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第十話


 班分け表の前で待っていた双子の姉妹、サラとローラ。タマゴ事件の後に入ってきた五級錬金術師。二人とも長い髪を後ろで結び、同じ茶色い髪の毛、同じ幼い顔立ち、同じ凹凸なスタイル、ストライク!

 

 タマゴ事件が起こる前まで整備班は百三十名、十二班で仕事をしていたが、あの事件で死傷者や城船を降りた者で半数の人員しか残らなかった。

 

 班の改変や統合で八班にまで縮小され、ジョシュアは六班に移り、僕は七班に一人だけ残された。その後で新人を入れた三人で班を構成しているのだが、普通なら一班十名前後なのに、これはパワハラなのだろうか。

 

 「「班長、掲示板は見ましたか? 五、七、九の長脚の補修修理みたいです」」

 

 さすが双子。長いセリフも同時に言うなんて、今度は少しずらして立体間を演出して欲しい。この双子のサラとローラは考えも似ているのか二人のチームワークは抜群だ。

 

 「行動表をもらったら行くから先に五番脚に行ってて。安全帯を忘れないようにね」

 

 「「はい」」

 

 僕は副頭のミリアムさんから行動表をもらう時、何か言いたそうな顔をしていたが、どうせデートの誘いじゃ無さそうなので、すぐに五番脚に向かった。

 

 

 

 「それじゃ、この第一間接の解析からいってみようか」

 

 「「はい。■■■■、解析」」

 

 二人でやらなくてもいいのだけど、何事も自立心を尊重しないとね。二人でやった方が間違いが少なくなるし、僕もこっそりと解析……

 

 ……。

 ……。

 

 ……長いね。僕はもう解析を終わってるよ。二人はまだかな? 経年劣化による歪みがあったけど、これは大した事じゃないから気にしなくてもいいんだよ。

 

 ……。

 ……。

 

 今日の夕御飯はなんだろう。テーブルを壊したから御飯も貧相なのが出るのかな。おっと、終わったらジョシュアに誘われてたんだった。合コンだといいな。

 

 ……。

 ……。

 

 この前の合コンの相手は魔導師だったからな。気の荒い火系だったうえにプライド高いし、場が違う意味で盛り上がったよ。炎がね……

 

 ……。

 ……。

 

 やっぱり五級の錬金術師では時間が掛かる。本当なら五人で一脚を一日かけて直すからね。一班で一日、二脚くらいがノルマだから仕方がないか。

 

 ……。

 ……。

 

 時間を掛けてもいいんだよぉ。ここでしっかり解析しないと後が大変だからねぇ。ただ、もう少し急いでくれるとシンちゃん嬉しいなぁ。

 

 ……四十分後。

 

 「「終わりました。問題は無いと思います」」

 

 「思うじゃ、ダメだよ」

 

 「「あっ、はい。問題は有りません」」

 

 どこまでも息の合う二人だ。歪みは気が付いたかな? まぁ、問題ないレベルだし構わないでしょ。四十分も掛かったけど、五級にしたら普通かな? 自分の時はどうだったろう。人に教える立場になると、自分を振り返るね。

 

 「次は第一ブロックの外壁と内部解析ね。外に出るから安全帯と命綱の再度確認して。短脚の高さになってるけど、打ち所が悪ければ死ねるレベルだからね」

 

 「「はい」」

 

 股関節に当たる第一間接は終わった。次は太腿になる外壁と内部だ。ここからは外に一度出てから太腿のブロックに入る。間接の中は通れないからね。

 

 「外壁は僕が解析するから内部解析と修理を任すよ。面倒でも命綱は中に入ってから取り外す様にね」

 

 「「はい」」

 

 城船には魔石が積んである。それを狙ってたまに襲ってくる者がいる。野盗や魔物がそれだ。野盗は稀だけど魔物は無謀にも襲ってくるし、点検中に襲われる事もある。

 

 それを防ぐ為にウィザードが護衛に付いてくれる事もあるが、今回はジャイアント・タートルとの戦闘でこの辺りにいた魔物も逃げ出しただろう。それほど、気にする事は無い。僕は太腿にあたる外壁の解析を終わらせ、膝になる第二、第三間接の解析も終わらせた。

 

 解析も終わらせた時にブルー・チームのウィザード三機が出撃するのが見えた。甲高い音を出して飛ぶウィザード。さすが一班、いい整備をする。

 

 さて、僕もいい整備をしなければ。不幸にも両間接にはダメージが有ったらしく、これを直して元の状態に戻す。

 

 「■■■■、復元」

 

 さすが僕だ。あっと言う間に直してしまうけど、誰も誉めてくれないのが少し寂しい。まぁ、毎日がこんな感じの仕事だけに、魔導師から「つまらない仕事をしている」と言われた事がある。

 

 確かに地味な仕事だ。ヘルメットにツナギに安全帯、服装も地味だし派手さなんて魔導師に比べたら微塵も無い。

 

 だが、僕達錬金術師が城船の運行に欠かせないのは事実なんだ。地味で結構、裏方の仕事を舐めるなよ。ウィザードの整備、手を抜いてやろうか。

 

 上の二人はまだ時間が掛かっている様だ。二人とも可愛いし…… 有能だし、任せておいても大丈夫だろう。僕は人の「ふくらはぎ」にあたるブロックと、足首にあたる間接の解析と復元を終わらせ二人の元に戻った。

 

 「終わった?」

 

 ……。

 ……。

 

 額から流れる汗は健全な労働の証拠。二人とも汗を流しながら「復元」の魔法をかけていた。僕も少しは手伝おうと解析から魔法を静かに唱えると、ダメージレベルで三くらい。二人は復元に手間取ってるみたいだ。

 

 「頑張って続けて。僕は七脚の方に行ってくるから。外に出る時は魔物が居ないか確認してから外に出てね。終わったら合流して」

 

 労働の汗は素晴らしい。出来れば拭いてあげたいが、邪魔をしては良くないし、手伝っても成長が無い。僕はブロックの扉を閉めて上に登った。

 

 「んっ?」

 

 今、一機の青いウィザードが戻って来たような。もう公爵の言っていた魔石の確認が終わったのか? 仕事が早いねぇ。きっとソフィアさんが出撃したに違いない。あぁ、僕もソフィアさんのウィザードの整備がしたい。

 

 ウィザードの整備なら僕もしているが、ソフィアさんのウィザードは人気が高く早い者勝ちな所もあって、なかなか順番が回って来ない。フィリスの機体も人気があるが、何故に人気があるか分からない。あいつは人を松明の様に燃やした女だよ。

 

 少し理不尽な思いもしつつ、僕は整備に励む。そんな勤労青年に更なる勤労を強いる放送が全艦に響き渡った。

 

 

 

 「これから全ウィザードの整備に入る!」

 

 全整備班が呼び出され、班分けのある整備控え室に行けばラウラ親方が怒った様に怒鳴っていた。僕達はキリのいい所で終わらせ、遅くはならないで部屋に入ったのに七班で僕だけ尻を蹴られた。パワハラで訴えたい。

 

 「今日、ブルー・チームのウィザードがハミルトン公爵が見付けた魔石の見聞に行った。 だが、魔石に近付く所か見る事も出来ずに魔物の襲撃にあった」

 

 どよめく歓声、響き渡る歌声。今日のライブは絶好調だ! って、えっ!? 魔物の襲撃って、マジッ!?

 

 「中破一機、小破二機だ。明日、二個大隊で攻める。一班、二班はレッド・チーム、三班から六班はブルー・チーム、七、八班はイエロー・チームの点検整備に入れ! 以上だ!」

 

 以上って、魔物の襲撃って本当ですか!? ソフィアさんは大丈夫か!? もし怪我でもしてたら許さねぇぞ魔物が! 僕が…… 僕が整備したウィザードで仇を取ってやる!

 

 あれ? 二個大隊って言ってたな。イエロー・チームは基本的に守りのチームだし、出撃は無しか? 誰が仇を取るんだよ。僕にやらせてくれ! 勿論、戦闘用のウィザードは動かせないけど……

 

 嗚呼、無情。この猛った想いをどうすればいいんだ…… そう言えば中破って言ってたっけ。中破はしたけど帰還したなら大丈夫かな? 誰も死んだとか言ってないし。

 

 悔しいが仕方がない。僕は錬金術師で戦う魔導師じゃないんだ。地味な仕事を正確にやるだけだ。それでソフィアさんの仇を取る! ……だから死んでないって。

 

 僕は七班を連れてイエロー・チームのウィザードの元に行った。リリヤちゃんがいるかと思ったけど魔導師の姿は何処にも見えなかった。

 

 まぁ、整備の様子をジッと見られても恥ずかしいし石化されても困るからね。地味な裏方の仕事を寡黙にこなすしかないな。

 

 「ミカエル、朝の話は覚えているか?」

 

 不意に後ろからジョシュアに声をかけられビクッと驚いた。考え事をしている時に話し掛けられるのは苦手なんだよね。

 

 「覚えているけど、今日はダメそうだね」

 

 「そんな事はねぇよ。終わったら来てくれ」

 

 僕の方のイエロー・チームは数が少ないから早く終わると思うけど、二班しかいないから同じくらいになると思うんだけどね。

 

 「分かったよ。終わったら行くね」

 

 ジョシュアは大袈裟に手を振ってブルー・チームの方に向かった。僕も出来るだけ早く終わらせないと、シャワーの時間も取れないよ。でも、終わった後の合コンの事を考えると仕事にやる気が出てくる。

 

 「働け!」

 

 無慈悲なキックがケツに突き刺さり、僕のやる気を砕く。いつかパワハラで訴えたい。

 

 

 

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