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第四十九話


 「何で追撃しないんですか!?」

 

 「うるさいボケ! 頭に響く!」

 

 異世界に夕陽を二つ作り、巨人はこの世を去った、半分だけ…… 燃料気化爆弾を受け、業火に焼かれ巨人はこの世を去った、上半身だけ……

 

 「完璧に倒せなかった、お前のヘタレ砲弾が悪いんだろ」

 

 「んっ! 返す言葉も……」

 

 レールガンと並ぶ自信作だった。この世界には無い破壊力を作ったと思っていた。この世界に兵器を作りに来たとは思わないが、錬金術師としてのプライドはあったのに。

 

 燃料気化爆弾は巨人の上半身を吹き飛ばし、今は下半身だけで立っていた。このまま攻撃を仕掛けて跡形も無くさないと、また復活しかねない。

 

 レールガンの攻撃は当たったらしい。胸に風穴を開けて、向こうの空が見えたそうだ。それが重さに耐え兼ねたのか、上半身が潰れ勝ったと思ったそうだ。普通の生き物ならそれでお仕舞いの筈が、潰れた上半身と下半身が融着したのか身長を縮めて動き出した。

 

 僕はその時、駆け回って見ていないが、見たのは普通の巨人の時。ダリダルアで魔石を補給して元の大きさに戻った姿だ。

 

 それを知り、完璧に破壊しないと巨人は復活する。魔力を与えなくても、身長を縮めて魔石を探す旅に出るだろう。街を破壊し、城船の攻撃も耐えながら。

 

 「今! 今、倒さないと復活します!」

 

  「分かってるよ。追撃はしたんだ。お前が遊んでいる間に……」

 

 遊んでいた訳じゃない。少しナターシャの編み物のサイズ合わせを手伝っていただけだ。決して、それ以上の事はしていない。恐くて、漆黒のセーターに吸い込まれそうで、それ以上の事は出来る筈もない。

 

 「追撃したんですか?」

 

  「返り討ちだ。魔導師が魔法を使ったら魔石の雨が降ったそうだ」

 

 「そ、それは怖いですね」

 

 「ああ、それで誰も近付けなくなった。死んだ魔導師を回収する事も出来ねぇよ」

 

 「まさか、うちでも死者が……」

 

 「ソフィアがな……」

 

 「えっ! そんな……」

 

 「嘘だ。うちの連中は待避中で出遅れたよ。お陰で誰も死んでねぇ」

 

 「……今なら親方にも勝てる気がしますよ!」

 

 「怖~い。ミカエル、怖~い」

 

 僕は怒りに任せてラウラ親方がいる机を叩いた。ふざけるんじゃねえ! 選りに選ってソフィアさんの名前を出すなんて! フィリスなら驚くだけで納得するような……

 

 「可愛い冗談だ。それよりか、お前は整備に戻れ。シルバー・クリスタルも領地に戻るぞ」

 

 「えっ! 何で戻るんですか!? 巨人はどうするんですか!?」

 

 「レールガンの補修と弾はどれくらいで出来る?」

 

 「補修ですか? 補修なら三ヶ月くらいです。弾頭は部材を集めて四ヶ月くらいですね」

 

 「特砲は?」

 

 「あれは無理です。弾頭の設計図は無いし、半年くらいあれば…… なんとか」

 

 「つまり、うちらで打つ手が無い訳だ。主砲だって同じだろ」

 

 「そうですね。一ヶ月はかかるかと……」

 

 「いいかミカエル。この国はもうすぐ戦争になる。他国が攻めてくるんだ。それまでに城船を直し領地に戻らなければならない」

 

 「何で戦争になるんですか? 今だって戦争みたいなものだし、他国と戦争だなんて飛躍し過ぎじゃないですか?」

 

 「これを見ろ」

 

 ラウラ親方が机の上に出して来た物は「本」と言うには大き過ぎて、厚さは国語辞典二冊分、長さは六十センチは越えていた。

 

 「凶器ですか?」

 

 「本だろ。どう見ても。ちゃんと表紙も付いる」

 

 鉄製の表紙で頭を殴られたら陥没か骨折するくらいの大きく重い本。魔導書の類いでは良くある封印が掛かった本だ。

 

 「ミスティアの巨人?」

 

 「そうだ。これが巨人の正体だ」

 

 やっぱり! そうじゃないかと思ってたよ。僕には分かってたさ。だって三級錬金術師だもん…… ミスティアってなに!?

 

 「何で分かるんですか?」

 

 「本に書いてある。それに巨人の目的もな」

 

 「えっ!? 目的!? あれって知性とかあるんですか!?」

 

 「ちょっと違うな。あれは兵器だよ。古代に作られた厄介な兵器だ」

 

 おい、おい。古代兵器ってロマンじゃないか! そのロマンに駆けずり回されて死人も出てるんだぞ! 面倒な物を作りやがって。昔の事は昔に終わらせておけ!

 

 「兵器なんですか…… 破壊方法とかは?」

 

 「わかんねぇ。ただ目的地は分かったよ。王都に進んで派手に爆発するんだとさ」

 

 「爆発って、王都で!? 何で王都で? いや、それよりも、それが分かっているなら早く倒さないと!」

 

 「だから、それが分からねぇんだよ!」

 

 「それなら戦争なんてやってる場合じゃないでしょ。他の国にも連絡を取って協力して倒さないと」

 

 「それは無理だな。巨人はこの国の王都で爆発して無くなる。それを阻止する為に出張った城船やウィザードは壊滅。他国は疲弊した我が国を好きなように蹂躙する。そんな所だ……」

 

 「み、みんなで仲良く手を取り合って……」

 

 「無理だろ」

 

 隣接している国は何ヵ国かあるが、全てと仲がいい訳じゃない。だからと言って戦争までになるのか? 人類みな兄弟とか、誰か言ってなかったか?

 

 「あたいらに出来る事は城船を早く直して領地に帰還する。帰れば戦の準備だ。負け戦のな……」

 

 うちの領地は他国と隣接する辺境伯爵だ。他の国と争いなんて…… 少しは心当たりもあるけど、お互い様だし、城船一隻沈めたくらいで戦争にまで発展する…… よね。

 

 「この本には巨人の破壊方法とか書いて無かったんですか?」

 

 「巨人がいなくなれば戦争が止められるってのか…… 止めておけ、お前にこの本は読めねぇよ」

 

 バカにするなよ! これでも錬金術師になる時は徹夜で勉強したんだ。表紙の文字も読めたし、他に書いてある事も読めるんだ。

 

 中身だって巨人の製造法とかだろ。巨人ならゴーレム系だろうし、錬金術も入っている筈だ。錬金術師が読めないって事はないだろ。

 

 「この本、借りてもいいですか?」

 

 「構わねぇが、気を付けろよ」

 

 「なにがです?」

 

 「足に落とすと、滅茶くちゃ痛い」

 

 僕は一抱えほどある本を持ち出し部屋を後にした。確かに難しい本だろうけど、錬金術師が書いたのなら僕にも読める筈だ。読めばきっと巨人を倒す手掛かりがある。

 

 「ラウラ、あの本はどうしたの?」

 

 「あれか…… あれは魔導都市が壊滅した時に見付かった本だ。遺跡みたいな書庫があったんだとよ」

 

 「それを…… 早いわね」

 

 「昔の男がいるんだよ。そいつが届けてくれた」

 

 「私も少し見たけれど、あれは持ち出しなんて出来るレベルの本じゃないわ。むしろ持っているだけで国家反逆罪になりそう」

 

 「今、持ってるのは、あいつだ」

 

 「角が生えてるわよ」

 

 「……かもしれねぇな。あいつを拾った時から、あいつはあたいの予想をいつも越える働きをしやがったよ。長脚、主砲、レールガン、特砲、目立つ所はそんな事だか、生活面においてもいい仕事をしてやがる」

 

 「今回も予想を越えると……」

 

 「あいつなら、ってな。三級に頼る様じゃ、あたいも引退かね」

 

 「出来るかしら」

 

 「やってくれるだろ。やってくれなきゃ戦争だ」

 

 「負けるのね……」

 

 「大丈夫だろ。あいつはふざけた所もあるが、やる時はやるヤツだ。ただ少し軽い所があるからな。これが終わったら嫁でも取らせるか……」

 

 「式には呼ぶわ」

 

 「……ほう。参列者の列に並ばせてやるよ」


 その日一日、二人は口をきかなかった。

 

 

 

 僕は辞書を片手に本を読み漁った。ミスティアの巨人。この巨人を作ったのは遥か昔の錬金術師。もう滅んでしまった名前も知らない国の天才錬金術師。

 

 確かに巨人は兵器だが、本来の目的は違った。巨人は魔石を集め、各都市に送る城船の役目を果たしていた。それを兵器に変えたのがミスティアと呼ばれた錬金術師。

 

 年齢、性別に付いては書かれてないが、名前からして女性だろう。こんな危ない物を作るなんて、きっとラウラ親方の先祖に違いない。

 

 巨人は各地で魔石を集め魔力を貯め、邪魔する物を排斥し、それを目的地で力を発揮する。巨人の魔力を最大限に使った爆発と言う形で。

 

 巨人の目的地。それは魔力が集中する都市。どの都市もその国の王がいる所には敵わない。それだけ魔石が集中し、国の根幹に当たる主要な所だ。

 

 巨人が魔石を奪う理由も目的地で何をするのかも分かった。分からないのはどうやったら破壊出来るかだ。歩きだした以上、王都まで進み続けるだろう。

 

 レールガン、燃料気化爆弾。物理的な破壊は可能みたいだが、同じ物を作るには時間がかかるが、巨人がまた動き出したら完成する前に王都が焼け野原だ。

 

 明日にも動き出せば、王都まで一ヶ月もかからない。途中で気が向いて釣りでもしてくれたらいいのだが、ダッシュされたら追い付く事さえ出来ない。

 

 僕は分厚い本を読んだ。巨人は錬金術を元に各種魔導を使っているのが分かったし、土魔法はリリヤちゃんと仕事をした時に学んで良かった。

 

 他にも火系や雷系、水系や見た事も無い文字か記号が列を成し躍りだし、頭の中で手を繋いだ時に僕の中でも予測じみたものが繋がった。

 

 巨人に勝てる……

 

 

 

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