕が隠して置いてあった鉄パイプを引きずり出し渡した。

 

 やってやる! 整備員の最終武器、鉄パイプ。とてもヒーローには見えない武器だけど、僕に出来る事はこれくらいだ。僕は最初に向かって来た中で、小さく弱そうなゴーレムに向かって鉄パイプを振り下ろした。

 

 あっさり。ばっさり。綺麗なくらいに鉄パイプはゴーレムの頭から胴体まで斬り裂き、魔力を流せば爆散して果てた。

 

 なんだ! 簡単じゃないか! これならゴーレムの十や二十、どうって事は無い。舞台に上がった事を後悔するがいい!

 

 「すぐ終わらせて戻る! それまで頑張れ!」

 

 フィリスの返事は聞こえなかった。僕は鉄パイプを振り回して巨人の首筋まで走る。魔力を叩き込んで終わりだ!

 

 

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