最終章
最後です。
この法案が始まってから初めて、30歳を超えて数ヶ月経ってから、未成年の少年と結婚した女性が誕生した。
その女性は一時行方不明となっており、見つかってすぐのその少年の誕生日に結婚した事から、その少年と結婚をする為に一時的に行方を絶っていたのではないかと言われている。
30歳を超えてからの恋愛結婚というあまりにドラマチックな出来事を祝福しない者はいないだろう。
彼女のその諦めない心に、世間は絶賛し、感動させられたとの声が多い。
パサリと新聞を机に置くと、高森瑛は私の方を見つめた。
「ほら、僕らの事が新聞になってますよ」
「うーん……これおかしくない?私が必死だったみたいじゃない」
私が結婚を承諾してから、約一ヶ月後、高森の誕生日に私達は正式に結婚をした。
役所の人間に見つかる前に婚姻届を出した事で、罰金については免除、となったらしい。
今回の件を受けて、今後は婚約などの規約も作り、30歳で未成年の恋人がいるケースは一定期間の結婚を免除する内容を組み込む方針のようだ。
「今まで監禁されていた相手と結婚なんて前代未聞だわ」
「そんな人間を許してくれるかおるさんも、特殊なんですよ」
「………あの状態で逃げられる人間なんか居ないでしょ」
「あの状態を許してくれることが特殊だって言ってるんです」
それもそうかと思った。
監禁なんてしてくる頭のおかしい人間と結婚を決めたのは私だ。だけれど私には彼との話し合いが解決すれば、その生活に全く支障がなく、ある程度穏やかに過ごしていけると見込んでの承諾でもあったのだ。
だからきっと問題ないはず、である。
しかし、昨日結婚をしたが未だデートなどもした事がないなんて、契約結婚とさほど変わらなかったかもしれないと考えていると、目の前に高森がずいと現れた。
「ん?」
「僕、昨日誕生日だったんですよ」
「ああ、そうだったね、おめでとう」
「…………プレゼントを」
「なんて言っ__」
小さく何かを呟いた彼の声を拾おうとして私が少しだけ屈み込むと、急に首元が引っ張られる。直後、唇に柔らかい何かが触れたような感触があった。
「……へへ」
「な……」
「やっと、僕のものだ」
「…………」
あれ、おかしい。
すでに首元からは機械音はしていないはずなのに、今再び彼に首輪をつけられた感覚がした。
ゆっくりと倒される、視界に広がるのは彼の姿だけ。
その顔はあまりに子供のようで、心のざわつきが治らない。
___これは、もしかして選択を失敗した?
恐らくもう、取り返しのつかない状態だと理解させるまで、あとどれくらいの日数をつかおうか。
そして改めて私は思う。
全く、これだから『素晴らしい老後』なんて、と。
さて、最後薫は何を思ったのでしょうか。
彼女達に最大の『素晴らしい老後』が訪れることを祈って。
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