第2章
目を覚ますと目の前には私が昔やり込んでいたゲームの表示されたPCが置かれていた。
昔からあるオンラインゲーム。
数々やってきたオンラインゲームの中では最も長くやっていたものだ。
「なに、これ」
「ゲームですよ。これで少しは暇を潰せるかなと思って」
そう言うと彼は塾に向かうためなのか、いつも良く見るリュックを手に取り肩にかけた。
「オンラインゲームだけど」
「ああ、監禁バレちゃうの心配してくれているんですね」
「…………」
「大丈夫ですよ、色々パソコンに工夫してるので、特定の文字は打てませんし何かあればすぐ僕に連絡が来ます」
「工夫ね……」
「そもそも、その首に付いている機械がこの部屋の外に出た瞬間に先生を気絶させちゃうし、僕もその機械操作できるので」
「きぜ……」
気絶なんてと、声に出そうとした私の真横に膝をついた彼は、私の首に手を近づけようとした。反射的に手で払うと、その手を掴まれて彼の方に引っ張られる。
「会社、退職していただきました」
「は?!」
「だって、貴方がやりたい事はあれじゃないでしょう」
何も言えなくなった私に、彼は顔を近づけてニコニコと笑っている。その顔からは、私のためにやってあげた事を喜んでいるような様子があった。
職を失っては逃げ切れたとしても生活ができない私の状況を、お前は喜んでいるというのか。
「大丈夫ですよ、貴方が必要とする物は全て僕が用意してあげますから」
そう言って更に薄く目を細めると、より嬉しそうに彼は笑った。
「…………塾に、行くんじゃないの」
「ああ、そうでした。何か欲しい物があったらこれに連絡ください」
「何これ」
「これは携帯です」
「……」
「僕にしか連絡できませんよ」
彼は空いた手を私の頭に乗せると優しく髪を梳いてきた。そして私の顎に手を当て目を合わせてくる。
「大人しくしてて、薫さん」
「______!」
ゾクリと何かが背中を通った。
固まった私にいつもの優しい笑顔を向けると、彼は立ち上がって部屋を出て行く。
そういえば腕にはめられていた手錠は外されていたのだと気がついた時には、私はゲームに手を伸ばして操作をしていた。私の心はここにあらず、現実逃避をしなければならないほど心が疲労していたのは確かである。
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