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第十八話


 膝から崩れ落ちるミリアムさんを程々に、僕はウィザードのバックパックの交換場所に向かった。たいして消費していないのに、魔力なんて欲しがるからだ。

 

 交換場所に向かえば既に交換して再出撃するウィザードやバックパック待ち、破損した部位の補修待ちで足の踏み場も無いほどになっていた。

 

 この中に入って行くのは気が引ける。ウィザードに踏まれれば三型パワーアームで耐えられるか分からないし、蹴られたら城船まで空を飛ぶ自信がある。

 

 「こんな所で何をやってますかぁ~」

 

 上から覗き込む様に見られると頭皮が気になる。最近、疲れる事が多くて抜け毛が多くてハゲて来てるかもしれない。この世界の治癒魔法は毛根にも生命力を与えてくれるのだろうか。

 

 「作戦が一部変更になります。僕をあの真ん中に連れていってもらえますか」

 

 「いいですよ~」

 

 ウィザードの掌に乗った時、このまま石化されるのではないかとビクビクしたが、僕は無事に右往左往するウィザードを抜け、ポンッと真ん中に放り投げられた。

 

 リリヤちゃんにしては意外と扱いが雑だと思いながら、空中で前方宙返り二回半ひねりで着地を決め、並み居る整備班から割れんばかりの拍手を頂いた。

 

 「どうした!? ミリアム副頭は?」

 

 派手な演出で舞い降りた舞台。ここから主役は僕に代わる。盛り上げていくぜ、マイ・ステージ! 舞台衣装の三型パワーアームを脱ぎ捨てながら、集まってきたギャラリーに声を張り上げた。

 

 「魔石の補給が今回で最後になります! 今後は整備班はウィザードの修理に回って下さい」

 

 「補給はどうするんだ!? ウィザードはどんどん戻って来てるぞ」

 

 「今ある魔石が無くなったら、その後の魔力の補給は僕がやります。任せて下さい!」

 

 僕が人並み以上の魔力を持っているのは整備班の人なら知っている。知らないのは僕の魔力の総量がどれくらいあるかだ。これは僕も魔力が空になるほど使った事は無いから分からないが、「タマゴ事件」の時だってやりきったんだ。きっと、やれる!

 

 「大丈夫ですよ班長。ミカエルが任せろって言うんだから大丈夫ッスよ。ほら、レッドの人が睨んで待ってますよ。行きましょ」

 

 助け船は我が親友ジョシュアから。同じ三級と言えども副班長だ。言い方は軽いが重みはあるのだろう。今度、合コンで盛り上げてやるからな。

 

 「サラ、ローラ、バックパックは整備班に回したね?」

 

 「「はい、十二セットありますが、もう三セットは補給中です」」

 

 「残りの九セットが終わったら僕が魔石に魔力を入れるから誘導して。修理が必要なウィザードは他の整備班に回せばいいからね」

 

 話している間にも送られて来たバックパックはウィザードに積み込まれ、次のウィザードには僕の魔力を流す事になった時、運良く知り合いの魔導師が第一実験者になってくれた。

 

 「魔石の交換をしてくれ! もう自前の魔力しか残ってないんだ!」

 

 赤の魔導師、フィリス・ステイプル。仲間を後送して城船まで戻っていたのに、もう戻って来るなんて速い。流石と言っておきたいが滑り込んで小石を巻き上げるのは痛いから止めてくれ。

 

 「フィリス、バックパックの予備はもう無いんだ。だから僕の魔力を魔石に流すから、それを使ってくれ」

 

 「なに!? ジャイアント・タートルで襲われていると思ったらこっちは魔石の不足かよ! 仕事してんのか!?」

 

 決めたのは船長なんだから文句はあっちに言ってくれ。僕だってこんな疲れる事はやりたくないの。家に帰ってゲームをしていたいんだよ。

 

 「いい仕事をしてやるからバックパックを開けるぞ。今……」

 

 「ちょ、ちょっと待て…」

 

 なんだよ。次が待って忙しいんだからトイレは早目に行っておけよな。それとも心の準備か? それは大丈夫じゃないかな。魔石に流せば属性変換されて動力炉に流れるから魔力酔いは少ないと思うけど……

  

 「魔石にミカエルの魔力を流したとして…… それで魔力が無くならない保証はあるのか?」

 

 保証? この状況で保証とか言われても分かる訳も無い。だいたい使っても無い魔力が魔石から抜けるのが変なんだ。普通の状況でも無いのに保証だなんて……

 

 「そんなのは無い! 魔石に流さなくてどこに貯める? 動力炉に直接なんて危険だし長くは持たないよ」

 

 「……それだ! 良く聞けミカエル、今の状況だと使ってもない魔力が魔石から何処かに消えちまうだろ。その原因は不明だ」

 

 不明だろうが、何だろうが時間が無いんだ! スカートを捲って…… バックパックのハッチを捲って魔力をぶち込むのが一番確実なんだよぉ。

 

 「ところがだ! あたい自身の魔力は減って無い。もちろん使った分は減ったが魔石の様な減り方はしていないんだ!」

 

 「……どういうこと?」

 

 「魔石からは魔力が抜かれるが、自前の魔力は抜かれない…… と、思う」

 

 「思うって…… バックパックに魔力が無ければ魔法を使えないよ。高速移動だって、ファイヤーボールだって出来なくなる。自前の魔力だけでウィザードを動かすつもりか!? 動くだろうけど、動くだけだろ。戦闘なんて……」

 

 「やるしかねぇだろ! いつ切れるか分からないバックパックを背負って戦うよりかマシだ。少しずつ抜ける訳じゃない。いきなり大幅に抜ける時もあるんだ。撃とうとした時に撃てないファイヤーボールなんて使えねぇよ」

 

 不確実な魔力より、少ない魔力でも動かせるウィザードを取るのか。ここから先は白兵戦になる。剣や槍での殴り合い。ウィザードが魔物より有利なのは遠距離攻撃や強化魔法で優位に立ってるからなのに、それを捨ててまで戦おうって言うのか。

 

 「フィリスの身体に魔力を流すんだな? バックパックより少なくなるし身体の負担は大きくなるぞ」

 

 「承知の上だ! ミカエルは魔力の圧縮は使えるだろ? そいつで頼む!」

 

 ハードル上げやがって。魔力の圧縮は、あまり使った事が無い。緊急の時、手早く修理をする時に使うものだが、僕の様に魔力の容量が多い人は圧縮なんか使わなくても、速く流すだけで充分な仕事をこなせるからだ。

 

 僕が使える魔力の圧縮は三倍まで。一級の人なら十倍くらいまで使えるが、二級の昇級試験では五倍の圧縮が必須要項に入っているから、試しに五倍の魔力の圧縮をしてみようか。

 

 「使えるけど、本当にいいのか? 属性違いは、かなりキツイって聞いてるぞ」

 

 「構わない! やれ!」

 

 期待に応える男、ミカエル・シン。期待に応えて本当に魔力を流してもいいのだろうか? 特に僕の魔力は女性限定で凄いことになるのに…… 後で泣いてもしらないっと。

 

 「行くぞ……」

 

 ウィザードのコックピットを開け、フィリスの隣に立って魔力を練る。身体から腕先に貯まる魔力を更に送って濃縮五倍、使う時には薄めてね。

 

 僕の両手をフィリスの胸元に。もちろん触ったりしません。少し離れても心臓に目掛けて魔力を流せばいいだけなんだから。

 

 貯まったのを見計らい送り出す圧縮五倍の魔力。三倍までなら送った事はあるが、五倍は初めてだ。濃いのを「ドピュッ」と…… いや、「ススッ」と流す予定が……

 

 「あぁ…ぁ!ぁ…っんん…んは…ぁぁあぁ…っ!んん…!」

 

 手が滑ったと言うか、送る加減が出来なかったと言うか…… 兎に角、フィリスの中に容赦も無く送り込んでしまった。

 

 「あ…あぁっ…がぁっがあぁ…っ…」

 

 全身を震わせシートベルトに食い込むほど身体を悶えさせるフィリスを見て、僕は「フィリスって意外と胸があるんだ」なんて事は考えず、「殺してしまったか!?」と思うほどだった。

 

 「だ、大丈夫……かな。 大丈夫…… ですか?」 

 

 呼吸の度に身体を大きく揺らすフィリス。目を閉じたままだが死んではいない、息はしているのだから。

 

 まさに「ぜぇ、ぜぇ」と言わんばかりの呼吸法に、楽になるであろうラマーズ法を教えたいが、そんな場合でもないだろう。

 

 「フィリス……」

 

 覗き込む様にフィリスの側に行くと、なにやら嗅いだ事のある女性特有の香りが下の方から漂って来た。

 

 何だろうと、フィリスの足元を見ようと顔を向けると、いきなり胸ぐらを掴み強引にキスをさせられた純真な心を持つ僕。

 

 異世界でのヴァージン・キスを強引に奪われ舌も絡ませて息も絶え絶えな三分間。初キスがこんな強引に奪われるなんてお婿に行けない。責任は取らなくていいから、早く離せ!

 

 今度は僕の方から強引に唇を引き離してシートに押さえ付ける。やっぱり僕の魔力は凶器になるみたいだ。

 

 「はっはっ! 最高だ! こんなモンがこの世にあるのか!? やっぱりミカエルは最高だ! 絶対、あたいのモノにしてみせる!」

 

 あたいのモノだろうが、なんだろうが、魔力は伝わったのか? ちゃんと補充は出来たんだろうな? これで魔力が流れて無いって言ったら、異世界初キスが無駄になる。

 

 「魔力は? ちゃんと補充出来てるの?」

 

 「大丈夫だ! ちゃんとここに入ってる!」

 

 何故か魔力を貯めると言う心臓を押さえる訳では無く、何故かお腹の下の辺りを押さえるフィリス。いったい貴女の魔力は何処に貯まったの?

 

 「行けるのか? 大丈夫か?」

 

 「あぁ…… ああ! 行けるぜ! 最高だ! ヤリまくってやる!」

 

 心なしか「殺る」が「ヤル」に聞こえたのは気のせいか。コックピットハッチを閉め、ウィザードを全快に飛び出して行くフィリスは僕の服がハッチに引っ掛かったのも気が付かなかったのだろう。

 

 何とか服を引っ張り出してコックピットの高さから落ちる僕の事も気に止めず、「貴女のミカエル」ほ地面に落ちて頭を強打した。

 

 「「班長、大丈夫ですか?」」

 

 僕を心配してくれるのは可愛い部下の双子だけか。少しばかりの寂しさと、僕の魔力がどう働くか分からない不安とが入り交じり、ただ見送るだけだった。

 

 「「班長、次のウィザードが待ってます」」

 

 彼女達は僕の仕事の大変さを分かってくれるだろうか? 僕の魔力はこんな事に使ってもいいのだろうか? ただ今の難局を乗り越えるにはこれしかないのも事実だ。

 

 

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