第6章
昨日はお騒がせ致しました。
未成年を酔わせる為に高熱を選びました。
「ごめんなさい」
「うん、まぁ、熱があったしね」
あの夜、彼にそのまま羽交い締めにされたまま寝た私は、案の定彼に風邪をうつされた。
今は彼の叫び声で起き、その後から彼の土下座を見せられている状態だ。
高森は私に風邪を移したからか、朝驚いたからかで風邪は治ったらしい。あんなにうなされていたのが嘘のようだった。
「本当にごめんなさい、あんな事言うつもりではなくて……しかも我儘を……」
「うん、分かったから、休んでもいいかな?」
「すみません、寝ててください、おかゆ作ります、薬もすぐ用意します」
「ああ、うん、よろしく」
いつもの、少し生意気な彼はどこに行ったのか。
完全に憔悴し、今なら何でも言うことを聞いてくれそうである。例えば、この首輪を取ってほしい……とか。
「…………」
いや、やめよう。
そんな事をしたら後味が悪い。
そう考えた時、やってしまったなぁと思った。
完全に彼に情が移ってきている。
そうだった。
私はもともと人に情が移りやすい人間だった。
だからこそ、個人的な相談なんかもう受けないと決めていたはずだったのに。
監禁されて約1ヶ月が経つ。
いい加減情が移りきる前に、キミと、話しをしなければいけない。
そんな事を私が考えていると、薬を手にして戻ってきた彼がキョトンとした表情で私に話しかけてきた。
「先生?」
「ん?」
「どうしました、体調悪化しました?」
「大丈夫、ありがとう」
「薬、粉しかなくて……飲めますか」
「飲めるけど」
「良かった、置いておきますから、ちゃんと飲んでください」
「はいはい」
しかし、どうしたものか。
体調が悪いせいで上手く頭が働かないみたいだ。
丁度お米がきれていたらしく、彼は買いに出かけるらしい。
慌ただしく走り去った姿を目で見送ったあと、トイレに行くために廊下に出ると、彼の部屋の扉が開いている事に気がついた。
果たしてこれはワザとなのかは分からないが、だが覗くことは禁止されていないと思って慎重に中を覗いてみることにする。
「……これは」
よく漫画である、壁じゅうに自分の写真が貼ってあったとかではないが、壁に私の映像が投影されていた。
しかもこれは私のバイト時代の映像だ。
恐らく隠し撮りなのだろう、私の視線はこちらを見ることなくただカフェの接客をこなしている。
一体どれほど通ったのか知らないが、何回も何回も違う席からの映像が流れていた。
「やばいなこれ」
そう口にした直後、玄関のドアの閉まる音が聞こえてきた。
「あ」
そこには、恐らく忘れ物を取りに来た彼の姿がある。
しばらく驚いた顔をしていた彼だが、段々その状況を理解したのだろう、今まで見たことないような複雑な笑顔で私に笑いかけてきた。
「……かおるさん。僕の部屋……見ましたね?」
「まぁ、そうね。見たけど」
「……気持ち悪くなりました?」
「いや?うーん、まぁ、変な事してるなとは思った」
「……………………」
横を向いたまま何も言わなくなった彼を、私は引っ張って部屋のソファに座らせてみる。彼は顔を下に向けたまま微動だにしない。
いつもの高森ではないと、流石にダメな大人を演じきるには不都合だ。
私はため息をついて彼の横に座った。
「……高森くん、少しお話をしようか」
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