第7章
さて、ラストスパートです(私も)
彼が私の事を以前より知っていたのではないかと感じたのは、オンラインゲームを与えられた時だった。
このゲームは5年程前に流行っていたゲームで、当時はかなりの人気を誇っていただろうが、私が辞める頃には既に衰退していた事を覚えている。
彼は当時中学生くらいだったはずだ。
このゲームをやる為にはかなりスペックの高いパソコンを必要としており、普通の中学生はなかなか手を出さないゲームだった。
だから、監禁されてから数日でこのゲームをあえて与えてくる事に疑問を感じないはずがない。
そして塾での私は、ただの不真面目な先生をしていた。
特にノリも良くなく、私的な相談は受け付けず、自分の世界に入ってくる人間を近づけさせなかった。
普通であれば誰も、私が本当にやりたい事があるなど分かりようがないのだ。
彼の言葉には、いくつかヒントが隠されていた。
無意識なのか知らないが、私に少し思い出して欲しかったのは確かなのだろう。
私はそれを拒否していたのは、意識的なことだった。
昔の自分ならまだしも、今の私では彼を支えてあげる自身がなかったからだ。
でも、彼に情が湧いてしまった。分かってしまった。
気がついた時にはもう遅く、彼をこの部屋に1人だけ残して帰るなんて出来ないところまで来てしまっていた。
だからこそ、彼と話をしなければいけないと思ったのだ。
「先生………」
「うん」
「好きです……本当に」
「知ってるよ」
「どうしても僕と結婚して……ほしいんです」
「いいよ」
「………………え?」
彼は、真っ赤にしていた顔をようやくこちらに向けてきたと思うと、もっと顔を赤くして数秒固まった後にガタッと音を立てて立ち上がって、しかし反動でベッドに倒れこみ、バタバタと私から距離を取った。
「…………え、え?」
「ただし、ちゃんと話をしてくれたらね」
「な、何を、ですか」
このゲームは始めから私が負けるゲームだった。
金銭的にも、物理的にも、精神的にも、全てにおいて、彼の力を借りない限り出ることは出来ない檻に閉じ込められた、私の負けが決まったゲームだ。
だからせめて、少しくらい追い詰めたって文句を言われる筋合いは無い。
「そうだな、例えば
何年前から、私を監禁しようとしてたか、とか
自分がゲーム会社社長の息子である、とか
ゲームで使用している名前は[Aki]だ、とか」
「な、なん……で?」
「ねぇ、アキ。私が『かおる』って呼ばれるの嫌いって言ってなかったっけ?」
「……ご、ごめ」
「何が『また僕の前からいなくならないで』だか、約束を先に破ったのはそっちでしょう!」
「ごめんて、かおりさん!だって貴方が全然変わってなかったから……!」
つまりは、彼は、私が前オンラインゲームで親身に相談に乗っていた中学生であり、毎晩のように遊んいでいた、『ペア』だったという事だ。
お読みいただきありがとうございます!