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第四十四話


 髪の毛の心配より城船の心配の方が先だ。ただ今後の事を考えてヘルメット着用、増毛剤使用、髪の毛引っ張るの禁止を義務付けよう。

 

 「レンバッハが!」

 

 ミリアムさんの声に僕達は振り向く。その画面には何が映っているんだ? 気になって覗きたいけど、頭皮、頭髪の心配もある。

 

 「何があったんですか!?」

 

 近寄らないから。聞くだけ。そんな目で見ないで、癖になりそうだよ。

 

 「レンバッハは戦列には戻れなかったわ。あの状態は……」

 

 大破したのか!? 何人が乗ってる!? 助けに行かないと!

 

 「ミリアムさん、救出に行かないと……」

 

 「待って! 戦列がエル字を組んだわ。集中砲火が始まる」

 

 城船の戦列はレンバッハの犠牲もあって巨人を引き込んだ。エル字の中に入った巨人は十字砲火で粉砕確定。

 

 「やっちまえ!」

 

 ジョシュアの叫びで放たれた数百発の砲弾は巨人を火炎と煙の中へ叩き落とす。出来ればもう少し穏便に。後で魔石を拾うんだからさ。

 

 格納庫にも響いてくる爆発の音は空気を震わせ伝わって来た。これで終わりだ。意外と呆気ない。ウィザードを待避させる必要もなかったか。

 

 それよりパーシーンに帰投したウィザードより、僕達が出撃させたウィザードの方がレンバッハへの救援は早い。

 

 「ミリアムさん……」

 

 「待って! まだ砲撃が続いてる……」

 

 そう言えば…… 二発目、三発目、四発目…… まだ続くか? ずいぶんと徹底的に撃つんだな。そうか! この砲撃で魔石を細かくして運びやすくするんだな。ヨーツンヘルムの連中も考えてやがる。

 

 「あっ!」

 

 終わった? 巨人が砕ける所でも見たのかな? あの大きさが壊れる所なんて迫力があるだろうね。滅びの美学みたいな。録画機能が無いのが残念だよ。

 

 この考えも一瞬のうちに消し去る。砲撃の音とは違う、何か巨大な塊が撃ち降ろされる衝撃音が数十と…… いや、音だけは止まらない。 ……数百!?

 

 「何が見えたんですか!?」

 

 僕も我慢できなくて押し倒す。いえ、覗き込む。今度は髪の毛を引かれる事も無く、ミリアムさんの顔に並べる様に画面を見た。

 

 見えたのは煙に巻かれた巨人と戦列に降り注いだであろう魔岩。このドローンの遠さからでも分かる。城船には巨大な岩が乗り、重量を越えた城船の脚部は力を無くして崩れ始めていた。

 

 「戦闘準備! イエローチームを乗せたキャリア急げ!」

 

 ミリアムさんの声にキャリアは我先に出撃した。残された僕達は急いで整備控え室に向かった。

 

 「これはヤバいぜ」

 

 控え室に並ぶディスプレイには破壊された城船が映し出され、乗員の安否より僕達がこんな目に合うのではないかと不安にさせた。

 

 「あの巨人、何をやってるんだ? 動いてないぞ」

 

 あれだけの砲撃を喰らって簡単に動ける筈が無い。今がチャンスだ。シルバー・クリスタル自慢の四十五口径十八インチ二連装大砲を喰らわせろ!

 

 ……どうした!? 撃て! 撃て! ヨーツンヘルム事、撃ってしまえ! 今撃てば、さすがに他の城船にも当たり兼ねない。だけどチャンスなのに! ヨーツンヘルムなら気にしなくてもいいのに!

 

 巨人の動きは無い。あるのは城船から立ち上る煙のみ。もしかして死んじゃったかな? 最後の力を振り絞って魔岩を出したのか? それなら救援に向かった方がいい。

 

 「ミリアムさん。救援はどうしますか?」

 

 「待って……」

 

 恋に悩むお年頃でも無いだろう。ここは何も考えず僕の胸に飛び込んで来ればいいのに。恥ずかしがりやさんかな? それなら僕も一緒にディスプレイで巨人観戦するよ。

 

 静かなる巨人。煙が立ち上る城船。煙が引き寄せられる。巨人に向かって。

 

 「あれ…… 魔石を取ってるんじゃないですか……」

 

 各城船から吸い寄せられる煙と共に城船に保管してある魔石も巨人に向かって行った。まるで掃除機で吸い取っている様だ。吸引力は最後までかわらないのか。

 

 「力を取り戻しているのかしら……」

 

 一隻の城船でもかなりの量の魔石を保管している。それを簡単に持って行きやがって。どれだけ集めるのに大変か分かっているのか!? 鉱山労働者の苦労を知っているのか!?

 

 「殺るなら今です! 力を取り戻す前に! ラウラ親方に進言して下さい!」

 

 「ラウラも見えているはずだわ。周りを見なさい。他の城船がいるわ」

 

 だから、ヨーツンヘルムは気にするなって! 巨人もあれだけの砲撃を喰らっても平気だなんて、自慢の主砲も心配になってきた。

 

 「動くわ……」

 

 動いたのはシルバー・クリスタル。船首を巨人に向けたまま、左手の方に動き出す。きっと巨人がダリダルアの街に向かった時、他の城船に当たらないよう射界を取る為だ。

 

 それだけに、今の城船は見捨てる事になる。ヨーツンヘルムはいいとしても、他の城船で助けを待っている人もいるだろう。それを捨ててでも勝負に出るのか?

 

 魔石を漁る巨人を先頭に「く」の字の陣を引き、僕達は待ち構えた。このまま巨人が僕達の方に向かって来たとしても、ダリダルアの街に進んだとしても、主砲の先には敵はしかいない。

 

 一つだけ気がかりなのは巨人に対して横列に向いていない事。これでは第三砲塔から狙えない。第一、第二だけで撃ち込むのか? それとも最初から……

 

 「来た! 整備班、いつでもダメコンに動ける様に!」

 

 「こっちですか!?」

 

 「いえ…… 街に向かってる様に見えるわ」

 

 こっちは無視か。ダリダルアの街に何故行くんだ? 他の城船より、ダリダルアの街より格下に見てるのか? 今に驚け! うちの貫通弾は一味違うぜ!

 

 「標準砲、撃った!」

 

 か細い線を引いて飛ぶ標準弾。これで次は当てられる。二回の大きな音と共にディスプレイには巨人が炎に包まれる姿が見えた。炸裂弾を撃ったのか? 貫通弾じゃなくて? 続いて二回の砲音が轟き、巨人が傾き倒れ始めた。

 

 「やったぜ!」

 

 ジョシュアの喜びの声も沸き上がる歓声も、僕とミリアムさんには届いていなかった。四発の炸裂弾で終わり? そんな簡単に終わるのか?

 

 「慎重ね……」

 

 「何がですか?」

 

 「ラウラよ。初めの一撃は動きを止めるためよ、きっと……」

 

 だから炸裂弾だったのか!? あれは貫通弾と違って表面に威力を発揮する。巨人の受けた衝撃は計り知れないものだろう。

 

 「標準砲、撃ったわ」

 

 次が本番か! 出来れば腕に当てて欲しい。あの腕が全部魔石なら、城船一隻買える。後で回収しやすい様にバラバラにしたっていいんだぜ!

 

 先ほどとは少し違う重い砲撃音が整備室をも震わす。行け! 行け! これで大金持ちだ! 魔石の回収は速いもの勝ちだ!

 

 立ち上がろうとしていた巨人に貫通弾が突き刺さって爆発した。見た目は炸裂弾より地味だが破壊力は桁違い……

 

 今…… 少し変だったような…… 炸裂弾は当たって爆発する。貫通弾は突き刺さってから爆発するのに、当たってすぐに爆発しなかったか?

 

 気のせい? 目のせい? 老眼のせい? 次に撃ち込まれた貫通弾であろう砲弾も爆発は少なく、巨人の表面で爆発したような……

 

 「ミリアムさん…… 当たりました…… よね……」

 

 「当たったわ。でも……」

 

 でも、貫通はしていない!? そんな丈夫に育てた覚えは無い! 何を食べたら貫通弾を防げるんだ!? 防弾チョッキでも着てるのか!?

 

 各なる上は最後の手段。三十六か七の計、逃げよう。貫通弾が効かない相手にどう戦えばいい。少なくともこの世界で一番の破壊力がある砲弾なのに!

 

 「動き始めたわ」

 

 城船が動く、巨人に向かって。そっちじゃない! 転進、または戦略的撤退、どっちでもいいが進む方向はそっちじゃない!

 

 僕の想いはラウラ親方には届かず、またもや二門の砲塔が炎を吹き上げる。今度は炸裂弾! よろめく巨人。貫通弾より炸裂弾の方が効果があるのか!? 効果があるならどんどん撃て!

 

 接近する巨人とシルバー・クリスタル。今頃、砲身に肉を置いたら、バーベキューパーティーが出来るくらい熱くなってるだろう。炸裂弾ばかりだが、もう何発撃った?

 

 「全員! 対ショック姿勢!」

 

 いくつもの炸裂弾を受けた巨人の側で光る物が。その輝きを失わずシルバー・クリスタルに向かって来た。バカめ! こっちには防御システムがあるんだ!

 

 天才土系魔導師と錬金術の技術が組合わさった、対砲弾用サンドウォール。一トンもの重量の魔岩さえ防いだ自慢の一品だ。

 

 二重に展開されたサンドウォール。それを無かったかの様に貫通する魔岩。あっさり砕けて城船に突き刺さった。

 

 揺れる城船。ここはベーリング海の蟹取り漁船か!? 倒れるミリアムさんをキャッチして、僕はテーブルの足に頭を打った。

 

 「大丈夫!?」

 

 いえ、星が見えます。綺麗な満点の星が…… ほら、流れ星も……

 

 「しっかりしなさい!」

 

 流れ星はミリアムさんのビンタだったようだ。一応、頭を打ったのだから頭部に衝撃は加えないで欲しい。これ以上、頭が悪くなったら責任取って結婚して下さい。

 

 「大丈夫…… 大丈夫です!」

 

 鳴り止まない耳鳴りは、ミリアムさんの往復ビンタのせいか…… またしても揺れる城船に今度は僕の方からミリアムさんに覆い被さった。

 

 良し! 今度は僕がビンタを喰らわせる番だな。覚悟しろよ! 握力は四百もないけれど普段鍛えた上腕二頭筋が猛威を振るうぜ! 僕はミリアムさんを抱き寄せた。

 

 「何をしようとするの?」

 

 「えっと…… 眠り姫には王子のキスかと思って……」

 

 後、十センチまで迫れたのに気が付くなんて。神様、不公平です。人は生まれながらに不公平らしいが、今日の僕はトコトンついてないらしい。

 

 「ミカエル! てめぇの腐れレールガンが撃てねぇぞ! 行って直して来い!」

 

 抱き合う二人を引き裂く全艦放送に、今日僕は死ぬかも知れないと思った。どうせ、死ぬならその前に……

 

 「ラウラが呼んでるわ。急ぎなさい」

 

 僕の墓標には「死ぬ前にキスも出来なかった男」と彫られるのだろう。いいさ…… 僕は城船の錬金術師なんだから。

 

 「七班! レールガンに行くぞ!」

 

 貫通弾は効かなくてもレールガンなら。早く撃って木っ端微塵にして売りさばいてやる。その後で続きをしましょ。

 

 

 

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