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第十二話


 魔石。鉱山や洞窟で採取され、その魔力を帯びた石は生活の礎となって火を熾し、水が湧き、街を作る。僕達、城船の仕事の大半はその運搬だ。

 

 魔物からも魔石は取れる。正確には魔獣と呼ばれる四本足以上の魔物の体内からだ。ゴブリンやトロールからは取れる事はないが、ジャイアント・タートルからは、とんでもなく大きな魔石が取れるだろう。

 

 「遅い! 俺の分のパワーアームは?」

 

 「悪い、手間取った。ここにあるよ。鉄パイプも二本」

 

 僕はラウラ親方にケツを蹴り上げられ痛みが引かず、やむ無く治療を受けていた。本当にあの人は容赦がない。お陰で治療をした魔導師にお尻の穴まで見られてしまった。女性に見られるのは恥ずかしい。

 

 「行こう。お宝が俺達を待ってるぜ」

 

 パワーアームを着込みながら意気揚々とするジョシュア。宝探しと言うより火事場泥棒に近いものもあるが、放棄した物なら誰の物でもない。

 

 「魔力は残ってるの?」

 

 「まだ大丈夫だ。鉄パイプを生成する力はあるぜ」

 

 この鉄パイプで大きなナイフでも作って亀の肉を切るつもりなのだろう。僕の残りの魔力量なら何も無い所から作る事も出来るが、ジョシュアは中破したウィザードを直した後だからね。

 

 城船を抜け出し、船首の方で穴が空いて倒れているジャイアント・タートルに向かう。夜道も星明かりで薄暗く見えていた。

 

 「どのくらいだと思う?」

 

 「魔石のサイズ? どうなんだろ。魔物から取る所なんて見た事がないからね。手に負えないサイズなら砕いて持てる分だけにしておこうよ」

 

 「欲がないねぇ。魔物の魔石は心臓と同じくらいって聞いた事があるぜ。これだけのサイズなら簡単に家が建つ、それで豪遊してもお釣りが来るぜ。夢を持て、夢を」

 

 火事場泥棒が夢を見てもいいのか分からないが、ジョシュアの言う通りなら二人で分けてもお金持ちになれる。 ……まさか、見付けたら僕を始末するとか?

 

 「いい夢なら女の子と見たいよ。ベッドで、二人で……」

 

 「俺もそのベッドに入ろうか?」

 

 「慎んで遠慮します。僕は……」

 

 「着いたぜ。中は暗いな…… 足元はしっかりしてる。焼けた跡みたいだ」

 

 確かに、少々いい香りが空腹のお腹に直撃する。夕御飯は食べてないんだよ。合コンだと思ったし、治療もしていたんだから。

 

 「魔石の心当たりはあるの? どの辺りを探る?」

 

 「心臓と比べるくらいだから、心臓の側にあるんじゃないか? 当たって砕けようぜ」

 

 砕かれたくは無いんだよ。宿屋に帰ってセラフィーナさんのご飯を食べて寝たくなってきた。明日はウィザードの出撃で忙しくなるの分かってるか?

 

 「さっと行って片付けよう。■■■■、生成」

 

 僕は鉄パイプから細長い剣を作り出した。見た目は日本刀に似てるのは、オリジナルで作ると日本で見たのと同じのが作られてしまう。

 

 「細くねえか? ■■■■、生成」

 

 ジョシュアの作ったのは手斧。頑丈な作りで少しくらい硬い所でもパワーで押しきるつもりらしい。

 

 「小さくない?」

 

 「お前、何処を見て言ってるんだ! 男はパワーだ! 小さくたって役に立つんだよ! 行くぞ!」

 

 心の中の物が具現化されるとしたら、僕のは長くて細いのかな。下ネタはこれくらいに、僕達はジャイアント・タートルに空いた穴の中に入って行った。

 

 

 

 お互いの作業場所を決め、僕達は魔石を目指して横穴を堀り始めた。焼けた洞窟の壁とも言えるタートルの肉は、最初は固かったが切り進めばただの肉を切るのと同じくらいだった。

 

 「ジョシュ、そっちはどう?」

 

 一時間も無言で肉を切り続ければ、さすがに飽きてくる。ここには無いのかと、違う場所を掘りたくなってきた。

 

 「こっちはヤバい物を切ったみたいだ……」

 

 ヤバいって何? 変な物が出て来るなら逃げたいんですけど。

 

 「ジョシュ?」

 

 「……」

 

 便りがないのは良い便り。返事が無いのは? 大丈夫だとは思うが僕は日本刀を置いて、隣で掘っているジョシュアの元に歩き始めた。

 

 ジョシュアが掘った穴の前に行くと、中から血まみれのジョシュアがふらつきながら歩いて出てきた。

 

 「ジョシュ!」

 

 中で何があった!? 怪我の具合は!? とにかくここを逃げないとヤバい。僕は走り寄りジョシュアの手を取って逃げる事に決めた。

 

 「おいおい、男と手を繋ぐ趣味はないぜ」

 

 「何を言ってんだ! 血まみれじゃないか! 早く診てもらわないと……」

 

 「ああん? これなら大丈夫だ。タートルの血管を破っちまったらしくてな。シャワーの様に降りそそいだぜ。あぁ、くそっ、気持ち悪い」

 

 「平気…… なのか……」

 

 「当たり前だろ。それより大金星だ! 魔石を見付けたぜ!」

 

 僕はジョシュアの手を振り払って魔石を見付けた穴に入って、すぐに出た。ライトに照されたスプラッタな世界は、僕の精神を拒む。とてもじゃないが、中に入りたくない。

 

 「早く入れよ。奥にあるぜ、ジャイアント・タートルの魔石」

 

 まだ血が吹き出している血管が、傘かレインコートと長靴の必要性を訴える。血の池って初めて見たよ。濡れた靴下で靴を履くのは嫌なんですけど。

 

 「早く入れって!」

 

 後ろから無造作に押すジョシュアに僕は少なからず怒りを感じ、ぐちゃぐちゃになった気持ち悪い靴下を感じた。きっと、一人だけ血まみれになるのが嫌なのだろう、巻き添えにしやがって。

 

 血管から流れる血の滝を避け、さらに奥に行くと確かにある尿道結石…… いや、ジャイアント・タートルの魔石か?

 

 バスケットボールくらい捲れた肉から、はみ出す様にある石の様な硬い血の色の…… 魔石なのか? ジャイアント・タートルは土系の魔石だから高品質のものならレモンイエローだ。目の前のは血に染まった石。

 

 「水筒あるか? 水をくれ」

 

 洗ってみれば石の色から品質が分かる。このくらいのタートルなら、かなりの高品質に違いない。それがまだ顔を出しているだけ、いったいどのくらいの大きさか検討がつかない。

 

 「うん。上手い!」

 

 飲むなよ、かけろよ魔石に! 色が知りたいの! 本当に魔石なんだろうな! こんなに汚れてお嫁に行けないだろ。僕はジョシュアから水筒を奪って一口、ゴクリ。僕も喉が乾いている。その後、血を落とす為に魔石に水をかけて洗った。そこに表れたのは期待を大きく外れる色だった。

 

 「これ魔石だよね?」

 

 「魔石だろ。こんな所に石なんてあったら邪魔じゃん」

 

 良く分からない理屈だけど、体内に石があったら確かに邪魔だ。ここにあるって事は「有るべくして有った」と言う事か…… それにしても大きそうな魔石だ。

 

 「ここから広げて出してみるか。一抱えくらいあればパワーアームの制限重量を越えそうだな」

 

 「三型を持ってくれば良かったよ。あれなら二百は持てたから」

 

 「そうだな。 ……意外とポロリと落ちて小さかったりな。一応、持ってくるか。俺のパワーアームの魔力も無くなって来てるからな」

 

 僕達は二手に別れた。僕はこのまま魔力の周りの肉を削いで大きさの確認と取り出せるように。ジョシュアは強力な三型と水浴びに。

 

 誰かに見付かったら大事になるから静かにコッソリ取って来てくれ。僕は出血の治まった血管を退けて一人黙々と解体作業を始めた。

 

 僕は日本刀を手斧に生成し、肉を剥ぎ落とす。僕がやっていた方は血なんて出て来なかったけど、今の僕は両手が血にまみれ、他の人が見たら警察を呼びたくなるだろう。

 

 それなりに肉を削いだと思うが、予想を越えるほど魔石は大きかった。三型でもこの一つを持ち出す事は無理だろう。砕きながら運べるだけ運ぶのが一番かなっと、手を休めた時にタートル洞窟の中で気配を感じた。

 

 最初はジョシュアかと思ったが、三型を着ているなら歩き方に合わせて音がするはずだ。その音は二足歩行だと思うが、こちらに近付いて来る。

 

 もしかしたら死肉を狙ってきた魔物か? 僕は明かりを消して、持っている手斧を握り締めた。ゴブリンくらいならパワーアームもあるし勝てるだろう。もし、それ以上の者だったら、一発喰らわせて逃げるのが得策だ。

 

 僕はジョシュアが開けた横穴の壁に背を付けて待ち構えたが、向こうは何かの明かりを持っているみたいで薄暗くレールガンで開けた穴を歩いて来る。その光は松明と言うより魔石を使ったランタンみたいだ。

 

 ジョシュアでも無い人なら不味い事になる。僕達が無断で下船した事を咎められるのは間違いない。魔石を勝手に回収しようとした事は放棄したんだから問題が無いと思う。

 

 先手をうってガツンと一発、気絶でもさせるか? いや、それは無理だな。下手にパワーアームで殴ったら死んじゃうし、気絶させても問題になる。

 

 「そこにいるのは誰?」

 

 先手をうたれた。しかも、聞き覚えのある声で、怒らせてただでは済まない人の声だ。でも、魔物じゃないなら話し合いで何とかなるかも。僕は手斧を下ろして横穴から出た。

 

 「三級錬金術師、ミカエル・シンです。ビーン副頭、何かありましまか?」

 

 いきなり出たのが不味かったのか。僕が血まみれだったのが不味かったのか。レールガンで開けた巨大な穴にミリアム・ビーン副頭の叫び声が響いた。

 

 

 

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