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第十五話


 カードゲームのポーカーは「ハッタリ」が必要なゲームだ。弱いカードでも掛け金次第で相手に勝てる事もある。要は自分の感情を見せない、ポーカーフェイスが必要なんだ。

 

 ラウラ親方はあたかも見ていた様に魔石の事を話し始め、ジョシュアも自分から話してしまう愚行で、勝手な行動が同罪と殴られた。僕はジョシュアが居た事は言ってないし、ミリアムさんも知らない筈だ。

 

 ラウラ親方には握力六百と凄む顔があれば、ハッタリもポーカーフェイスもジョシュアには通用しないみたいだ。二人で愛の鞭を頂いた訳だが、問題のタートルの魔石に付いては「後回しだ!」とウィザードのある整備室に追いやられた。

 

 僕もジョシュアもレッド・チームの最終点検の為に別れ、僕は七班の待っているウィザードの側にはフィリス・ステイプルも待ち構えていた。

 

 「おはよう、フィリス。頭の痛い朝だねぇ」

 

 「本当に頭が痛いぜ。魔石の塊の側には魔物が居るんだからな」

 

 「数はどれくらいか聞いてる?」

 

 「トロールが三匹にワイバーンが五匹は確認しているみたいだ。夜のうちに増えてるだろうけどな」

 

 「魔石が欲しくて来たんだろうね。武装はどうする?」

 

 「バスターソードでいいだろ」

 

 「数が多いならメイスと盾があった方がいいんじゃない? 丈夫だし」

 

 「こっちの数も多いから大丈夫だろ。三十六機が出るなんて滅多にないぜ」

 

 確かにイエロー・チームを除く全機が出撃するなんて珍しい。安全の為か? それとも船長は何か知っているとか? 考えても仕方がない。数が多ければ多いほど、生きて帰れる確率は高まるんだから。

 

 「そうだね。 ──サラ、ローラ、武装はバスターソードで。各部のチェックと赤の魔石をてんこ盛りで」

 

 「「はい」」

 

 「いつもは半分くらいしか入れないのに豪勢だな」

 

 「気を付けて。魔石の塊なんて意味不明な物に近付くんだから」

 

 「任せな。無属性の魔石があったら一つ貰って来てやるぜ」

 

 意気揚々と操縦席に座るフィリス。一つと言わず持てるだけ持って来てくれても構わないんだけどね…… いや、タートルの魔石はヤバい物だった。公爵の見付けた魔石の塊はもっとヤバいのかも。

 

 魔物を集め、ジャイアント・タートルを巨大化させ、凶暴化、合体変形もさせるかもしれない。そんな所に三十六機のウィザードで足りるのか?

 

 「フィリス、気を付けてね。必要以上に気を付けて」

 

 「大丈夫だよ。心配性は白髪が増えるぞ。ほら、降りろよ。出撃するぞ」

 

 フィリスなら大丈夫か。階級は三級火系魔導師でも実力は一級に近いって言われているし。日頃の行いが悪いだけで二級になれないって話しだからな。僕はウィザード降りて見送った。

 

 

 

 「レッド、ブルー・チーム、出撃」

 

 カタパルトに乗って「行きま~す」なんて出撃じゃない。後方下部ハッチからぞろぞろと歩いて城船を降りて隊列を組んで進む。

 

 浮遊して高速移動もするかもしれないが、木が生い茂って危ないから、徒歩での移動だろう。少なくとも作業用ウィザードで木をくぐって飛ぶなんて芸当は僕には無理だ。

 

 「通信はどうなってるの?」

 

 「中継は出ないみたいだぜ。距離があって届かないけど、城船を手薄にする訳にもいかないしな。たかが魔物の十匹やそこら問題ないだろ」

 

 助けに行った所で足手まといになるのは分かっているから、せめて通信くらいと思ったんだけどね。三十六機も出撃したらトロールやワイバーンが二、三十居ても問題ない。

 

 「ここで、ぼうっとしてても始まらないぜ。俺達の仕事はウィザードが戻ってきてからだ。時間もあるしポーカーでもどうだ? 巻き上げてやるからよ」

 

 「ジョシュの方が負け込んでいるだろ。他に誰を呼ぶ?」

 

 「あぁ、それなら…… おっ、三班までの班長が親方に呼ばれてるみたいだな。何か一仕事があるのかよ。早くメンバー揃えて逃げようぜ」

 

 見ればラウラ親方の側には各班長が集まって指示を受けていた。受けている班長の顔は神妙でとてもジョシュアの様にヘラヘラしてない。

 

 「メンバー揃えておいて。少し話を聞いて来るから」

 

 「仕事熱心でご苦労、ご苦労。先に行ってやってるぜ」

 

 この後の待機時間を裂いてまでやる事なんて、タートルの魔石の事が思い浮かぶ。本当なら待機と言ってもウィザードが不意に帰還する事もある。

 

 損傷して隊列を離れ戻ってきた機体を直す為の待機で遊んでいていい訳がない。ポーカーは…… 僕は少し離れた所に居たミリアムさんに事の次第を聞く事にした。

 

 「ビーン副頭、三班まで集めて何かするんですか?」

 

 「ミカエル! 二人の時はミリアムと呼んで……」

 

 少し恥ずかしがりながら言うミリアムさんは、何時もと違うギャップにとてもの可愛らしさで抱き締めたくなるが、人はまだ多いし僕達ってそんな関係でしたっけ?

 

 「ミ、ミリアムさん…… 何かあったんですか?」

 

 「あれね。これから三班合同でタートルの魔石からサンプルを取って残りは粉砕処理します」

 

 「粉砕!? そんなに不味い物だったんですか!?」

 

 「不味いと言うより不明な所が多いからですね。サンプルは魔導都市に魔石の塊と一緒に送ります」

 

  「そうなんですか……」

 

 あの魔石の大きさなら一財産は稼げるし、城船の運航に使えれば楽になると思ったのに残念だ。きっと話は船長までいっているから、船長が決めた事だろう。

 

 「あっ…… それと……」

 

 「失礼します。待機してます」

 

 僕は早々に逃げ出す事を選んだ。 「それと」の後の言葉が何となく分かったから。でも、歩きながら考える。これで良かったのかと。

 

 僕はフリーで、たまにの合コンも飲んで終わりで後が続かない。ミリアムさんもたぶんフリーなんだろう。それならこのまま流れに身を任せてしまっても良いのではないか?

 

 城船の男女比は二対八ぐらいの割合で女性が圧倒的に多い。中には隠れて付き合っている人もいるが、基本的に恋愛は禁止になっている。ましてや上司に手を出すなんて……

 

 構わないかな? いや、待て! ちょっと、待て! 今まで別れた人達、特に男の方は女性クルーから酷い目にあっている。

 

 男が悪い時もあるだろうが、別れた後の女性クルーからの仕打ちは筆舌に尽くしがたい。靴に画ビョウを入れられるのなんて普通にあるくらいだし、魔物の群れに置き去りなんて話も聞いた事がある。

 

 女同士の結束は、男では考えられない事をアッサリとやってしまうのが凄い。ストーカーくらいなら我慢出来るが、上司特権で重労働をさせられるのは嫌だ。

 

 いや、それも別れたらの話で上手くいって結婚するかもしれない。そうなると城船で一緒に暮らすのか? それもどうだろう? 僕は城船を時期が来たら降りたいと思ってる。

 

 ミリアムさんが良かったら、一緒に城船を降りる選択も有りかな。でも、それなりのキャリアを放り出して着いて来てくれるだろうか。

 

 少し話が飛躍し過ぎたかな。まず、付き合ったらどうなるだろう。ラウラ親方は恋愛禁止から怒り出すだろう。それに宿屋で一緒に暮らしている他の四人は?

 

 炎のフィリスは僕を燃やすのではないか?

 水のソフィアは僕を水死させるのか?

 土のリリヤちゃんは僕を石に変えるのか?

 不明なナターシャは蔦で絞首刑にするのか?

 

 このくらいで済むなら二人で手を取って逃げ切れるだろうか? ……いや、待て、待て! 前にあった「タマゴ事件」の時に魔力を渡した魔導師達の事もある。

 

 あの時から僕に対する風当たりが、違う意味で強くなってるんだ。誘われるくらいは社交辞令だと思っていたけれど、たまに連れ込まれる時もある。

 

 そんな時は口八丁手八丁で切り抜けて来たけれど、特定の誰かと付き合ったら日には、全魔導師を敵に回すのか。 ……死ねるね、間違いない。

 

 とにかく僕が城船を降りるその時まで、特定の人と付き合うのは無しだ。でも当たりだけは付けておこう。いつか二人で城船を降りて新しい生活を一出来る人を。

 

 僕がそんな事を考えながらポーカーをして、ボロ負けをしていると、予定よりかなり早く救いの神が帰って来た。

 

 「整備! お前ら魔石はちゃんと積んだんだろうな!」

 

 フィリスの声に、城船を降りた時に選ぶ人は君以外を選ぼうと思いつつ、怒られる理由が無い怒りのウィザードの前に僕は立った。

 

 「当たり前だろ! 魔石を積み込まない整備が何処にいる! フィリスだって見てただろ!」

 

 「見たのは魔石を積んだバックパックを付けた所だ! 魔力の入った魔石を積んだんだろうな!」

 

 当たり前だ! 魔力の無い魔石を積んでどうする!? どうする? 見て確認まではしてないや。サラとローラに任せたけど確認したよね。と、意味を込めて二人を見ると「うん、うん」と、うなずいている。

 

 「魔力の抜けた魔石は別に保管しているんだ。載せるわけが無いだろ!」

 

 その声に反比例するように、ぞくぞくと帰還するウィザード。これはフィリスのウィザードだけじゃない。他のウィザードも魔力が切れたのか? そんな事がある訳が無い。

 

 「さっさと魔石を積め! 魔物は腐るほどいるんだ!」

 

 そんな馬鹿なと言いたいが、バックパックを開けば赤いはずの魔石がほとんど透明に近い魔力の無くなった魔石に変わっていた。

 

 


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