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第二十七話


 「サラ! 上がるぞ! 急げ!」

 

 不穏な空気を感じたのか、サラは走ってハッチに向かって来た。その先に見たものは軟体生物が気持ち悪く城船の脚に絡み付く姿と、一匹の土蛸がローラを抱えて逃げる姿が。

 

 「ローラ!」

 

 「落ち着け! 今は上に行くんだ!」

 

 魔導師だったらファイヤーボールの一つでも撃ち込むのだろうが、錬金術師にそんな魔法は無い。今は長脚から離れて城船に乗り込む方が安全だ。

 

 「ローラ! ローラ!」

 

 今はダメだ。ローラの事が心配だろうが、僕達には何も出来ないんだよ。それにしても警報は何故鳴らない!? 索敵はどうした!?

 

 「悪いが行くぞ!」

 

 サラを抱えて地上数十メートルの梯子を片手で登るなんて馬鹿力は、二度とやりたくないし、二度は遠慮したい。暴れ、ローラを呼ぶ声を無視して僕は城船に上がった。

 

 「第一戦闘配備! 動けるウィザードは出撃しろ!」

 

 誰の声か分からないが、今頃になって響くサイレンと怒声。こっちはウィザードが守ってくれると思ってるから城船の外の作業もしていたんだろうが!

 

 「大丈夫か!?」

 

 「大丈夫じゃねえ! ローラが拐われた! ウィザードはどうなってる!?」

 

 ジョシュアに向かって叫んでも変わらぬ状況に僕はイラついた。僕の部下が目の前で拐われて何も出来なかったんだぞ!

 

 「ウィザードは発進していると思うけど、動けないのが多い。ローラは……」

 

 ランド・オクトパスは土に潜って獲物を待って捕まえる。捕まえたエサは巣穴に戻ってから食べるんだ。今ならまだ間に合う。

 

 「ウィザードをこっちに向かわせてくれ。方向は分かる」

 

 「無理だよ、ミカエル。第一戦闘配備だ。指揮権はラウラ親方にあるよ」

 

 「それなら連絡すればいい!」

 

 「無茶を言うなミカエル! 落ち着け!」

 

 城船の脚という脚に絡み付いていたランド・オクトパス。城船自体がヤバい時に一人の人間の為にウィザードを向かわせる事なんて出来ないのは分かってるよ! 分かっているけど!

 

 「ローラ…… ローラ……」

 

 力無くうずくまるサラ。もう彼女にはローラの行く末を想像してしまっているのだろう。錬金術師に想像力は必要だけど、俺が思う想像とは違う!

 

 「作業用ウィザードを出す。誰か魔力調整に、コ・パイに座ってくれ」

 

 沈黙が僕を迎えた。僕達は非戦闘員で戦う訓練なんて受けてない。みんな家族や想う人がいれば進んで手を上げられないのだろう。

 

 「ミカエル、無理だ。止めておけよ」

 

 作業用ウィザードの操縦なら自信がある。あると言っても物を運ぶとか効率的な運用とかで戦いなんてした事がない。ましてや魔力調整をしながら戦うなんて無茶を通り越して無謀だ。

 

 「……私が乗ります。私が乗ります!」

 

 良く言ってくれた。姉妹であるローラが心配で手を挙げてくれたのだろうが、これからやろうとしている事は上手くいっても処罰の対象になるんだよ。

 

 「いいのか? 待っていてもいいんだよ」

 

 「大丈夫です。私が乗ります!」

 

 これでローラを助けに行ける。ランド・オクトパスの巣穴は待ち伏せ地点より離れて作っているって聞いているし、急げば間に合う。

 

 「しょうがねぇなぁ。イフト、俺達も行こうか」

 

 「ああ……」

 

 ジョシュアの目線の先を見ると壁が…… いや、人か。二メートルを越える身長に見上げなければ目を合わせて話も出来ない。こんな人、整備班にいたっけ?

 

 「行ってくれるか?」

 

 「親友だろ。俺は魔力調整は苦手だが、イフトのヤツは体格に見合わず細かい事が得意なんだ。それで武器はどうする? 魔法なんて放てないぞ」

 

 作業用ウィザードには魔法を撃てる機巧なんて付いてない。それなら作ればいい。ここには材料なら沢山あるんだ。

 

 「任せろ。■■■■、錬金」

 

 積まれている鉄板と鉄パイプ。これがあれば構造が単純な鉄の盾と剣くらいなら作れる。少し不恰好な作りになってしまったが、防御力と切れ味だけは普通のより格段上のはずだ。

 

 「白兵戦かよ。せめてボウガンくらい作ってくれよな」

 

 「贅沢言うな。行くぞ!」

 

 「待て、待て。作業用のに魔石はまだ載せてないんだよ」

 

 「それなら自前の魔力で行く。ジョシュアは載せてからでいい!」

 

 「そうさせてもらうぜ。ミカエルほど魔力は持っちゃいないからな。行くぞ、イフト」

 

 「ああ……」

 

 無口な巨人イフトがジョシュアの後に続いて行だした。ドスン、ドスンと言う擬音が似合いそうだが、物音一つさせずに歩けるくらい器用なのだろうか。

 

 「サラ、こっちも行くぞ。魔力調整を頼む!」

 

 「はい!」

 

 まだ時間は経っていない。急げば間に合うはずだ。ローラを助け出して祝福のキスは僕のものだ。

 

 

 

 「サラ! サラ! 早い、飛んでる! 出力調整して!」

 

 「今、やってます!」

 

 戦闘用ウィザードは地上五メートルくらいまでを高速飛翔しながら移動が出来る。作業用ウィザードも飛ぶ事は出来るがあくまでも補助的なもので、どちらかと言えば「浮かぶ」が正しい。

 

 魔石の消費が激しいし、荷物を運ぶのには地面を歩く事を選ぶ。それが木の上を飛び、シートに押さえ付けられるくらいの加速なんて初めてだ。

 

 「足跡が分からない! 降りるぞ!」

 

 魔力を切るより速く、僕達は左膝の関節を壊しながら地面に叩き着いた。このくらいの破損など錬金術の復元を使えば簡単だ。

 

 「足跡を追う。出力への魔力調整は抑えて。あの速さだと木を避けれない」

 

 「班長も魔力を流すのを抑えて下さい。魔導炉の負担が大き過ぎます」

 

 僕も冷静では無いのか魔力を流しすぎているみたいだ。今の状況でそんな器用な事が出来たら苦労はしない。

 

 「余分な魔力は排出するか、魔導炉への流れを切って構わない」

 

 「分かりました。操縦どうぞ」

 

 木々の間を多少ぶつかりながらも、復元で直しながら足跡を追った。戦闘用ウィザードと同じくらいの高さを飛ぶなんて、作業用ウィザードで出来るとは思わなかった。抑えていると思った魔力も抑えていられないのか。

 

 五分ほどの高速飛翔で、追い付けると思っていた矢先に足跡を見失う。さっきまではあった足跡が消える? もしかして間違ったか? それとも……

 

 「班長! 上!」

 

 言葉に言われるまま、僕はウィザードを高速後退させた。こいつらランド・オクトパスは待ち伏せて獲物を取るんだ。

 

 目の前に落ちてきた土蛸の腕か足の一本に、ローラが苦しそうに握られていた。間に合った。しかもローラは生きてる。タコの足を切り落としてローラを取り返す!

 

 「ローラ!」

 

 「サラ、焦るな。ローラは生きてる。ウィザードの魔力を防御力主体に振り分けて。出力は抑え気味で、剣には魔力を流さなくていい」

 

 ここまで来たものの、いざとなるとウィザードの腕一本を動かすのさえ戸惑う。普通通りに動かせばいいのだけど、「普通」に戦闘は入っていない。

 

 「行くぞぉ!」

 

 ペダルを踏み込み、ウィザードの全力疾走。剣の間合いに入った所で、上段から振り下ろした剣はランド・オクトパスの腕をカスリもしないで避けられた。

 

 途端に左の盾に向かってくる土蛸の蹴り挙げた足は、重いウィザードを弾き飛ばすには充分な威力を身を持って教えてくれた。

 

 「うわわわっ!」

 「きゃー!」

 

 作業用のウィザードが転がるなんて、足のサスペンションはどうなってるんだ!? こんな不良品は現場じゃ使えねぇぞ!

 

 「サラ! 生きてるか!?」

 

 「生きてます! すみません、魔力調整をミスりました」

 

 作った人を疑ってゴメンなさい。魔力調整さえ上手く行けば今のは受けれたのか? それなら、まだ勝機はある。

 

 「来ます!」

 

 作業用ウィザードのコックピットはガラス張りだ。戦闘用と違って鉄板で覆われている訳じゃなく、前後に乗るタイプのヘリコプターに手足が付いたくらいの防御力。ただ、パイロットはチート持ちだぞ!

 

 調整を受けないほどの魔力を脚部に流し、土蛸の猛攻を避ける。脚部の負担は計り知れないが、逃げるので精一杯だ。

 

 「脚部の負担が大き過ぎます! もっと抑えて!」

 

 抑えろって言われても、それを調整するのがサラの仕事だ。力を抑えて戦う心の余裕なんて、コックピットの中で響く警告音がそうはさせなかった。

 

 「魔導炉、四百二十パーセント! 抑えないと爆発します!」

 

 四百なんて数字は聞いた事がない。普段なら魔石や魔力が勿体無いと八十パーセントくらいに抑えているのに。作ってくれた人、ありがとう。

 

 「必要以外は放出しろ! 防御に回せ! 盾がもたない!」

 

 五月蝿く鳴り響く警告音。帰ったらオーバーホールどころか、新調した方が早いかもしれない。僕は機体を錬金術で復元しながら、三人で帰る事を誓った。

 

 

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