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第三話


 ジェラード・ジェイク・ハミルトン公爵。またもや僕達を厄介事に巻き込む張本人。悪気が無いだけに迷惑で仕方がない。

 

 大人しく国王をしていれば良かったものを、王位を弟のウィルフレッド・セドリック・マクレナン様に譲り、自身はハミルトン家を興し古びた城船に乗り込んで「さぁ、冒険の世界に飛び出そう」と言って城を飛び出した。

 

 世界の果てまで飛び出してくれれば良かったものを、広大な王国内で西へ東へと飛び回り、ただの遊びでは無い事は公爵の功績が教えてくれた。

 

 公爵は各地で魔石の採掘場所を探り当て、古代の都市の跡を見付けたり魔物の討伐など国王をやるより大きな利益を王国に与えてくれた。僕達の領内でも見付けてくれて、そこには小さな街が出来るくらい人が集まり賑わいを見せている。

 

 城船の役割は各地で取れる魔石の運搬が目的だ。各地を周り魔石を回収し、分配したり領主様の元や王都にも送ったりする。高価で生活の必需品となった魔石を狙うのは野盗だけでは無く、一番の心配事は魔物の襲撃だった。

 

 それを防ぐ為に城船が出来た訳らしいが、各貴族間での見栄もあるのだろう。船に城を乗せているのが良い証拠だ。

 

 僕達の城船、シルバー・クリスタル号も半年前は美しい建造物が並び、それに伴う彫刻や華美な施設があったが、今では継ぎはぎだらけのボロ船に成り果てている。

 

 その原因を作ったハミルトン公爵。僕達の中では「タマゴ事件」として語り尽くせぬ思いが、酒の量を増やしてくれた。

 

 タマゴ事件。これもハミルトン公爵からの救援要請からなり、僕達は「公爵様からの救援だ!」と、急いで駆け付けた。

 

 ハミルトン公爵は、市民から人気がある人で僕もタマゴ事件の前まではファンの一人だった。だからこそ、ハミルトン公爵のお声がかかった時には嬉しかった。

 

 「これを運んでもらいたい」

 

 僕達が案内された洞窟の中では、抱えるほど大きな石の卵が並び、その数は五百を越えていた。それを全て魔導都市まで運んで研究するので手を貸して欲しいとの事だった。

 

 ただの石の塊にしか見えない物だが、ハミルトン公爵が言うに「これはガーゴイルのタマゴだ」そうだ。確かにガーゴイルは石で出来ていると聞くが、もっとゴーレム的な人工物だと思っていた。

 

 運ぶのは良いのだが、ガーゴイルがタマゴから孵化してもらうのは困る。そんな杞憂も「それには心配は及ばない。それに孵った所で最初に見た人間を親だと思うだろう」と根拠の無い言葉を公爵の人柄から信用してしまった。確かに羽は生えているガーゴイルだが、どう見ても鳥には見えない。

 

 僕達は五百のタマゴを城船に運んだ。まさかタマゴとは言え魔物を魔石の倉庫に入れる訳にもいかず、ウィザードの格納庫や入りきらないタマゴは上部甲板に放置する感じで乗せた。

 

 公爵様が言われた通りタマゴは石の塊でしか無く、むしろウィザードの整備の邪魔になったり増えた重量で脚部に掛かる負担から整備作業の手間が多くなった。

 

 そして運搬から二日後の満月の夜、タマゴが孵った。そいつはガーゴイルなんて物では無く、ワイバーンだった。

 

 船内に響く戦闘配備。僕は相変わらず親方のお酒に付き合わされ起きてはいたものの、気が付いたのはワイバーンが僕達の部屋の窓越しに炎を吐き出す姿をスローモーションの様に見た時だった。

 

 僕は親方ともう一人お酒に付き合わされていた錬金術師を抱き上げ、脱兎の如く廊下まで逃げ出した。

 

 あの時ほど火事場の馬鹿力が発揮された記憶は無いが、二人を小脇に抱えての全力失踪は二十メートルも行かないくらいだった。

 

 「親方! 部屋の外を火を吹く何かが飛んでる!」

 

 他の部屋からは戦闘配備の放送で外に出れた者も入れば、炎だけがドアを破って吐き出される部屋もあった。

 

 「ラウラ親方! 戦闘配備だ! 起きてくれ!」

 

 揺さぶられる親方に合わせて揺れる胸に目をやっている余裕は少ししか無い。もう少し揺さぶりたいが起きるのが以外と早かった。

 

 「揺さぶるなバカたれ! 酔いが回るだろ!」

 

 頭を叩かれても揺さぶっていたい男心は隣に置いておいて、僕は分かる限りの少ない情報を親方に説明した。

 

 少し考えて決断を下す親方。もう酔ってる感じはしない。厳しい目で部屋を出て来た錬金術師達に指示を出す。厳しい目付きの奥底で何か楽しんでいるようにも感じるのが怖い。

 

 「野郎共、良く聞け!」

 

 混乱の中でも突き刺さる言葉に、僕達は直立不動で返す。親方はここにいる錬金術師を三つに分けた。一つはここで救助作業にあたる事。一つは魔物の狙いは魔石だろうから貯蔵庫を守る事。この二つにほとんどを振り分け、最後の一つは……

 

 「何で僕が親方と二人きりで格納庫なんですか!? 格納庫には魔導師が向かっているはずですよ! ハァ…… ハァ……」

 

 息が切れる。この船ってこんなに大きかったのか!? 僕は残って救助作業をしていたいよ。ウィザードの格納庫にはワイバーンのタマゴがかなり置いてある。もう生まれたて巣立ちしてくれ。

 

 「魔導師だけが格納庫に行ったってウィザードは動かねぇよ」

 

 「それなら、もっと多く連れて来た方が良かったんじゃないですか?」

 

 「それだと見付かる。可愛い部下を危険な所に連れて行けないだろ」

 

 「僕は可愛い部下の一人に入って無いんですか!?」

 

 「お前は「もっと可愛い部下」だ。気にせず走れ」

 

 酷い扱いに労働基準法に訴えたくなる。可愛いは…… まあ、いいけどさ。僕だって錬金術師の端くれだ。整備には自信があるけど、ワイバーンと戦うなんて出来っこない。どうやれば鉄パイプやレンチでワイバーンを倒せるのか?

 

 「安心しな。これでも属性持ちだ。雷系なら少しは出来る!」

 

 大きな胸を更に大きく反らして胸を叩く親方に、僕は見とれてしまうよ。出来る事なら叩く所は僕に任せて欲しかった。いや、叩きはしない。叩かないで……

 

 格納庫に入る人間用のドアまでワイバーンの事を心配よりも、僕の頭を駆け巡っていたのは違う事だった。

 

 

 

 「姉御も来てくれたか」

 

 別に無視されたって気にしないからね。僕と親方が危険を掻い潜って格納庫まで来たのに、掛ける言葉は親方にだけとは、錬金術師って魔導師から下に見られているのを実感するよ。

 

 白いローブに胸にある赤い刺繍。炎系の魔導師だ。名前は知らないけど、確か噴水広場で火ダルマにした人に似ている。それに土系魔導師のリリヤちゃん。昨日ぶり、僕に触れなくていいからね。

 

 「格納庫はどうなってる?」

 

 「入るに入れねぇ。ワイバーンが腐るほどいるし、孵化待ちのタマゴもいっぱいだ。ウィザードの魔石を喰らって壊されまくってるぜ!」

 

 ウィザードの動力源は魔力だ。普段からウィザードには魔力を発揮する魔石を背負っているから、魔物に狙われたんだろう。

 

 「整備用ウィザードに魔石は積んでない。魔力の補充はコイツがいるから大丈夫だ」

 

 僕を見る注目の眼差し。見つめられると恥ずかしくて目を背けたくなるが、どうやら僕もこの騒がしくワイバーンが叫んでいる格納庫に入るのが決定みたいだ。

 

 「ラウラ親方、僕はパイロット資格は持ってますが、ウィザードで戦った事なんて無いですよ」

 

 「戦うのは任せな。整備用ウィザードの空の魔石に魔力を注ぐ事をやってくれ。その後は囮になるから魔導師達のウィザードを直して魔力を注げ。魔石からのパイパスは全部千切って動力炉に直接魔力を注ぐんだ」

 

 簡単に言ってくれる。魔力を注ぐのも整備をするのも慣れた仕事で問題は無い。問題は暴れるワイバーンの中でやる事なんだよ。襲われたらどうする? 鉄パイプで反撃するのか!?

 

 「親方、一人で囮になるんですか!? 整備用ウィザードは二人乗りですよ! 誰かが魔力の調整をしないと!」

 

 「乗りながらやるさ。フィリスとリリヤはミカエルと一緒に着いて守ってやれ。行くぞ!」

 

 本当に男前な人だ。抱かれたくなるよ。いや、女だから抱きたいかな? 言ったら首の骨を折られそうだから言わないけど。僕は覚悟を決めてドアを潜って格納庫に入った。

 

  

 

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