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素晴らしい老後  作者: りょう。
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第4章

昔のはなし

「そう言えば、相談があるのですが」

「ん?」


ボロネーゼパスタを口に運んでいると、彼はいつもより少し曇った顔で話しかけてきた。


「父が会社を継ぐように言ってきているのですが、どうしたら良いと思いますか」

「そんな事しらないよ、好きにしたらいいじゃない」

「将来の奥さんなんですから、ちゃんと答えてくださいよ」

「なるとは言ってない」

「じゃあ相談だと思って。以前はよく相談に乗ってくれてたじゃないですか」


彼のその言葉に、相談なんかしていただろうかと頭を巡らせた。

塾講師としての相談は仕事上行っていたが、人生相談は面倒だと断っていたはずである。


「相談?」


私が尋ねるように言葉をかけるも、彼はにこやかに笑うだけだ。自分で考えろと言われているようで居心地がわるい。

それ以降口を開かなくなった彼から逃げるように、急いでパスタを平らげて何も言わずに席を立った。



そういえば、と思い出したのは食後にゲームを始めた時だ。

昔このゲームをやっていた時に相談を乗っていた事がある。何人かの相談を受けていて、その相談相手になる事にやりがいを感じていた気持ちが蘇った。


あの頃はとても楽しかった。

大学院に進学して、たくさんの人に貢献するんだと意気込んで、そして……。


悔しいが高森の言う通り、今の仕事はやりたい事ではない。

本当はもっと……。

いやでも、今の仕事でも初めはここでもしっかりと働くと思っていたのだ。


しかしどうだ、今高森に捕まって、こんな環境に置かれて、少し安堵する自分がいる。

こんな事されてはどうしようもないのだから、仕事を辞めた事は仕方がなかったのだと、思っている。


「…………」


ただのダメな人間だ。

楽な方向に流されて、何もせず、甘やかされる生活なんて、昔の私では考えられなかった。


誰よりも人のために生きたいと願っていたあの頃から何を間違えてこうなってしまったんだ。


今の『私』は、本当にこのままで良いと思っているのか。


「素晴らしい……」


素晴らしい老後なんてこんな私に、訪れることなど絶対にあってはならない。


蔑む様な目で『私』が私を見ているようなそんな感覚に、少しだけ寒気を覚えて目を閉じた。



お読みいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] ああー、この状況に慣れてきちゃいましたね。 ストックホルム症候群みたいになっちゃったんですね。 これも含めて高森くんの計算なんだとしたら、本当に怖い男の子ですねw
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