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第三十話


 「やっぱり下船はありそだ」

 

 僕達の目的地、魔導都市イグナフス。ハミルトン公爵の依頼により魔石の塊を運び込む。そしてジョシュアの話だと治療班の娘と合コンを約束している。

 

 「本当にあるのか? 塊を下ろして城船を修理したら本来の仕事に戻るんじゃないの? ……そこのスパナ取って」

 

 「ほらよ。下船はあると思うぜ。ランド・オクトパスの魔石もあるからな。臨時だから買い手を探さないと」

 

 「だけど魔導都市って言われるくらいだろ。買い手なら腐るほどいるんじゃない。……十七のスパナも」

 

 「買い手はいるだろうけど、手続きに時間がかかるだろ。一日あれば充分だ」

 

 一日もあるだろうか。初日には魔石の塊の搬入の話が出てるのは知ってるけど、その後は未定だとラウラ親方が言っていた。

 

 きっと修理に掛かりきりになって遊ぶ暇なんて無いかもしれない。今度は安全に作業が出来るのは嬉しいけどね。

 

 ランド・オクトパスの襲撃いらい、僕達は平穏で忙しい作業の毎日だった。魔石の塊の重量が城船の脚に与える負担は大きく、直したと思っても次に点検すれば復元をさせられる様な毎日だった。

 

 サプライズパーティーもミリアムさんの乱入により清く正しい飲み会に変わり、少し惜しい気もしたけれど、治療班の合コンが終わってから考えてもいいだろう。

 

 「合コンは期待してるぜ、ミラージュ・ナイト」

 

 格好いい呼び名だけど、誰がナイトやねん? 僕は爵位なんて持ってないし、ミラージュってどういう事だ?

 

 「誰がミラージュ・・ナイトなの?」

 

 「お前以外に誰がいるんだよミカエル君。おかげで話題性は抜群だ」

 

 この城船にミカエル・シンと言う人が僕以外にもいるみたいだ。ナイトと言われる様な人じゃないし、呼ばれるなら整備王と呼ばれたい。

 

 「なんの話題?」

 

 「分かっていないのか!? お前がローラを整備用ウィザードで助け出したろ。霧の中を駆け抜ける騎士。ミラージュ・ナイトとはミカエル・シン様だよ」

 

 「はぁ? ジョシュは見てたの? あの土蛸との一戦を」

 

 「見てたぜ。凄かったなぁ。整備用ウィザードでもあれだけの事が出来るんだから。俺達、整備班の誇りだぜ」

 

 「見てないで、もう少し早く助けに来るとかは……」

 

 「危ないだろ。刃物を持った暴れるウィザードの側に行くなんて」

 

 この野郎は…… しかし、無事だったからいいか。確かに戦闘の直中に入って行くのは危険だからね。

 

 「もしかして「霧」だからミラージュ?」

 

 「そう! 霧の中に立ち、ランド・オクトパスを倒した勇者! ミカエル・シンはミラージュ・ナイトとして抱腹絶倒、饗膳同地、阿鼻叫喚!」

 

 なんだか凄い事になっているみたいだ。ナイトと言われて悪い気はしないけど、それほどの者じゃないんだけどね…… あれ?

 

 「これって話したの? 整備用ウィザードで戦ったこと……」

 

 「当たり前だろ。治療班の女の子に大ウケだったよ。「是非、会ってみたいわ」なんて言われちゃって、今度の合コンは盛り上がること間違いなし!」

 

 このバカ…… 戦争拡大に手を貸してるって事が分からないのか!? 作業用ウィザードで戦った事は知られたらいけないんだよ!

 

 「ラ、ラウラ親方から箝口令とか聞かなかった?」

 

 「なんだそりゃ。合コンの前に箝口令もねぇだろ。俺達は整備班だぜ。使える話題は一つの残らず使わないとな」

 

 規律や規則、戦争の引き金になる話しも合コンの前には無に等しいそうだ…… いいのか、それで!?

 

 「あまり話さない方がいいよ。ラウラ親方が怒るに決まってる」

 

  「そうかぁ? この前、親方と飲んだ時には楽しそうに話してたぜ。俺より詳しく魔力の流れとか知っていたし、「見習えバカヤロー!」って言ってたし」

 

 部下が部下なら、上司も上司だ。よほどウィザードで戦った事が嬉しかったのかな。錬金術師は魔導師から下に見られているし、見直されたい気持ちは分かる。

 

 「魔力の流れや放出は見習ってくれていいけど、戦闘の事はあんまり話すなよ」

 

 「魔力調整はクソだって言ってたぞ」

 

 余計なお世話だ! 苦手なんだよ、繊細な仕事は。だから設計図を覚えるんじゃなくて、魔力の流れを覚えているんだから。細かい文字は見辛い、老眼かな?

 

 「誰にだって苦手はあるの! 今は練習中!」

 

 「お前、二級を受ける気はあるのか? 魔力調整は必須だぞ」

 

  「試験までには何とかするさ。いざとなったら魔力を流しまくって合格してみせる」

 

  「バカ力は工具使いにとっておけよ。……七番貸して」

 

 「七番? それは七回死ぬってフラグか? ジョシュア君にミカエル君」

 

 見上げると巨乳。いえ、見上げると鬼のラウラ親方が……

 

 「 無駄話している暇があったら、手を動かせ魔力を使え。遊んでると下船させねぇぞ!」

 

 おっと、本当に下船許可が降りるのか? 荷物運びの下船は嫌だよ。

 

 「下船許可って降りるんですか?」

 

 「ああ、イグナフスには一週間くらい滞在予定だからな。頑張ってるヤツにはご褒美をやらないと…… お前達はどっちだ?」

 

 「もちろん頑張ってる方ですよ親方。俺達の仕事ぶりを見てください」

 

 「やっぱり頑張ってるか、ジョシュア君。それなら君達には長脚の整備をもう一本、頼んじゃおうかしら」

 

 頬に手を当て、しおらしく考えてるラウラ親方。ジョシュアの野郎は余計な事を言いやがって。

 

 「えっ…… 頑張ります……」

 

 「だろうな! 頑張れ若人! 労働の汗は君に輝く!」

 

 ジョシュアの余計な一言で仕事を増やされ、六班と七班は残業になったが、残業代は出なかった……

 

 

 

  「着いたな、イグナフス」

 

 長かった無理難題の旅路も魔導都市イグナフスに着いて終わりだ。後は魔石の塊を降ろして、こちらの錬金術師に任すだけだ。

 

 「ラウラ親方、降ろす時には風系魔導師の方が手伝ってくれるんでしょうか?」

 

 「手はずは整ってるから大丈夫だ。もうお前の魔力は脚の整備に回してくれ」

 

 ありがたい話だ。もう公爵のご令嬢のシャノンちゃんに僕の魔力を流さなくてもいいからね。セシリーさんはどうしてるかな? あれから会ってないし、怪我が治っていればいいけど。

 

 「僕達は見ているだけと……」

 

 「そうだな。足場の管理くらいで、見ていれば終わる仕事だ。魔導師に任せておけば大丈夫だ」

 

 仕事はラウラ親方の言う事とは少しばかり違った。シルバー・クリスタル号から魔石の塊を運ぶ為に集められた四十人からなら風系魔導師が、食い込んだ床から無理やり引き剥がす風魔法で台風の中でリポートをする気分だった。

 

 引き抜き、倉庫から出した所で風系魔導師の役目は終わり、次は土系魔導師の巨大なゴーレムが車輪の付いた台車を引く姿は、この世界は魔法があれば何でも有りと僕はそう思った。

 

 「整備班、集合!」

 

 風系魔導師の容赦の無い風がもたらす被害を片付け、ラウラ親方の声が掛かったのは夕時になってからだった。みんなも期待しているだろう下船許可。仕事以外で降りれる自由時間。僕とジョシュアにとっては合コンの時間だ。

 

 「明日から下船許可を出す。イグナフスでの滞在は一週間。二日目は一班で三日目は二班だ。四日目は三班、五日目は四、五班で六日目は六、七、八班だ。ハメを外すなよ」

 

 「おぉぉ!」

 

 僕もみんなと歓声を上げる。久しぶりの下船で合コン付き。ジョシュアと同じ日に下船許可が下りたのは大きい。これで治療班の娘と楽しい一時…… いや、オールで楽しい時を……

 

 「下船するヤツ。この魔導都市の反対側だが、ノンバイン・マクドシドニア辺境伯の城船が停船している。問題を起こすなよ!」

 

 この航海は最後まで呪われているな。よりにも寄ってマクドシドニア辺境伯の城船が来ているなんて。あの時、殺り合ったのは辺境伯の何て言う城船だったかな。

 

 「ヨーツンヘルム号ですか?」

 

 静まり返った整備班の中で、やっぱり声を出してくれるジョシュアには感謝だね。みんなが聞きたがっている事を聞いてくれる。

 

 「そうだ。どこの城船だとか構わねぇ。問題を起こすな!」

 

 やっぱりヨーツンヘルムか!? あの城船とは往来で殺り合った事があるんだ。あの時は何が何だか分からないうちに撃ち合ったから。

 

 「「班長、ヨーツンヘルム号と問題でもあったんですか?」」

 

 復帰したローラとサラ。相変わらずブレずに合わせて話してくれる。少しズレていたら、立体音響になるのかな?

 

 「後で話すよ。いろいろあったんだ……」

 

 ヨーツンヘルム号とは城船の往来で大砲を撃ち合った事がある。僕が四級に成りたての頃だったから、サラもローラも知らない事だ。あの時は大変だった。そんな苦労話は三人きりでベッドの中で話したいものだ。

 

 

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