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第三十九話


 翼よ、あれがパリの灯だ。

 

 リンドバーグが大西洋を横断した時に言った言葉らしい。僕の灯火は目に来た様で目の前がチカチカ灯っていた。

 

 何とかローラが作ったお弁当を食べ終わり、七転八倒して城船の船首から飛び降りたい衝動を抑える事に成功した代償だった。

 

 サラはローラの作った激辛弁当を普通に食べ、何食わぬ顔でお茶を飲んでいた。二人にとっては普通の食事なのだろう、僕には無理みたいだ。今なら砂糖を敷き詰めたプールにダイブしたい気分だ。

 

 「ご馳走さまでした。少し横になるね」

 

 食事の後のシエスタ。睡眠を取る事で午後への鋭気を養うのは以外と思えるが実用的だ。僕はレールガンの砲身に頭を突っ込み、このまま辛さを撃ち抜いて欲しいと思った。


 「あれ?」

 

 思わず声に出してしまったが、レールガンが打ち出されなかったからでは無い。レールガンの砲身の内側が見た目にも酷い有り様だった。

 

 レールガンの弾は二発。まだ一発しか撃ってないのに砲身の中は焼け爛れ、ハロウィンの渋谷の街の様な惨状だった。

 

 「「どうしました?」」

 

 それは僕のお腹の具合を聞いたものじゃ無いだろう。具合だったら砲身も僕のお腹もそうは変わらないんだよ。

 

 「砲身が思ったより悪いね。これは無理っぽいよ。解析するけど、二人は休んでていいよ」

 

 「「見てもいいですか?」」

 

 「見てもいいけど、休憩も大事だよ」

 

 「班長は休憩を取らないんでは?」

 

 「……うん」

 

 「それなら私達も」


 上司たるもの率先して働かなければいけないが、部下の休憩を邪魔するのは良くない。でも、自分で作っただけに気になる。予想を遥かに越える状況に、我が子が病気になった親の気分だ。

 

 「それなら、ほどよく、休みながらね」

 

 「「はい」」

 

 レールガンの砲身は無駄に大きい。これには訳があって大きいのだが、ラウラ親方に言わせると「使えなかったら捨てる」と言わせた。

 

 全力を出しても二十分はかかる大きさ。今の腹具合なら三十分は欲しいかな。僕は途中トイレ休憩を入れて解析してみた。

 

 結果として赤い○○○が出た。砲身の結果より腹具合の方がビックリだ。生まれて初めて赤い○○○が、ドバッと内臓まで吐き出す様に出たのは死を予感させた。

 

 砲身の解析結果は損傷率四十パーセント。もう一発、撃てるかどうかだ。撃てるだろうが、撃てば砲身が融解する。

 

 今の状態で復元しても、撃てば復元率は六十を下回る。新規に強度を上げ、適切な処置には時間とお金と莫大な魔力が必要になってきて、莫大な魔力は僕の自前になる事は必定なんだろうな。

 

 「「どうですか?」」

 

 「良くないね。これは僕の一存では決められないよ。ラウラ親方に報告して来る。二人は砲弾の解析をしておいて」

 

 僕はラウラ親方のいる事務所に有線連絡網、つまり電話をかけた。

 

 「あたいだ!」

 

 「ミカエル・シンです。実は……」

 

 切りやがった。報告・連絡・相談の報告をする前に名前の段階で電話を切りやがった。全く、いい上司を持って幸せだよ。僕はもう一度、電話連絡をして相手が電話を取ったのは三十回も鳴らしてからだった。

 

 「ビーンです。ミカエルかしら?」

 

 「ミカエルです。親方に電話したんですけど……」

 

 「ミカエルの名前を聞いて切ったそうよ。ミカエルの報告は厄介事だって」

 

 ひでぇ上司もいるモンだ。僕の報告がいつ厄介事になったんだよ。でも、今回の報告は厄介事ですけどね。

 

 「すいません。厄介事です。実はレールガンが……」

 

 僕はミリアムさんにレールガンの状況を説明をした。次に撃つのは危険な事。復元より新規に作り直した方がいい事だ。魔力が必要な時には他の錬金術師にも手伝ってもらいたい。

 

 「蓄電変換器と制御装置も解析して、もう一度報告して下さい。その時は直接報告をして下さい」

 

 そうだった。制御装置は大丈夫だとしても蓄電変換器の方は問題がありそうだ。魔力調整の装置を見るのは僕も苦手なんだよね。

 

 制御装置を先に解析をすれば、損傷率は無かった。当分、使い込んでも復元で問題がないだろう。問題があったのは、やはり蓄電変換器の方だった。

 

 損傷率で三十パーセント。どこで、どんな雷系の魔力が流れたかは、もっと詳しく調べないといけないが、これでは使い物にならない。

 

 一回、撃つだけでこれだけの手間がかかるなんて、レールガンは失敗作かもしれない。砲身を新しく作りたくなる。

 

 「報告に行ってくるね。砲弾の方をよろしく」

 

 僕は後の事は二人に任せ、船首のレールガンから中央近くにあるラウラ親方の部屋まで、次の設計を考えながら歩いた。

 

 

 

 「直せ!」

 

 お疲れさま。ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た・し。そんな言葉までは期待してないが、せめて報告を聞いてから答えて欲しい。

 

 「直しても、また一発撃てば同じ事ですよ。砲身は強度を上げて、変換器は回路の見直しした方がいいですよ」

 

 「無理だな……」

 

 「聞くまでも無いですが、一応聞いてもいいですか?」

 

 「言え!」

 

 「なぜ新規に作らないんです?」

 

 「金が無い。タマゴ事件からお前が湯水の様に金を使っちまったからな。それに今回の公爵の件でも被害が多い。こっちにばかり金を使ってるって突き上げられてるんだ」

 

 「でも城船の整備や戦力の補充は急務かと……」

 

 「それもそうだが、上物がボロボロだろ。魔導師の宿舎も壊れたまま、城船の城さえ直せて無いんだぞ」

 

 「お金は偉い人が何とかしてくれないと……」

 

 「した結果、これ以上は出せないんだよ」

 

 「一発しか撃てませんよ。撃ったら同じ事の繰り返しに……」

 

 「レールガンを撃つ事なんて、そうはねぇよ。お前が作った主砲で城船相手には充分だ」

 

 「分かりました。復元で錬金します。それで……」

 

 「まだ、何かあるのか?」

 

 「手伝いの方は……」

 

 「ミカエルよ。あたいはお前が出来る男だと思ってるぜ」

 

 「限界と言う言葉は聞いた事はありませんか? 働き過ぎとか過労死とか?」

 

 「聞いた事がねぇな。頑張れ! 無限の可能性を持つ男よ!」

 

 無限の可能性を持つ男はこれより二日間に渡ってレールガンの復元に勤しんだ。冷たい鉄板の上で寝る事も冷えたご飯を食べる事も異に返さず。

 

 

 

 「「おはようございます、班長。今日もここで寝ていたんですか?」」

 

 「おはよう。後、少しで終わる所だったんだけど寝落ちしちゃったよ」

 

 「「これだけのを、もう終わるんですか!?」」

 

 「後、一時間もあれば終わるよ。歳を取ると徹夜は堪えるね」

 

 「「すみません。手伝えなくて……」」

 

 「いいよ、いいよ。整備の仕事の後でやってるんでしょ。適正を上げるの」

 

 「「はい。まだ魔導書を読んでる所までですけど」」

 

 「えっ!? 魔導書って借りれるの? 持ち出しても大丈夫なの?」

 

 「大丈夫…… みたいです。ラウラ親方が少しばかり強引に……」

 

 無断で借りたか、盗んだかカツアゲでもしたのか? 魔導書って見るのにも規制があるのに借りるなんて出来るのかな? まぁ、特級錬金術師の権限だと思っておこう。違う考えはヤバい気がする。

 

 「そう言えば、二人の属性ってなに? 聞いた事は無いよね」

 

 「私は風系です」

 

 「私は雷系です」

 

 「双子でも系統は違うんだね。サラが風系…… ローラがランド・オクトパスに拐われ時、使ったのがそれかな?」

 

 「はい。風に乗る外の音を聞きました。あの時は必死だったから出来たんですけど、今は…… あまり」

 

 「一度、出来たんだから魔導書を読んでコツを掴めば出来る様になるかもね。ローラは雷系なんだ。ラウラ親方と一緒だね」

 

 「はい。親方には個人的にも教わってます」

 

 そんな事になってたんだ。ラウラ親方もいい所がある。同じ錬金術師で雷系の属性持ち、見習うなら丁度いい先生だ。性格以外を見習って欲しい。

 

 「ローラにはレールガンでこれからも手伝ってもらうかもしれないね。なにせ、雷系なんて珍しいから」

 

 「手伝えるよう頑張ります」

 

 僕に出来る事は錬金術師としての立場で教えられる事しか無いが、二人が専門の属性を伸ばし、魔導師として一人前になれた時には魔導師と錬金術師の関係も少しは改善がされるのかもしれない。

 

 そんな期待を胸に僕はレールガンに手を付けようとすると、全艦放送が響き渡った。

 

 「各員、第三戦闘体制。繰り返す。各員、第三戦闘体制」

 

 「……」

 

 「「第三戦闘体制って何ですか!?」」

 

 第三戦闘体制は滅多にあるものじゃない。いつも、いきなり襲われる方が多いから僕も城船に乗ってから第三を聞くのは数えるくらいだ。

 

 「第三は、「これから戦闘域に移動するから、準備をするように」って事だね。今、着けている整備道具やヘルメットは常に着けているように。それと行動と食事とお風呂の時間に制限がかかるからね」

 

 「部屋には戻れないんですか?」

 

 「戻れなくなるよ。仮眠室で寝る事になるね。 ……女の子の場合はどうするんだろう。整備には男しかいないから……」

 

 気分は修学旅行の泊まりだが、女の子を部屋に招いた事は無い。招かれて行く途中で、先生に見付かった記憶はある。廊下で正座は冷たくて痛いんだよ。

 

 「ラウラ親方かビーン副頭に聞いてみて。召集がかかると思うから」

 

 「「はい。 ……でも、これから何処に行くのでしょう? 王国の真ん中で行く所なんて……」」

 

 確かにそうだ。王都には距離があるが、魔導都市を離れて三日。敵になる国の辺境まで行くのか? そんな話は聞いていないし…… あるとすれば、近くの領主の反乱かな? 面倒に巻き込まれるのは運命なのか?

 

 「すぐに分かると思うよ。それより工具を持ち出すから無くなさいようにね。スパナ一本でも見付かるまで探す事になるから」

 

 「「はい」」

 

 シルバー・クリスタル号がゆっくりと旋回するのを足元で感じた。

  

 

 

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