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第十七話


 「補給を急げ!」

 

 補給所でポーカーなんて冗談じゃ無い。先行して出撃したウィザードが引っ切り無しに戻って来る。こいつら戦わないで戻って来ているんじゃないかと思うくらいだった。

 

 もちろん、損傷しているウィザードもあったから戦っては来ているんだろうが、魔力を使い過ぎてもこんなに帰投する事はない。

 

 絶対にハミルトン公爵の見付けた魔石の塊が原因だろ。面倒な物を見付けやがって、この後で塊を魔導都市まで運べるか自信が無くなって来そうだ。

 

 「おかしいだろ、これ……」

 

 ジョシュア君、口より手を動かしてくれ。同じ三型パワーアームを着こんでバックパックを運んでいるが、足場が悪くて大変なんだよ。

 

 「何でこんな簡単に魔石の魔力が無くなるんだ。数えていたが、もう一機に付き二回はバックパックの交換をしてるぜ」

 

 「そうだな。こっちの予備が足りなくなりそうだ。次が来るまで三十分くらいか……」

 

 城船から送られてくるバックパックは置いたと思ったら、空になったバックパックをキャリアに積み込み城船に戻って行った。

 

 魔石の予備は城船にはあるが、バックパックの予備はそれほどある訳ではない。搬送部隊は空になった魔石を取り出し、赤系青系の魔石を積み込んで補給所まで運んで来る。

 

 「俺、ソフィアさんのバックパックを交換したぜ。「ありがとう」って言われちゃった」

 

 良かったな、幸せそうで。この中でも大変なのは指揮を取ってるミリアムさんか。魔石の手配や破損したウィザードの状況から修理の手配まで一人で切り盛りしている。ラウラ親方の片腕は普通じゃ勤まらない。

 

 「僕はフィリスに早く直せと蹴飛ばされたよ。偉い違いだ」

 

 ウィザードが魔物程度に遅れを取る事は無い。小破ならまだしも中破するウィザードもいるから修理が間に合わない。

 

 ここには一級、二級の錬金術師がいるが、流石に中破したウィザードを直すのに時間がかかる。そうなると僕の出番が回って来る。

 

 ウィザードの腕一本で普通なら二十分で直せるが、この後の仕事を休む勢いで魔力を振るい中破扱いのウィザードを五分で直してみせた。

 

 一級の錬金術師にだってここまで早く直せない。僕の溢れ出す才能と魔力を持ってして直せる早業だ。それなのにフィリスに蹴られた。

 

 いいんだ、別に…… 僕達は主役になれない脇役。いや、通行人の一人ぐらいにしか見られていないのは分かってる。せめて台詞がある通行人に僕はなりたい。

 

 「お喋りしている時間はあるのですね……」

 

 そんな時間はありません。バックパックを運ぶのに忙しいんです、ミリアムさん。貴女こそ、ここで話をしている時間はあるのですか?

 

 「いえ……」

 

 「大破したウィザードが帰投します。ミカエルは修理にあたって下さい」

 

 「俺も手伝いましょうか? ミリアム副頭」

 

 殺意って分かるものだね。ジョシュアが最後に投げ掛けた言葉を返す様に睨む目に殺意を感じたよ。きっと、ジョシュアは僕が「ビーン副頭」では無く「ミリアムさん」て呼ぶのを真似たんだろう。御愁傷様です。

 

 「ランバート三級錬金術師は必要ありません」

 

 この世界での存在自体を否定されたような「必要ありません」はジョシュアの心を抉っただろう。傷口にデスソースを掛ける様に僕のバックパックを任せ、僕は大破したウィザードの元へ急いだ。僕の方を見るミリアムさんの瞳から逃げる様に……

 

 大破していたのはレッドチームのウィザード。抱えて来たのはフィリスで、着いた早々に「早く治せ、すぐ治せ」と、喚き立てる。僕が直せるのはウィザードで人間は専門外だ。

 

 「フィリス! 落ち着け! この人は城船まで運ばないとダメだ! ウィザードは預かるから、この人を城船まで運んで」

 

 応急措置だけをしてフィリスのウィザードの手に乗せた。この人はフィリスと同じ小隊の人だが、今回の作戦にはもう出れないだろう。右腕を肘から無くしているんだ。城船に戻って治癒魔法使いに任せないと命の危険もある。

 

 「ミカエル。魔導師はどうしました?」

 

 「後送しました。あの傷では止血するのが精一杯でした……」

 

 「そう…… 魔物を相手にあんな大怪我だなんて……」

 

 ウィザードのコックピット辺りに何かが突き刺さった後を見ながら、ミリアムさんは呟いた。ウィザードの外壁はただの金属じゃない。それなりに魔力が通る特別製で、動き始めれば常時防御魔法で守られている。

 

 それが簡単に穴なんて空くか!? 防御に魔力を回す余裕が無いほどバックパックの魔力が無くなっているのか? それとも防御魔法を貫くほどの魔力を秘めたヤツがいるのか?

 

 「ミリアムさん、帰還しているウィザードの損傷率が高い様に見えます。バックパックの補充だけに錬金術師を回してる余裕が無くなって来ますよ。ラウラ親方に連絡してタートルの魔石の破壊は後回しにしてもらったらどうですか?」

 

 「少し前に連絡しました。あちらにもタートルの魔石を狙ってか魔物が集まって来た様です。残ったイエローチームと作業用ウィザードで撃退しているのが現状でこちらに回す錬金術師はいません」

 

 あっちもこっちも大忙しかよ。時間をかければ集まってくる魔物を相手に僕達の方が不利になるのか? 一旦、作戦を中止して仕切り直した方がいいんじゃないか?

 

 「「班長」」

 

 ダブルでエコーが掛かった様に呼び止めるのは七班の双子の部下。思ったより速かったね。来た所で悪いけど、直ぐに戻ってバックパックを持ってきてくれ。

 

 「「ビーン副頭。バックパックの補給はこれが最後になります。護衛に付いてたイエローチームはジャイアント・タートルで襲われているラウラ親方の方へ向かいました」」

 

 「そんな! こちらの補給を蔑ろにするつもりですか!?」

 

 「「わ、私達に言われても…… 船長命令で城船の安全を第一にと……」」

 

 「そんな…… バ、バックパックは十八個ですね?」

 

 「「い、いえ、急いで持って行く様に言われまして…… つ、積み替えも手間取って……」」

 

 「いったい何個持って来たの!?」

 

 「「十二です……」」

 

 「二個中隊分しか無いなんて…… 城船はこちらの現状を把握しているのですか!」

 

 「ミ、ミリアムさん。彼女達を責めても始まらないですよ」

 

 いつもクールなミリアムさんが、八つ当たりするなんて珍しい。それくらい切羽詰まった状況か…… どっちもこっちも魔物でいっぱい、僕はエールを一杯。勝って祝杯を上げてやる!

 

 「ミリアムさん、バックパックですが全機に補給した後は僕がウィザードに直接魔力を注入します」

 

 「えっ!」

 

 「「ええっ!」」

 

 双子がブレるくらい衝撃的な言葉だろうか? こっちも珍しいが状況から見れば魔力の補充は間に合わない。

 

 「バックパックに魔力を注いでも直ぐに消えてしまうかも……」

 

 「動力炉に直接流します。バックパックの魔力は空になりますが、人の魔力は無くならないですよね」

 

 「そうね…… 確かに人の魔力は無くなっていない」

 

 「動力炉も魔石と同じく魔力を無くすかもしれませんが、その時には魔導師に魔力を流してウィザードの魔力代わりになってもらいます」

 

 「でも、それは……」

 

 魔導師に魔力を渡す結果は…… 僕が魔力を渡した相手がどうなるか、ミリアムさんも双子も分かっているが、他に魔力の宛が無いのも事実だ。

 

  残りのバックパックは二十も無い中で、帰投するウィザードは増えるし何処まで作戦時間が延びるかも不明だ。使える魔力は使わないとね。

 

 「分かりました。ミカエル・シン三級錬金術師、貴方を魔力補充担当にします」

 

 先に待つのは阿鼻叫喚か酒池肉林か。「タマゴ事件」以来の大規模な魔力の注入が、僕達に勝利をもたらすのか僕だけに甘い時間を与えるのか、ここからが本当の勝負だ。

 

 「ありがとうございます。作業用ウィザードに予備を一つ置いて、その他はウィザード分としましょう。サラ、ローラ、予備のバックパックの補充が終った機体はバックパックを外して動力炉に魔力を注げるスペースを開けておいて」

 

 「「了解です……」」

 

 「急いで手配をしなさい。 ……早く行って!」

 

 追い払われる様に弾けて飛び出す双子の姉妹。我に返ると言った方がいいか。どうやら僕の魔力の官能の世界に少しばかり入ってしまった様だ。

 

 それをミリアムさんは戒める言葉での「早く行って」か。やっぱりミリアムさんはラウラ親方の右腕だけはあって公私混同はしないね。

 

 「あ、あの…… 私にも少し魔力を……」

 

 してないか!? 公私混同!? 貴女は事務仕事で魔力は使ってないだろ。でも使ったのかな? それなら魔力の補充をするのは仕方がないのかな?

 

 僕はミリアムさんの背中から心臓に向かって魔力を流した。右手で流し込み、左手は口を押さえ、何故か押し付けて来るお尻に我慢をしながら……

 

 ……ここは戦場なんだ。

 

 

 

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