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第二十九話


 愛する二人を引き離すなんてどうだろう。

 

 愛する二人じゃなかったら引き離しても構わないのだろう。

 

 僕とサラは愛し合ってはいない。だから引き裂かれた。僕の方が……

 

 姿が見えないと思っていたナターシャの蔦が僕の足元から伸びたと思ったら、僕だけに巻き付きサラは軽く退かされ、吊し上げられた。

 

 吊し上げられるくらい縛られるのって、結構痛いんですよね。その蔦は生き物の様に地面を裂きながらナターシャの方まで進み、それを掴み取ったナターシャは「帰ろう」の一言で城船まで運んでくれた。 ……掴んだままで。

 

 「てめぇ、ズルいぞ!」

 「独り占めは良くないです」

 「不潔ですぅ」

 

 と、後を追い掛けて来る三人の女神は競争するかの様に奪い合った。僕を…… ウィザードで…… ラグビーボールの気持ちが分かった……

 

 城船に着いてノーサイド。ゲームは終わった。お互いの健闘を称えユニホームを交換しよう。何故、僕のだけ脱がそうとする!? 交換だろ! お前達も脱げ!

 

 いや、脱がなくていい。ただ解放してくれ。リリヤ! 「不潔」とか言いながら、僕を脱がすのは止めて。 ……意外と肉食女子なの?

 

 「じゃれあって、楽しそうだなミカエル」

 

 ホイッスルでは止まらなくてもラウラ親方の一言で止まる四人の女神と半裸の僕。決して、じゃれあってる訳じゃないんだ。どちらかと言えば襲われてる?

 

 「作業用ウィザードを勝手に持ち出して…… ウィザードはどうした?」

 

 置いてきました。だって、もう使えないし、持ち帰る余裕なんて僕には無い! と、胸を張って言ってみたい。

 

 「……置いてきました」

 

 「あぁん!? 置いてきただと!? 誰か回収してこい! それと、そこで隠れてるジョシュア! イフトとサラ、ローラ。お前達はこっちだ、着いて来い!」

 

 僕達はラウラ親方の事務室に連行された。首根っこを抑えられ引きずられたのは僕だけだった。

 

 

 

 「それで…… どこから説明してくれるのかな……」

 

 今、僕は答えられない。脳が揺れて頭が働かないからだ。誰か他の人に説明を求む。出来れば問題の無いような説明を……

 

 僕達はラウラ親方の事務室に連れて来られ一列に並ばされた。もう、何をされるのか分かっていたから、僕は歯をくいしばっていた。

 

 ボクシングの解説者ならこう言うだろう。「これは危険な倒れ方をしましたね」と。ラウラ親方の右フックは僕のテンプルを捕らえ、僕は力無く座り込んだ。

 

 それでも僕は見た。ジョシュアは張り手で後ろの壁まで飛び、イフトにはボディーブローをかました筈がピクリともせず、サラには頭に軽いチョップを、ローラには無事で良かったとハグをしていた。

 

 僕だけ脳挫傷にもなる危険なパンチを喰らわしたラウラ親方の差別を、僕は国連に訴えたい。だけど、今はもう少し寝かせてくれ。

 

 「立て!」

 

 鬼かお前は!? オーガかお前は!? トロールだってもっと優しいと思うよ。僕はテン・カウントを聞く前に立ち上がる。僕はまだ戦えるとファイティング・ポーズをとった。

 

 「説明しろ!」

 

 「せ、せつまい、ひまふ……」

 

 ダメだ。立ち上がるだけで精一杯だ。ラウラ親方の巨乳がいつもより大きく見える。いや、四つに見える。

 

 「私が説明します」

 

 サラのゴングに助けてられた。僕は自分のコーナーに戻ろう。一分あれば復活出来る。出来れば一時間くらいのインターバルが欲しい。

 

 サラは事細かく説明をしてくれた。点検中にローラがランド・オクトパスに拐われた事。戦闘用ウィザードが出れないから作業用のウィザードで出撃した事。無理を承知で出撃し、ローラを救ってくれた僕達に感謝の涙を浮かべながら。


 「そういう事か…… 索敵も何をしていたんだかだな! あいつらにも活を入れないとな!」

 

 自分の握力、パンチ力を考えて活を入れて下さい。僕には充分入りました。いえ、魂が抜けそうになりました。

 

 「俺達って、やっぱり厳罰処分ですかね?」

 

 「作業用ウィザードの無断使用、破損、及び命令不服従。営倉入りは当然として錬金術師の資格剥奪、給与返上、ウィザードの弁済ぐらいだ」

 

 「そ、そんなに……」

 

 「だが、話を聞けば全ての責任はミカエルにあるな。城船外作業で注意を怠った。ローラを拐われなければ、こんな事は起きなかった。違うか? ミカエル」

 

 「ひょう…… そうです。責任は自分一人にありまふ」

 

 「覚悟の上だな」

 

 「はふ…… はい!」

 

 「よし! サラはローラを治療室に連れて行け。ジョシュアとイフトは壊したウィザードを直せ」

 

 「あ、あれは作り直した方が……」

 

 「二度! 二度同じ事を言わせるのか」

 

 「直ぐに直して来ます。行くぞ、イフト」

 

 「……」

 

  助け船は無く、僕はラウラ親方と一つの部屋に残された。この後、襲われるって事はないよね? 今なら簡単に襲われます。

 

 「さてと…… どうしたものか……」

 

 どうしますか? 脱ぎますか? 乱暴にしないで下さい。ラウラ親方は僕の方も見ずに、深く考えているようだった。僕は厳罰処分になるだろうけど、仕方がない。そのくらいの覚悟でやったんだから。 ……出来れば給与返上は勘弁して欲しい。

 

 「作業用ウィザードでランド・オクトパスと戦ったんだな」

 

 そうか!? タコ焼きが食べたいんだな! 土蛸と言ってもタコはタコだ。小麦はあるしけど鰹節が無い。マヨネーズは代用品で何とかするとして、やっぱりソースが決め手だよな。

 

 「はい。必死だったもので……」

 

 フィリスが焼いたタコなら取ってくればある。でも、先に焼いちゃったから二度焼くと硬くなるのかな? タコ焼きってタコの食感も大切だから。

 

 「その時の話を詳しく話してみな。サラの話しだけじゃな……」

 

 僕はタコ焼きについて話した…… 僕は作業用ウィザードでの戦闘について話した。特に魔力調整と魔力の流し方について詳しく話すと、ラウラ親方の顔が曇った。

 

 「この話はするな。他言無用だ。何故だか分かるか?」

 

 タコ焼きの鉄板を作るのに錬金術を使わないといけないから…… では、無さそうだ。作業用ウィザードで戦った話をしてはいけない理由…… シンちゃん、分からない。

 

 「何故でしょう」

 

 「作業用ウィザード、つまり錬金術師でも魔導師と同じように戦えるって事だ。この世界にどれくらいの錬金術師がいると思う? 魔導師の十倍以上いる者達がウィザードに乗って戦えると知ったらどうなる?」

 

 就職口が増えるかな? ウィザードに乗りたくて魔導師を目指す人がいるんだから、錬金術師でも乗って戦えるなら……

 

 「軍事バランスが崩れる?」

 

 「そうだ。今は、どの国も均衡の取れたバランスの上に平和が成り立っている。それがウィザードに乗れる者が増えたら……」

 

 嫌な世界になる。領土間で小さな争いはあるが、そこの領主同士の争い以上には発展していない。それが国と国どうしで争う事になったら、僕は逃げたい。

 

 「いつか分かる時が来ますよ」

 

 「いつか、だ。今にする必要はねぇだろ。そんな所だ……」

 

 僕はローラを助けたかっただけ。それが国どうしの争いに発展するなんて考えもしなかった。僕がやった事は間違いだったのだろうか。

 

 「あんまり気にするな。いつか、の話だ。ちょっと戦争がデカくなって死ぬヤツが多くなるだけの話だ。ハッハッハッ!」

 

 話は終わった。僕にはこれといった懲罰は無く、二級錬金術師になるまでトイレ掃除を言い渡されただけだった。

 

 魔物に襲われた小さな事件。僕のした事は人を一人助けたくらいだったけれど、違う見方をすれば大変な方向に進みそうだ。

 

 やった事は間違いでは無いと思うけど、僕の行為が引き金となって戦争が拡大するとかは嫌だ。この事はいつか知られるだろうし、誰かが教えるかもしれない。

 

 逃げる事を考えるより、前に進む事を考えよう。もちろん迂回路も入れてだ。壁があっても、馬鹿正直に乗り越えなくても横を通りこせばいい。

 

 進もう。どんな未来が待っているか分からないけど、進むしかないのが人生のキツイところだ。そして、たまには立ち止まって今ある自分を見つめ直そう。僕は自室のドアに三歩手前で立ち止まって考えてみた。

 

 「サプラ~イズ」

 

 ドアが炎をあげ廊下に突き当たり、追うように廊下を舐めた。後、一歩進んでいたら僕がタコ焼きの様に焼かれていただろう。

 

 「驚いたろ! 帰って来るのが遅いからサプライズに待ってたぜ。さっきの続きがまだだからな!」

 

 フィリスに導かれ、ドアを失った部屋の中には三人の魔導師が手招きをしていた。

 

 

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