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第三十一話


 城船の往来にはルールがある。こんな巨大な物が街道に沿って歩き回るんだから、ルールがなければ税金を払ってくれている領民の皆さま方に迷惑をかけてしまう。

 

 そんな僕達シルバー・クリスタル号とヨーツンヘルム号は大砲の撃ち合いをして、双方の城船に少なからず被害を与え合った。

 

 事の発端は簡単だ。優先的に進める方と、避けなければいけない方がお互いに譲らなかっただけの事だ。それで大砲の撃ち合いなんて、まるでガキだね。

 

 航行ルールとしては優先なのが、王都や領都に行く「上り」が街道を進める。または、その領地に所属する城船が優先となるのだが、ヨーツンヘルム号は何を考えたのか道を譲らなかった。

 

 ヨーツンヘルム号は僕達の領地を横切り自分の領都に戻るから優先を訴えたが、僕達も自分の領都に戻る所だったので、優先は方向的にも領地的にも僕達にあった。

 

 無かったのは爵位の方だった。シルバー・クリスタル号の船長はケイリー・シアラー子爵。相手のヨーツンヘルム号のには名前は忘れたが伯爵様が乗っていた。

 

 確か、マクドシドニア辺境伯の血筋だったと思ったけど、子爵と伯爵なら伯爵の方に優先がなきにしもあらずや。

 

 その伯爵様が避けずに進めとヨーツンヘルム号を進撃し、そんな偉い人が乗っているなんて知らない僕達も優先権を持って進撃した。

 

 城船によるチキンレース、避けた方が負けの状況に貴族の威信が掛かっている。そして爆睡している僕には関係の無い事だった。

 

 激しく揺れる城船、二段ベッドから落ちる僕。部屋の中からでも星空が見えて、相部屋の錬金術師から「大丈夫か!?」と心配された。

 

 この頃は、四人の相部屋で二段ベッドの上で寝ていた。下にはジョシュアが寝ているはずなのに、心配する声も無い。

 

 そうだった。あいつは今日の合コンで女の子と抜け出したんだっけ。まだ帰って来てないって事は上手くいったんだな。後で飲み会の請求をしないと。

 

 鳴り響く警告音と共に全艦放送で叫ぶ当直。ボリュームを下げて叫んでくれ。星が輝き、雷が落ちているようだ。

 

 「い、今、何て言ってた!?」

 

 「第一戦闘配備だと! 左舷の大砲を撃てって!」

 

 この時の城船には僕が作った四十号口径の主砲は無かった。あるのは中世で使われている大砲くらいな物。そして今日は僕の配備場所は左舷大砲の弾を運ぶ係りだ。

 

 「行くぞ! 左舷十二砲台だ!」

 

 頭が揺れるくらいで、二日酔いの後だと思えば大丈夫なくらいだ。僕達、三人は十二砲台に向かって走った。

 

 途中で同じ整備班や砲術班の人と合流しながら別れ、やっと着いた時には五班中の三番目だった。待ち構えていたのは、十番砲台から十五砲台までの砲術長の「遅い! ノロマ!」の二言だった。

 

 砲台の発射手順は簡単だ。火薬の代わりに魔法で作った炸薬を先端から込め、続いて弾を押し込む。そして狙いを定めて炸薬に魔力を流せば弾が飛んでいく。

 

 弾を込めるのは怖いものだ。何せ魔力を帯びた炸薬に弾をギュッと押し込むのだから、何かあったら弾と共に飛び出すか、胸に大穴が空くかだからだ。

 

 「装弾完了!」

 

 次の弾を取りにさっさと逃げ出す。近くにいたら反動で跳ねる砲台に飛ばされてしまうし、鼓膜が破れかねない。

 

 耳を塞ぐ前に撃った砲弾の大迫力を鼓膜で捕らえ、身体が震える振動に震度五は感じた。これでもう耳は聞こえない。頼りになるのは手信号だけだ。

 

 砲術長が叫びながら手信号を使っていた。「トイレに行きたい」 ちょっと違うか? あれは次の砲撃をしろだったか?

 

 僕は急いで弾を取りに行く。ただの鉄の塊だから大砲そばで復元か作ればいいのだが、それは禁止されている。昔、昔、ある所で砲弾を作った者が炸薬にまで魔力を流し爆発したそうな。

 

 そんな危ない事をしなくても運べばいいんだ。重いけど。弾に手をかけた時、僕の背中をハンマーで殴られたかの様に飛ばされた。

 

 何事か!? またしても満天の星空の下で砲台の方を見れば十三砲が吹き飛んでいた。しかも、赤い砲弾が転がっている。あれは遅効性の魔法で爆発するヤツだ。

 

 僕達にも爆発する砲弾はあるが、高価な為に数は無いし撃つなら砲術長の許可がいる。これで二つの事が分かった。砲弾の行き先は城船で、相手はお金持ちだという事が。

 

 僕は奥のドアに向かって走った。僕より前には砲術長がいた。責任者なら最後まで残れと思いながら、二度目の衝撃が容赦なく襲って来た。

 

 どのくらい気を失っていたのか。出来ればこの戦闘が終わるまで気を失って、目覚めたらベッドの上がいいのだが、思いのほか早く目覚めてしまった。僕って目覚まし時計より早く起きるタイプだったね。

 

 「誰か!? 大丈夫か!?」

 

 僕の目の前には満天の星空どころか、ブラックホールが見えている。城船の側面に穴が空き、敵の城船が近くに見えるくらいの大きな穴が空いていた。

 

 十三と十四砲は跡形もなく、呻いている者やピクリともしない者が横たわり、僕も気を失った役を演じてねていたいが、今は人助けが先だ。

 

 「大丈夫か!?」

 

 伏せたまま動かず、役に成りきっている事を祈りつつ僕はそいつを仰向けに寝かせた。息はある。顔もある。手足も無事だか、腹からはぐっしょりと濡れ血にまみれていた。

 

 「頑張れ! すぐに運ぶ!」

 

 倒れているのは、こいつだけじゃない。他の人を助けないで運んでもいいのか? もっと重傷者がいるのかもしれない。こいつを運んでてもいいのか?

 

 迷い一秒、目の前の人を運び出すのが優先だろ。もし他にも重傷者がいたとしたら、それは見てないと言う事で……

 

 担ぐ、重い。背中が直ぐに濡れて来るのが分かる。誰か手を貸して欲しいが、みんなが自分の事で精一杯のようだ。

 

 「忙しそうだな」

 

 この野郎は遅くなったうえに美味しい所を持って行くのが上手いヤツだ。調子のいい、我が悪友。今は手伝え!

 

 「ジョシュ! 手伝え! 重傷者だ!」

 

 「あいよ」

 

 二人なら運べる。手と足に別れて怪我人を運び、僕達は治療室に向かった。そして治癒魔導師に任せて直ぐに砲台に向かった。

 

 途中で怪我人が運ばれているのとすれ違う。攻撃を喰らったのは僕達の砲台だけじゃないみたいだ。いったい何が原因でこうなった? 宣戦布告なら手紙かメールで送って欲しい。

 

 「戻ったか! 砲台につけ!」

 

 頭から流れる血を拭いながら指揮を取る砲台長。十一、十二、十五砲台はまだ生きてるが班員が少ない。僕達の十二砲塔で動けるのは僕とジョシュアだけか。

 

 「ジョシュ、炸薬持って来い! 弾は僕が運ぶから!」

 

 「撃つのもやっていいか?」

 

 「撃っちゃえ! 狙わなくても敵は目の前だ!」

 

 その後は、二回の砲撃を喰らわせ、三回目の時には、お互いの城船が離れ砲撃は終わった。僕達とヨーツンヘルム号の因縁はここから始まった。

 

 

 

 「そんな感じでヨーツンヘルム号とは仲が悪いんだよね」

 

 僕はサラとローラにお昼ご飯を食べながら事の経緯を話した。僕達の下船許可は五日目。それまでは城船の中で大人しく整備や補修をしていないとね。

 

 「「そうなんですか…… 下船できますかね?」」

 

 「大丈夫でしょ。ヨーツンヘルムは反対側のドックに停泊しているし、魔導都市は大きいから出会う事もないよ」

 

 「「そうだといいんですけど…… 班長は下船許可がおりたらどうするんですか?」」

 

 合コンします。昼間は服を買いに行って、流行りの髪型にしたいかな。城船に乗っていると流行に取り残されるんだよね。

 

 「のんびりかな。服ぐらい買うかも」

 

 「も、もし良かったら付き合ってもらえませんか?」

 

 えっ!? いきなり愛の告白? 他の整備班の人もいるのにサラって大胆なのね。もしかして肉食系? 嫌いじゃないよ、僕はベッドでは肉食系だから。

 

 「あっ…… えっと……」

 

 「あ、すみません。そんなつもりじゃなくて、ここの魔導書管理局に付き合って欲しいんです」

 

 魔導書管理局とは聞き慣れない。そんな部署があるなんて魔導師になるのって大変……

 

 「適性と関係があるの?」

 

 「はい。魔導都市には色々な魔導書の文献があるんです。でも、五級の錬金術師では見れる所に限界があって……」

 

 それで三級錬金術師である俺様の出番と言う訳か。僕で良かったら、良きに計らってあげよう。

 

 「僕でいいの? 一級の人に頼んであげようか? ラウラ親方なら特級だし、僕以上の物を見れるんじゃないかな」

 

 「いえ…… 他の錬金術師に頼むのは……」

 

 僕ならいいってこと? そうじゃないか…… やっぱり錬金術師から魔導師を目指す引け目を感じてるのかな? そんな事、気にしなくてもいいのに。

 

 「いいよ。朝から行けば適性能力が上げられるのが見付かるかもしれないね。そのくらい手伝うよ」

 

 「「ありがとうございます!」」

 

 流行りの髪型は諦めよう。服は今ある中で綺麗なのを選ぼう。ジョシュアに頼んだら奇抜な民族衣装とか選ぶから……

 

 

 

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